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みんなの気持ち

第6回 豪雨や地震などの災害から、どうやって利用者を守っていけばいいのか?

2022.09 老施協 MONTHLY

健康社会学者として活動する河合 薫さんが、介護現場で忙しく働く皆さんへ、自分らしく働き、自分らしく生きるヒントを贈ります。

利用者の安全を守るにはスタッフだけでは困難な状況

 ’20年7月。熊本県の球磨川流域ではわずか2日間で1カ月分の猛烈な雨が降るなど、西日本、東日本の広い範囲で記録的な豪雨になった。今年も各地で異常な雨が繰り返されている。私がニュースキャスターである久米宏さんの隣でお天気お姉さんをやっていた’90年代後半は、「1時間100ミリの雨」はトップニュース。めったにない雨だった。「河合、100ミリの雨を体験してこい!」とプロデューサーに言われ、筑波の防災科学技術研究所から生中継したときに一瞬で膝まで雨水がたまり、後ろに積まれた土砂が崩れ、集中豪雨の怖さを思い知った。最近、天気予報で頻繁に使われる「線状降水帯」とは、そんな集中豪雨が同じ場所で繰り返されること。「天災は忘れた頃にやって来る」と戒めたのは震災の研究を行っていた物理学者であり文学者の寺田寅彦だが、今じゃ「忘れる間もない」ほど天災と背中合わせの日常が回っている。

「防災リーダーを決め、タイムラインも作るなど、利用者さんを守るための対策は取っても不安が尽きません。先日地震があったときも私なりにマニュアル通りに対応したのですが、利用者さんが『怖い、怖い』ってずーっと言っていて。なんか申し訳なくて…」

 こう話すのは介護士3年目の増田さん(仮名)だ。自分の身を守るだけでも難しいのに、高齢者福祉施設のスタッフには本当に頭が下がる。防災訓練をやろうにも年を取ると「訓練とリアル」を区別するのも難しい。環境の変化で体調も心の状態もダメージを受けるので、避難した後も気掛かりだ。そもそも特養の利用者は要介護3以上。「高齢者」とひとくくりで避難を考えること自体危険だ。

 もはや高齢者福祉施設のスタッフだけで頑張るのは無理。利用者さんを守るためには、地域住民の「傘」を借りてほしい。

 冒頭の豪雨で熊本の高齢者福祉施設では14人の方が犠牲となってしまったが、地域住民の支援で56人の利用者が助かっている。施設の防災計画の中に住民に加わってもらっていたため、豪雨当日には20人以上の住民が集まり、利用者の避難を助け、夜通し手を握るなどして恐怖から守ったという。

 かねて「村祭りの多い町は災害に強い」という言葉がお天気の世界にはあった。人と人のつながりがあってこそ危機は乗り越えられる。地域住民との顔の見える関係を、施設長さんは率先して作っていただきたい。秋祭りもぜひ。


健康社会学者(Ph.D.)/気象予報士

河合薫

Profile●かわい・かおる=東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士として「ニュースステーション」(テレビ朝日系)などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究に関わるとともに、講演や執筆活動を行う

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イラスト=佐藤加奈子