アーカイブ

介護現場NOW

介護保険制度23年目の課題~取材の現場から~② 迫られる介護と医療の連携、縦割りの解消

2023.02 老施協 MONTHLY

医療と介護の縦割りをなくそうと努力して取り組みを行っている
現場の実践を介護保険制度にどう反映させていくのかということが重要

医療と介護は切り離せない 双方の縦割りの解消が課題

 スタートから23年目を迎えた介護保険制度。その課題について取材現場から報告するシリーズの2回目は、医療と介護の連携について考えてみたい。

 厚生労働省に設けられた社会保障審議会・介護保険部会での制度見直しの議論では、65歳以上が負担する介護保険料や自己負担の引き上げについて話題に上ることが多かった。一方でこの23年間、介護現場を悩ませている課題の一つは、医療との連携ではないだろうか。

 介護保険の創設に携わった厚生労働省の元幹部の一人は「医療とは全く別の制度を作りたいと考えていた」と明かす。増え続ける医療費への批判をかわす狙いもあったというが、高齢者の生活を支えるためには本来、医療と介護は切り離せないものだ。

 去年12月、介護保険部会が公表した「介護保険制度の見直しに関する意見」では、40ページ余りの意見書のうち、医療と介護の連携に割かれたのは2ページほど。この中では、介護事業者と地域の医療機関等との連携のほかに、都道府県や市町村で医療や介護、健康づくり部門の庁内連携を進めること、さらには、連携を総合的に進める人材の育成、配置を求めている。つまりは、縦割りの解消だ。

介護保険部会が公表した「介護保険制度の見直しに関する意見」

 このほか、かかりつけ医機能との連携や特別養護老人ホームにおける医療ニーズへの適切な対応の在り方についても、検討を進めることが適当だとしている。多くの提言が並んでいるが、こうした連携は言うは易く行うは難しだ。

 医療と介護の連携、そのカギを医療現場から探るべく、NHKで長年、医療や介護の現場を取材、現在World News部で海外向けのニュースを発信している堀家春野さんにお話を伺った。

現役職員による座談会【介護現場のリアル】

介護士側から見た医療との連携の解釈は

特養に勤める職員Aさんと有料ホームに勤める社員Bさん。どちらも看護師が常駐する施設に勤めている。訪問介護に勤めるCさんも参加。

A「医療との連携といえば、うちは看護師が常駐してるから、介護士がどう判断していいか分からない状態になったらバトンタッチできるよ」

B「うちもそう。以前、介護士が医療行為、診断まがいに摘便等をするサ責がいたサ高住にいたけど、間違った行為も横行していたよ。施設から救急搬送する場合も、受け入れ先の病院との連携があるし、スムーズ」

C「訪問介護では、介護士の仕事が明確だよね。ケアマネを中心に医療チームは担当者会議で連携ができてるし、訪問医療や訪問介護、薬剤師も加わって、それぞれの役割で動くから」

地域包括ケアに力を入れる広島市にある安佐市民病院

「地域包括ケアなくして高度急性期なし」。この標語を掲げている急性期の病院がある。広島市の中心部から車で40分ほどの場所にある「広島市立北部医療センター安佐市民病院」だ。

 総ベッド数400床余りの地域の基幹病院で、救急車の受け入れはもちろん、ロボット手術も行うこの病院がなぜ、前記の標語を掲げているのか。

 循環器の専門医でもある土手慶五病院長に聞くと、きっかけは退院後、行き場のない患者が増えたことだという。高齢化に伴い、治療が終わっても、家族がいない、自宅での生活が心もとない、などさまざまな理由で退院できない患者が少なくないというのだ。

「先生、この患者さんどうするん?」と看護師に聞かれても「どうしたらいいのか分からず逃げていた」と土手病院長は10年以上前を振り返る。しかし、逃げ続けるわけにもいかず一念発起。生活の支援には介護との連携が欠かせないと7年前にはケアマネジャーの資格も取得した。医学部でも、これまでの医療現場でも学んだことがなかった分野だ。

広島市立北部医療センター安佐市民病院の土手慶五病院長

入院が決まったときから退院支援も視野に入れている

 組織のトップの変化は、病院自体の改革につながった。安佐市民病院では入院が決まったその日から退院後の支援が始まる。この日、入院について説明する医療支援センターでは、摂食・嚥下の認定看護師が、入院が決まった患者に日常の食事の状況や嚥下機能について聞き取りを行っていた。入院中のケアだけでなく、退院後の生活支援も視野に入れているのだ。

 この病院では入院中に身体機能が低下しないようDXを導入。患者が通常と異なる行動をした場合、見守りカメラの映像が看護師のスマホにリアルタイムに転送される仕組みだ。院内での転倒を事前に防ぐとともに看護師の負担軽減にもつながっているという。

 さらに、患者への向き合い方にも変化が生まれた。院内の多職種カンファレンスには必ず医師が出席し、そこでまず患者の住所を確認する。あらかじめ地域の医療資源や介護資源を把握し、退院後の支援を考えるためだそうだ。

医療支援センターでの入院と退院後の生活支援に関する面談
見守りカメラの映像は看護師のスマホにリアルタイムに転送される

どうすればWin-Winの関係になれるのだろうか?

 こうした改革は経営にも良い効果をもたらしている。入院が決まったときからの退院支援は在院日数の短縮化につながり、その結果、診療報酬上の評価が加わる。ベッドの回転が良くなるので患者を断ることなく受け入れることができ、経営も上向いているという。

 ただ、こうした取り組みは一朝一夕にはいかない。土手病院長にその秘訣を聞いたところ、効果的だったのは、介護関係者と一緒に飲み会をやって本音で語り合ったこと。そして、自ら率先して介護保険について理解を深め「医師頭」「看護師頭」をリセットしたことだというのである。

 トップの変化が組織、そして地域の変化をもたらしていると感じる。こうした医療と介護の縦割りをなくそうという現場の実践を制度にどう反映させていくのか。今後の介護保険制度の見直し議論を注視していきたい。

今月の回答者
NHK World News部 堀家 春野さん

NHK World News部

堀家 春野さん

Profile●ほりけ・はるの=1997年NHK入局。医療や介護現場を取材する記者、解説委員を経て、現在、World News部で海外向けのニュースを発信している


取材・文=一銀海生