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第2回 感情的な相手にはどう向き合う? ネガティブなやりとりを避けるには?
2022.05 老施協 MONTHLY
健康社会学者として活動する河合 薫さんが、介護現場で忙しく働く皆さんへ、自分らしく働き、自分らしく生きるヒントを贈ります。
心を静める時間を持って良いコミュニケーションを
元気な職場の空気は温かいーー。これは全国津々浦々、1000社以上を講演会や取材で訪問して感じたこと。一歩踏み入れた途端、心が和む。「いい職場だなぁ」と理屈なしに思えるから不思議だ。私たちはあまり気にしていないけれど、体と心は相手の気持ちや動作に共鳴する。このプロセスは〝感情の伝染〟と呼ばれ、心は「私」に宿るのに、他者に左右されることもあるのだ。
介護現場の〝温かい空気〟は、間違いなく利用者の笑顔への妙薬になる。が、「じゃあ、頑張りましょ!」とおいそれとできないのが人間だ。
「いつもはニコニコしているのに、少しでも自分のやり方と違うと、すごいけんまくで怒る先輩がいます。『同じやり方をしないと利用者を混乱させる』って。会社には何度も相談したけど、効果なし。介護のやり方って人それぞれだし、自分のやり方を押し付け、あたかも私のスキルが低いような言い方をされると嫌になります」
こう嘆くのは介護経験5年目の30代の女性だ。怒る先輩の言い分も理解できる。しかし、女性の言う通り、ヒューマンサービスの現場に「これだ!」という正解はない。常に学び、経験を積み、利用者といい関係を築くことが、結果的にいいサービスをもたらす。無論、職員同士の情報交換や、先輩から後輩への技術移転も貴重なリソースである。が、そこにどんな「熱い思い」があろうとも真意が伝わらなければ意味がない。怒りをぶつけられれば怒りが湧くし、自分が否定されれば相手を否定したくなる。コミュニケーションと感情の伝染は、切っても切れない関係で、「私」は感情の送り手にも受け手にもなることが可能なのだ。
ネガティブな感情の伝染を防ぐにはどうすればいいか。
テレビ画面のテロップのように、“おでこ”に言いたいことを書いて(思い浮かべて)から口にすればいい。人間の感情をコントロールする前頭葉が機能するには5秒ほどかかるので、おでこに書いているうちに怒りが消えるのだ。話題のアンガーマネジメントの6秒ルールも、この脳のメカニズムを利用している。
実はこの「おでこ方式」は、私がテレビやラジオのお仕事をメインにしていたとき、久米宏さんから教わったものだ。生放送は時間との戦いである一方、失言も許されない。そんな厳しい状況だからこそ、おでこに書く時間を意識的につくると、視聴者に届く言葉を奏でられる。
先輩の怒りも「私」の感情で鎮まるはず。ぜひ、お試しあれ!
健康社会学者(Ph.D.)/気象予報士
河合薫
Profile●かわい・かおる=東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士として「ニュースステーション」(テレビ朝日系)などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究に関わるとともに、講演や執筆活動を行う
イラスト=佐藤加奈子