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【INTERVIEW】株式会社KNDコーポレーション 代表取締役社長 神田 充
2023.04 老施協 MONTHLY
今回訪ねたのは、1964年創業という老舗物流会社、KNDコーポレーション。一戸建て市場をメインに、建築資材加工、運送、および施工までを一手に担う珍しい会社だ。聞くところによると、通常は物流と施工は別な会社が行うものだという。さらに特筆すべき事業が、外国人実習生教育プログラム、および現地訓練施設を独自に運営し、自社のみならず幅広く建築業界に人材を送るというビジネスだ。この“物工人ソリューション”を手掛ける、神田社長に詳しくお話を伺った。
金額だけではない評価を、きちんと伝える
そこに日本人、外国人という区別はありません
物流、施工、人材育成 全てを一体にして請け負う
会社は’64年創業だが、資材運送だけでなく、施工まで手掛けることになったのは、現在の神田充社長入社後の’95年からだという。
神田「うちのメインのお客さまが大手建材、住設メーカーさんで、当時ユニットバスの配送をしていたんですが、その先の組み立て、施工まで一貫でできないかというお話があり、それを形にしたのがうちだけだったんです。運送と建築はそもそも業態が別ですから」
やり手の神田社長は、次に建築業界でも深刻な人材不足の解決策に着手。外国人実習生の受け入れにとどまらず、現地に人材育成システムを構築し、このシステムを業界他社の人材育成まで手掛けるビジネスへ広げる。こうして、唯一無二のビジネスモデル“物工人ソリューション”が誕生した。
神田「’14年のことですが、当時、日系企業の進出先として“アジア最後のフロンティア”と注目されていたミャンマーに視察に行く機会を得まして、どうせならただ行くんじゃなくて実習生を採ってこようって思ったんです。独自のルートで現地の送り出し機関も見つけて、1期生として5人を採用しました。国内ではいわゆる監理団体が、実習生のサポートをする仕組みですが、そうしたところからいろいろ話を聞きながら、できるだけ総務人事的サポートも自分たちでやろうと決めたんです。日本語能力試験でN5とかN4のレベルの人たちですから(日本語能力試験はN1からN5まで)、漢字でいうと小学生1年か2年くらい。だからマニュアルも全部平仮名に直したりして、時間をかけてじっくり教えるようにしました。精神面のケアも大事なので、一緒に社員旅行したりとかね。それ以来11期にわたって受け入れは続いていますが、今思うと1期生が一番大事ですね。その後の成功のポイントは1期にあると思います」
そして翌’15年、次のステップへ進む転機が同社に訪れる。
神田「現地に日本による技能訓練校を設置し、ミャンマーでのODAを後押しするという提案がJICAの実証事業に採択されたんです。ODAといっても現場を担当するのは現地のサブコンとかですから、そこの技術を底上げしようと。埼玉の『ものつくり大学(製造業、建築業技術者を輩出するために’01年に設立された)』をパートナーに選んで、コンサルも入れずに2回目で採択されたんです。周囲からはミラクルだと言われましたね」
JICAとKNDコーポレーションによる“日本水準の建築技能訓練者育成プログラム”は’17年に始まり、その後の2年3カ月ほどの間に、現地で371名の卒業生を送り出すことになった。
同業他社へ向けて優秀な外国人実習生を育成する
神田「こうしてミャンマーの若者に日本の建築技術を教えるノウハウができたので、今度は外国人実習生として日本に赴く若者向けに、私たちのプライベートな施設を造って、カリキュラムも独自に組んでビジネスにしました。これまで約55社400名近くの人材を育成しています。実習生が日本に来る前に、現地で1カ月のカリキュラムを組んで効率的に指導し、日本に来たときから現場に出られるように集中的に訓練しています」
一般的に外国人実習生を日本国内で戦力化するためには半年から1年かかると言われていて、その間に給与も発生することを考えると、受け入れ企業にとっては時間も経費も大幅に節約できるというわけだ。外国人実習生候補たちを長年指導していて、いくつかのポイントも見えてきたという。
神田「日本は、あらゆる業界で安全品質について徹底しています。建築はもちろん、介護もそうですよね。建築なら労働者の、介護なら利用者さんの命に関わる大切な問題ですから。現地ではヘルメットも安全靴もない状態での施工・工事などがまだ多い。日本は安全にどう厳しいか、なぜ厳しいかといったことを、座学や実技を交えて徹底的に体に染み込ませていくところがまずスタートです。家の上棟(建設)のカリキュラムでは、1カ月の間に3回組んで3回バラすってことを繰り返します。3回目には、スピードは遅いながらも一応は自分たちだけでできるようになりますね。それと、身だしなみやあいさつなども日本式を徹底して教えています。家を建てる場合は、施主さんが現場を見に来ることもあります。外国人労働者でも安心だと思ってもらえるためには、制服とか動き、あいさつとかちゃんとしていないとダメ。そして、適性を見極めるということも大事です。高いところが苦手という人もいたりしますからね。事前に訓練するっていうのは、そういうところも有利。あとはやっぱりポジティブな人をそろえていかないといけないという意味では、人選もとても大事です。まず訓練校に入る段階で、ペーパーや実技含め、一通り試験を行っています」
成功事例を作っていくことが新しく入ってきた人の目標に
現在、KNDコーポレーション従業員170名のうち、技能実習生34名、技人国ビザを持つ高度人材12名の計46名が外国人だ。
神田「日本の大工さんの高齢化が進んでいる中、重労働部分を若い労働力に任せるという、分離型が建築業界での一つのトレンド。若手もOJTという形で、現場でスキルを上げていき、熟練した大工さんの労働寿命を延ばしつつ、品質の高い施工を短い工期でこなしていくことが可能になります」
’17年以来、ミャンマーで訓練校を運営し、人材を輩出してきたが、’21年の同国の政変の影響もあり、2年ほど前から、同じスキームの活動の場をバングラデシュに移してビジネスは続いている。
神田「今、現地法人のトップをやってもらっている、バブ(⬇写真)のおかげで、スムーズに移転できています。実はこのインタビューでお話ししようと思っていたんですが、彼のルートで、現地に病院や看護介護学校を持っている元保健大臣という有力者とつながっているんです。ミャンマーのときも、一度介護の訓練プランを作ろうと検討していったん中断した経緯があるんですが、バングラデシュには特に看護、介護方面を志向する人が多い。われわれとしては専門のノウハウを持った方と組めば、介護向けの訓練校を一緒に実現できると思っています。介護現場での外国人人材としては中国、インドネシア、フィリピン、タイといった国が多いでしょうが、次の選択肢としてバングラデシュも検討いただけたら。これはちょっと営業ですが(笑)」
インタビューの場が思わぬところでセールスの場に。さすがはやり手社長(汗)。話を戻して、外国人労働者と日本人労働者が共に組むチームとして会社を見た際に、まとまってモチベーションを上げていくコツについて伺った。
神田「シンプルですが、きちんと評価して伝えることです。実習生自体に、お金を稼ぎに来ているという感覚が強いので、つい、評価は金額でいいんじゃないかって思ってしまうところが日本側の経営者にもあって、私もそれで反省することが当初はありました。日本人従業員と等しく、定期的に評価し、評価基準も伝えた上でキャリアアップしてもらう。そうした成功事例を作れば、新しく入ってきた人たちの目標にもなります。あとは最初にもお話しした、コミュニケーションです。会社に愛着を持ってもらうよう努めないと、本来5年いてほしいところが、3年で特定技能に切り替えて他のところに行ってしまうなんて人も出てきます。どれだけ彼らに愛情を持って接し、グリップしていけるかは、普段からのやりとりで決まっていくように思います」
特定技能の話が社長から出たが、最長でも5年で母国に帰国する実習生制度を、人材不足を補塡するスキームとする国の考え自体を批判する意見が聞かれることもあり、その点について社長はどう思われているか最後に伺ってみた。
神田「私は特定技能と実習生で言えば、実習生派です。日本の技術を身に付けて、母国に戻って発展に寄与する。このつながりは技術移転じゃないですか。日本とその国の関係においてとても大事なことだと思うんです。要は、日本のファンをつくっていく。そう思ってやっているので、3年あるいは5年の期間限定は仕方ないと思っています。もちろん、やはり日本で頑張りたいと思ってもらえたら、特定技能に切り替えて日本に残る道もあるわけですからね」
実は神田社長は自ら理事となって社団法人を設立し、技能実習生が帰国した後の現地就職などをサポートすることを目的に活動も始めているという。この制度において、国の対応が著しく遅れている部分だ。日本人、外国人問わず、次世代を担う若者の心に寄り添うことが、相互理解を深め、社会を豊かにしていくことだろう。
技能実習生送り出し・建築訓練実施スキーム
実習生制度では、相手国の送り出し機関と日本の監理団体が実習生の日本語訓練や人事的サポートをするのが普通。だが、KNDコーポレーションでは現地に独自で日本語および技術訓練の施設を持ち、受け入れから業務実践までをスムーズにするサポートをしている
同社の実習生制度では、技能実習終了後を見据えた受け入れ企業へのサポート体制にも注力。日本での特定技能1号への移行だけでなく、帰国後の本国での就職支援など、日本・実習生本国でトータルサポートを実現している
株式会社KNDコーポレーション
代表取締役社長
神田 充
Profile●かんだ・みつる=父親が創業した株式会社神田運送に1987年入社。ユニットバス施工請負に始まり、建材調達、建設までを行う現在の“物工人ソリューション”の基礎を立ち上げた。1999年から代表取締役社長。2014年のミャンマーからの実習生受け入れ、2015年のJICA事業採択を経て、外国人実習生訓練、輩出の画期的システムを作り上げる
撮影=磯﨑威志/取材・文=重信裕之