アーカイブ

介護現場NOW

ポストコロナの介護人材確保について考える③ 外国人介護人材に日本で活躍してもらうためには?

2024.03 老施協 MONTHLY

人材不足に苦しむ介護業界に外国人活用は必要不可欠
外国人材の日本語教育を充実させ、日本永住を図るべき

外国人介護人材に対してのニーズや期待は高まっている

 日本の介護業界での外国人活用は、年々増加の傾向にある。’19年に導入された在留資格「特定技能」で働く外国人が急増しているが、’20年のコロナ禍により、海外から日本への外国人材の受け入れが難しい時期があった。

 現在は、コロナ禍前の外国人受け入れ拡大傾向に戻り、深刻な人材不足に対して、労働力としてのニーズや期待は高まっている。

 全3回のシリーズでお届けしている「ポストコロナの介護人材確保について考える」の第3回となる最終回は、外国人介護人材の今後の展望について考えていく。

 外国人の活用に伴う諸課題の一つに、言語の壁がある。国家試験の介護福祉士試験は、日本語で出題される。漢字に振り仮名や、試験時間の延長などはあるが、日本で介護を行う上で、必要な日本語の能力は試される。

 介護福祉士となり在留資格「介護」を取得すれば、在留や家族の呼び寄せもできるため、試験合格を目指す外国人は多く、試験対策の塾では、外国人の生徒も多い。

 また、令和4年度の第35回介護福祉士試験では、EPA候補者の合格率が前年度の36.9%から65.4%に急上昇。第36回の筆記試験では、難解な歴史問題より介護実践に関する問題が多かった。介護士の多様化、国際化を見据えての出題ともいえる。

 令和4年度のEPA候補者の合格者は754人。さらに令和5年度の試験で合格者が増えれば、労働力の確保に期待が持てる。しかし、外国人介護人材が日本で永続的に働けるかどうかは、制度の運用次第で決まってくる。

 今回も、社会保障や外国人の労働環境に詳しい日本女子大学教授の周燕飛先生にお話を伺う。

現役職員による座談会【介護現場のリアル】

外国人介護人材が日本で働く意義や不安は?

サ高住の従業員Aさん(フィリピン人)とBさん(日本人)。共に働く従業員として、文化の違いや働く意義について聞いてみた。

A「私は国の代表として、最初日本で技能訓練を受けたら、地元に戻って日本で学んだ介護技術を広めるつもりだったけど、介護福祉士試験に挑戦してみたいと思う。ただ日本語は漢字、平仮名、片仮名の3つがあるし、最初は高齢者の声が聞き取れず、会社の人にお願いして聞き取ってもらったり、すごく不安にも思った。今は日本の人と結婚したので、このまま介護従事者として頑張っていきたいと考えています」

B「技能実習生は、とても熱心に介護技術を学び、勤勉。日本語の聞き取りやニュアンス、日本独特の風習は難しいのでサポートするよ」

在留資格「特定技能」での外国人受け入れが急拡大

 介護人材不足の解消策として、現在、外国人材に熱い視線が注がれている。政府の統計によれば、’23年6月時点で、介護分野で働く外国籍労働者は約5万人。在留資格別で見ると、2割強は「EPA介護福祉士・候補者」と「介護」、残りの8割弱は「技能実習」と「特定技能(1号)」である。とりわけ、特定技能での外国人就労が急増しており、介護分野で働く全外国人の半数に迫る勢いである(図1)。

【図1】介護分野の特定技能外国人在留者数の推移
出典:厚生労働省「介護分野における外国人の受入実績等」(2023.3.29)出入国在留管理庁の統計ほかより筆者が作成

 政府の方針により、賃金不払いや失踪など問題の多い「技能実習」から「特定技能」へのシフトが進んでいる実態がうかがえる。

 介護分野従事者214.9万人(’21年度)のうち、外国人の割合は2%と必ずしも高くはないものの、その伸び率を考えれば、近い将来、介護業の外国人割合は、サービス業や製造業と同じく5~6%程度(10万人規模)に近づくことが現実味を帯びてきた。

外国人活用が進む背景に毎年5万人の人材不足

 外国人活用が進む背景には、深刻な介護職人材の不足がある。厚生労働省「第8期介護保険事業計画」(’21年)によれば、’25年度までに国全体で毎年約5万人の人材不足が見込まれ、以降は毎年約3万人(~’40年度)の不足が続く見通しである。これほど大規模な人材不足は、女性や高齢者の就労増加では対応しきれず、どうしても外国人に頼らざるを得ない状況にある。

 より多くの外国人を介護分野に呼び込むため、介護福祉士を目指す留学生への資金貸付や相談支援の強化、送り出し国への情報発信の拡充等、国は外国人の受け入れ拡大に向け環境整備を進めている。

 一方、課題も多く残されている。介護利用者側にとっては、意思疎通への不安、偏見や先入観等によって、外国人介護者への抵抗感が生じやすい。読売新聞が’19年に行った調査によれば、外国人に介護してもらうことに抵抗を「感じる」と回答した日本人は、実に59%にも上っているという。

 介護事業者側から見ると、外国人の活用によって、「労働力の確保ができる」「職場に活気が出る」といったメリットがある一方、「できる仕事に限りがある」「利用者との意思疎通に不安がある」といった課題も抱えている(図2)。

【図2】外国人の活用有無別、事業所が思う外国人活用のメリットとデメリット(%,複数回答)
出典:介護労働安定センター「介護労働実態調査(2022年)」(事業所調査票)より筆者が作成

 そこで、鍵となるのは、外国人介護職員に対する日本語教育である。言語の壁を乗り越えられれば、上記の課題解決も容易となる。難易度順に、まずは「日常生活に必要な日本語」、次に「介護業務に必要な日本語」、最後は「国家試験に必要な日本語」を身に付けられるよう支援していくことが大切である。

ゲストか永住者となるかは今後の制度運用改革次第

 技能実習も特定技能も滞在できる期間は最長5年である。日本で永続的に働きたい場合、国家資格である介護福祉士を取得し、在留資格を「介護」に変更する必要がある。しかし、これまでの合格率を見ると、それは極めて狭き門である。

 これまで通り外国人をゲストワーカーとして使うか、それとも大胆に改革し、外国人介護者に永住の門戸を広げコミュニティーの一員として受け入れるのか、そろそろ決断の時が来ている。これまで、制度面では大胆な改革が行われる一方、実際には、運用面で旧来のスタンスを崩さず、実質的に改革が先送りされてきた。しかし、この介護人材不足の深刻さを考えると、いつまでも足踏み状態でとどまることは許されない。今後の運用改革に注目したい。

今月の回答者
周 燕飛さん

日本女子大学
人間社会学部 教授

周 燕飛さん

Profile●しゅう・えんび =2001年大阪大学国際公共政策博士。労働経済学、社会保障論専攻。著書に『母子世帯のワーク・ライフと経済的自立』(JILPT研究双書)、『貧困専業主婦』(新潮選書)など。2021~2022年度社会保障審議会児童部会臨時委員

(備考)本稿の作成に当たって、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターより個票データの提供を受けた


取材・文=一銀海生