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特集(制度関連)

「経済財政運営と改革の基本方針2022」を内閣が発表! 有識者がズバッとジャッジ!今年の”骨太の方針”で介護業界が変わる!

2022.07 老施協 MONTHLY

今回は、通称“骨太の方針”と呼ばれる、今年度の同方針への期待や不安を経済学者の権丈善一氏、社会福祉学者であり公益財団法人テクノエイド協会の理事長も務める大橋謙策氏、公益財団法人全国老人福祉施設協議会の介護保険事業等経営委員会委員長で、社会福祉法人健祥会の桝田和平氏の各分野を代表する3人の有識者に伺った。介護業界の未来に必要なものとは?


6月7日に開催された第8回経済財政諮問会議内で骨太の方針が岸田文雄内閣総理大臣から発表された
写真=毎日新聞社/アフロ

骨太の方針とは

 第一次小泉政権時の2001年度に始まった、時の政権の重要課題や次年度の予算編成の方向性を示す方針。首相が議長を務める経済財政諮問会議で、各省庁ではなく官邸主導で毎年6月頃に策定される。宮沢喜一財務相(当時)が同会議の議論を“骨太”と表現したことから、骨太の方針と呼ばれるように

全世代が安心して生活できる介護・医療・育児の構築へ

 今年度の骨太の方針を見た、社会保障政策のスペシャリストである慶應義塾大学商学部教授の権丈善一氏は、全世代型社会保障という言葉の使い方に着目。介護保険の役割を正確に理解するチャンスだと期待しているという。

権丈「今回の骨太の方針の中の社会保障の部分には、全世代型社会保障は『成長と分配の好循環を実現するためにも、給付と負担のバランスを確保しつつ、若年期、壮中年期及び高年期のそれぞれの世代で安心できるように構築する必要がある』と書かれています。これは、私も参加している全世代型社会保障構築会議と公的価格評価検討委員会の資料に基づいているもので、内容としては問題ないと思います。全世代型社会保障という言葉は以前から使用されていましたが、今回は若年期、壮中年期及び高年期のそれぞれの世代で安心できるように構築する必要があるというふうに明示されました。それはなぜかを説明するためにある数値を紹介します。’14 年に厚生労働省が作成した【国民医療費】【介護給付費実態調査報告】から、’18 年に私が算出した【累積人口分布】と【累積国民医療費】【累積介護保険給付費】を見ると、人口の25%しかいない65歳以上の人たちが【国民医療費】の58%を使用し【介護保険給付費】の98%を使っていました。しかし、こればかりは仕方のないこと。高齢期になると医療・介護費を使用することは分かり切っているのですから、若いときから負担して消費を平準化している。それが公的な医療・介護保険の役割です。これまで年金は長期保険で、医療と介護は短期保険という考え方できましたが、今回の骨太の方針では“医療も介護も年金と同じ長期保険だと考えていく必要がある(下の図)”としたところに、大きな意味があります」

【有識者の目】権丈善一氏が提案する子育て支援連帯基金の財源候補
権丈氏は「消費の平準化のため介護・医療保険も年金のような長期保険という考えに切り替えることが大事で、連帯には現在対象ではない世代も組み込むことが重要」だという。また、将来の給付水準を高めるために、年金、医療、介護といった各社会保険から“子育て支援連帯基金”を捻出することが大切と語ってくれた。また、桝田氏も「(子育て世代も介護が必要な世代も)お互いに子育てのための医療保険と介護保険を払うなら納得するのではないかと思う」と、コメント。子育て政策と介護・医療は密接な連動が欠かせなくなる。

それぞれの地域活性にどうつなげていくかが大切

 地域福祉の専門家の大橋謙策氏も、権丈氏と同じく今回の骨太の方針に好感触を持っている一人だ。

大橋「私は’60 年代から、縦割りの属性分野ごとの社会福祉ではなくて地域での自立生活を支援する新しい社会福祉の在り方としての地域福祉を専門に研究、実践してきました。一方、公益財団法人テクノエイド協会の理事長として、介護ロボットや補聴器など福祉機器全般の研究、普及にも努めております。その立場から骨太の方針を見た場合、包摂社会の実現、多極化・地域活性化の促進、人的資本投資、さらに細かく言えば女性の活躍、難聴対策、成年後見制度、心のバリアフリー、アウトリーチ型のアプローチ、地域と学校の連携など、50年にわたって私が取り組んできた事案が数多くキーワードとして取り入れられているので、非常に評価できます。ただ、これは国単位での方針ですので、今後それぞれの地域活性にどうつなげるかは、注意深く見守っていかなければなりません。人材不足の問題一つ取っても、各地域で均等に不足しているのではないわけで、その地域に合った方策を考えるためには縦割りを廃し、属性を超えた社会福祉事業者、社会福祉施設が一緒になってその地域にどういう貢献ができるかを考えていく必要があると思っています。その意味で、常々私は『福祉“の”まちづくり』ではなく『福祉“で”まちづくり』という発想を提唱しています。このことを、ぜひ老施協はじめ介護・福祉に携わる事業者の方々にも考えて、実践していっていただけたらと思っております」

【有識者の目】今後の介護業界に大橋謙策氏が期待すること

過疎地の特養などでは、家族や親族がいなくなり、遺骨の取り扱いやお墓の維持など、深刻な問題が増えてきています。こういうことにはケアワークの知識だけでは十分ではないので、ソーシャルワークも相互乗り入れをして汎用性を高めていくことが必要。2015年の厚生労働省の新たな福祉提供ビジョンの中では、専門職種の相互乗り入れなどが提案されていましたが、今回の骨太の方針はそこまで踏み込んでいないのは少し残念。また、日本の社会福祉は憲法25条の最低限度の生活保障から来ているので、「最低限度の生活維持をしてあげればいい」という発想になりがちです。25条も大切ですが、「何人も幸福を追求する権利」を謳っている13条に基づき、その人の自己実現を保障することが我々のケアであり社会福祉だと思います。

自分たちがどう変わるかが各介護施設にとって大切に

 一方、介護現場を知る桝田和平氏は危機感を募らせている。

桝田「全世代型社会保障という部分がより強くなり、介護に力点が置かれていた部分が子育て支援へと変わってきました。しかし、制度としては団塊の世代が75歳になる2025年問題はもう過去の話で、次は2040年問題になってくるので、どうしても子育て支援にウエートを置かざるを得ません。ですから、包摂社会の実現と全世代型社会保障という2つのキーワードが方針の全体を物語っていると思います。また、公的介護保険制度の開始から20年以上たち、介護業界は成長期から成熟の時代に入ってきました。しかし、それは事業主にとって決していい意味ではなく、方針の中のワイズスペンディングとエビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング(EBPM)が示す通り、求められるものが変わってきていたことを指します。内閣府におけるEBPMは、確固としたデータに基づいて介護医療ができているかということ。そしてワイズスペンディングでは、効率的な介護が求められています。福祉は困っている人を助けるのが大前提ですが、助ける中身にエビデンスがないと予算をつけてもらえない。これまでの福祉関係者にとっては不慣れで厳しいもののため、自分たちがどう変わっていけるかに懸かっていると思います。そして、介護業界は縮小していくのか否かが、世間一般的な課題になると思います」

 また、桝田氏は前出の権丈氏と同様に、介護を支える負担の問題にも着目する。

桝田「高齢者は徐々に負担が高くなり、支える側もいつまで世話をし続けなければならないのか?という感覚になる。介護保険料の負担は40代からですが、国民全体に支えてもらうのが理想。なので、段階的に年齢を引き下げてもらうのも一つの方法なのですが…」

 介護職員が32万人不足すると言われている2025年問題を前に、新しいステップへと入らざるを得なくなった介護業界。有識者が語ってくれた通り、地域活性における介護福祉施設の存在、介護保険料の在り方など、私たちが抱える問題は数え切れない。国主導の政策はもちろんだが、各事業者がさらに考えて行動しなければならないフェーズに来たようだ。


取材・文=及川静、重信裕之