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みんなの気持ち

第12回 転勤、退職される方へ、感謝やねぎらいの気持ちをどう伝えたらいい?

2023.03 老施協 MONTHLY

健康社会学者として活動する河合 薫さんが、介護現場で忙しく働く皆さんへ、自分らしく働き、自分らしく生きるヒントを贈ります。

「生きた言葉」ほど、すてきな贈り物はない。“あなた自身のストーリー”を伝えてみて!

私たちは他者を通してしか 「自分」に確信が持てない

 年度末は異動の季節。一緒にやってきた仲間、お世話になった先輩に感謝の気持ちをどう伝えたらいいのか、と悩む人も多いはず。そこで参考になりそうなお話を今回はしようと思う。

 ─私は会社に大した貢献もできなかった。目立たない存在でしたし、同期でも私のことを覚えてないやつらもいるんじゃないですかね(笑)。でも、退職の日に「僕、星野さんがいるから、頑張れたんです。星野さんの仕事との向き合い方が好きでした。ありがとうございました」って、30代の若い人に言われました。びっくりしましたよ。そんなこと言われたことなかったしね。でもね、思いがけない一言に私は救われました。こんな自分でも、ここで働いていた意味があったんだなって。何かね、無性にうれしかったです。

 静かな口調でこう話すのは星野さん(仮名)だ。星野さんの会社員生活はイケイケでもなければ、華々しいものでもなかった。出世もしなかったし、会社から表彰されたこともない。そんな星野さんの会社員人生に「光」をともしたのが一人の社員の一言だった。

 誰だって誰かに必要とされたいし、誰もが誰かの役に立ちたいと願う。「あなたがいてくれたから」という言葉は、自分の存在に意味を与え、「人生思い通りにはならなかったけど、捨てたもんじゃない」と思わせてくれる最高の褒美だ。

 人間というのは、実に厄介な動物で、「他人の評価なんか気にするな」と思う一方で、「他人に認めてほしい」と願う。「放っておいてほしい」と思う一方で、「自分の存在に気付いてほしい」と願う。他者の存在を「めんどくさい」と思う一方で、他者に頼られるとうれしくなる。他者とつながることで社会を築いた私たちは、他者のまなざしを通してしか、「自分」に確信が持てない。だからこそ「あなたがいてくれたから」というメッセージが貴重なのだ。

 ついつい私たちは気の利いた言葉を伝えたい、相手が喜ぶプレゼントをしたいと、スキルやテクニックに走りがちだ。しかし、「生きた言葉」ほど、すてきな贈り物はない。心の底から紡がれた言葉には相手の感情を動かす強い力がある。どんな高価なものをもらうより、どんなに褒めたたえられるより、現実のストーリーが欲しい。「あなたがいてくれたから、私は○○できた」という〝あなた自身のストーリー〟を伝えてみて。あなたが言葉に自信を持てば、すてきな送り手になれること間違いなし!


健康社会学者(Ph.D.)/気象予報士

河合薫

Profile●かわい・かおる=東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士として「ニュースステーション」(テレビ朝日系)などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究に関わるとともに、講演や執筆活動を行う

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イラスト=佐藤加奈子