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第13回 新人職員や若いスタッフのやる気を上手に引き出すには、どうしたらいい?
2023.04 老施協 MONTHLY
健康社会学者として活動する河合 薫さんが、介護現場で忙しく働く皆さんへ、自分らしく働き、自分らしく生きるヒントを贈ります。
若手も実は悩んでいる!? 「居場所がない」との本音も
――最近の若い人って、やる気があるのかないのかよく分からないんですよね。みんなすごくいい子だし、とても真面目です。でも、いきなり辞めちゃったり、「本日付で退職します」ってメール一本で済ます人もいます。若い人を辞めさせないためにどうしたらいいのか。どのように接したら、彼ら彼女らがもっと頑張れるのか。褒めて育てるを、実践してるのですがなかなかうまくいきません。【介護士歴12年古賀さん(仮名)】
「若い人問題」は介護の現場だけではなく全ての企業の大きな課題だ。かつては「石の上にも三年」なんて言葉が使われたりしたけれど、「3年も? そんなの無理」が今どきの若者たち。どこの企業も社員の平均年齢が高齢化しているので、何とか踏ん張ってほしいのに手応えがない。一昔前なら「それって何の意味があるんすか〜?」と先輩や上司に盾突く、少々鼻息の荒い若手もいたけれど、今の子たちは、なぜか皆いい子! とても優しくて、真面目で、一生懸命なのに、突然何の前触れもなく〝消えて〟しまうのだから、さて困った。
ベテラン社員には異次元の存在に思える若手も、実はとても悩んでいる。「私は求められているのだろうか?」「私のやってることで本当にいいのだろうか?」とまるで暗闇の回廊を歩かされているよう。「居場所がない」が本音なのだ。
そもそもどんな仕事であれ、外から抱くイメージと実際の仕事にはギャップがあり、それが若い新人クンたちのストレスの雨になる。これは「リアリティー・ショック」と呼ばれる現象で、仕事内容だけじゃなく職場の人間関係も含まれている。人間関係というと、「親しくなること」と思われがちだが、新人が求める人間関係とは、「ここに私がいる!ことに気付いてほしい」「私の存在をちゃんと認めてほしい」というアテンションであり、周りからの敬意だ。
新人である若い彼ら彼女らは、「あなたのことちゃんと見てるよ!」と感じたいだけ。たった一言「ありがとう」と言われたいだけ。「おはよう!」と笑顔で言ってくれる先輩や、「いつも頑張ってるね!」とねぎらってくれる上司がいてこそ「居場所」ができる。そして、「これ、やってごらんよ」と、具体的な役割を与えられ、職場のメンバーが縁の下の力持ちとなり支えてくれれば、「もっと頑張ろう!」とやる気スイッチも点灯する。とにもかくにも若手に一言でいいから声を掛けて! 愛をケチらずに! ぜひ。
健康社会学者(Ph.D.)/気象予報士
河合薫
Profile●かわい・かおる=東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士として「ニュースステーション」(テレビ朝日系)などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究に関わるとともに、講演や執筆活動を行う
イラスト=佐藤加奈子