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第8回 熊本県熊本市 社会福祉法人白川直会会 指定介護老人福祉施設 るり苑
2022.11 老施協 MONTHLY
独自の取り組みでキラリと光る各地の高齢者福祉施設へおじゃまします!
※令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)入賞施設を取材しています
笑顔を「見える化」し、脳トレーニングに励むことで「るり苑=脳トレ」を目指す
るりのさえずりのように楽しく笑顔で幸せな施設
北東に阿蘇山を望み、中心部に熊本城が鎮座する熊本市。その市内でも郊外の緑豊かでのどかな田園地域の中にあるのが、指定介護老人福祉施設「るり苑」だ。
’03年、創設者が、この地域の老人の方々にぜひ貢献したいという思いから、社会福祉法人白川直会会を設立。そして、同年にるり苑を開設し、介護老人福祉施設、短期入所生活介護事業、通所介護事業を開始、翌年に居宅介護支援事業を開始、’15年に生計困難者に対する相談支援事業を開始している。
施設名の「るり」とは、日本に生息する野鳥の名前。これには、るりのさえずりのように、楽しい会話や笑顔で交流できる幸せいっぱいの施設でありたいという願いが込められているという。そこで、各居室にもるりをはじめ、野鳥の名前が付けられている。
白川のほとりに面した高台に野鳥も訪れる美しい景観
建物は、’03年に完成。敷地4356.51㎡、延べ床面積3413.27㎡の鉄筋コンクリート造り3階建てには、2階に主に2人部屋(合計21室)、3階に主に個室(合計14室)が配され、定員は介護老人福祉施設が50人、ショートステイが6人、デイサービスが40人(通所介護35人、通所型サービス5人)となっている。
スタッフは、男性24人、女性31人の合計55人(’22年10月1日現在)。平均年齢は、40歳前後となっており、この種の施設では、比較的若い年齢層で構成されている
特徴的なのが、景観が良いということで選んだ立地。施設の西側は、白川のほとりに面して高台となっており、自然豊かな川の流れには、るりをはじめ野鳥が訪れるのを見ることができる
同じ西側には、デイサービスフロア地域交流スペースがあり、小学生や中学生のジュニアボランティアや家族会、民生委員の勉強会、熊本地震の際には、地域住民の避難所として食事や宿泊を提供するなどしており、積極的に地域住民に開放しているそうだ。
施設は人なり、人は心なり
介護士は心が一番大事
同施設では、訓示として「施設は人なり、人は心なり」を掲げている。るり苑はスタッフ次第で良くも悪くもなり、スタッフは心次第で良くも悪くもなる。知識や技能も大事だが、心が一番大事なものであり、どんなに能力や資格があっても、心がない人間は、るり苑にとって必要なスタッフにはなり得ない、としている。
また、「接遇」というものを大事にしており、利用者に求められるのは、非日常的な特別感ではなく、毎日を心地よく過ごせる安心感とし、そのため、利用者の生活の場に入ってケアを行う介護スタッフには、心配りと的確な支援、サービスが求められるとして、専門家より講習も受けているという。
そして、同施設の特色として取り組んでいるのが「脳トレーニング」。’15年から株式会社ルネサンスが開発した認知症予防に役立つ体操「シナプソロジー」を導入、さらに、理学療法士の川畑智さん(株式会社Re学)が考案、認知症予防に役立つ「川畑式パズル」やアロマオイルを使って利用者の脳を活性化。その際の笑顔を独自の「ホッと・スマイルシート」によって数値化し、笑顔の「見える化」を行っている。その結果、笑顔や意欲の向上が、生活機能の維持や向上につながっているという。今後も「るり苑=脳トレ」を目指して認知を広げ、利用者の支援を続けていきたいと考えているという。
【キラリと光る取り組み】
「笑顔の見える化」脳のパフォーマンス向上に向けて
「令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)」最優秀賞受賞
るり苑 介護福祉士 小林 歩さん・介護福祉士 松永百合菜さん インタビュー
――この取り組みを始めたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?
小林:当施設のデイサービスにおいて、脳を活性化させる体操「シナプソロジー」を2015年から導入していたのですが、前任者から引き継ぐに当たって、私たちもさらに新しいことに取り組もうとしていたときに、施設長から脳トレーニング用パズルを使ってみてはという提案をもらい、当施設のデイサービスの特色として、「脳の活性化」ということをテーマに掲げ、取り組みました。長谷工シニアホールディングス(現長谷工シニアウェルデザイン)さんが「できることを取り戻す魔法の介護」という書籍を出版されていまして、それを読んでいた中で、危険予知を認知する「ヒヤリハット」という言葉から派生した、暮らしの中で思わずにやりと笑顔が出たりホッと心が温まる「にやりほっと」という言葉からヒントを得まして、利用者さんのできることややりたいこと、笑顔になったきっかけなどを見つけ出すことで、利用者さんがその人らしく生活していけるのではないかと考えました。
――その取り組みは、具体的にどのようなものだったのでしょうか?
小林:これまでも、体の動きに関しては、ADL評価の指標となるバーセルインデックスで数値化していますが、笑顔や意欲、姿勢はどう数値化したらいいのか。そこで、利用者さんの表情を4段階に分けて評価していき、数値化することで笑顔を「見える化」し、それを「ホッと・スマイルシート」というものに記録して、スタッフ全員で情報を共有化していくことにしました。また、脳トレ用の川畑式パズルをはじめ、計算や塗り絵などを用意した「脳トレコーナー」を設置。認知症の方は一番嗅覚が刺激を受けやすいと聞いて、アロマオイルを導入し、造花に垂らして、覚醒を促すといったこともやっています。
――その取り組みを実践するに当たって、どういう苦労がありましたか?
松永:シナプソロジーは先輩方に教えていただきましたが、今回の取り組みは、自分たちなりのやり方を模索して、脳トレパズルなどを利用者さんに勧めてみましたが、得意な人もいれば苦手な人もいて、苦手な人にどう楽しんでもらうかを試行錯誤しました。
小林:利用者さんの個人ファイルを作って、脳トレパズルをやっていただいたときにどういった反応があったのか、反応が悪かったときにはどうアプローチすればよいのかということを詳細に記録し、スタッフみんなで情報共有して検討しながらやっていました。
松永:反応が悪いときは、パズルの問題をただ「これをやってください」じゃなくて、自分も一緒になって、「この色はどこにありますかね?」というように、途中で離れたりしないで最後まで一緒になってやることです。できていなそうな利用者さんについては、必ずスタッフが一緒に教えるようにしています。嫌なことは自分も続かないし、楽しくやってほしいので、冗談を言いながら楽しんでもらい、それが時間がかかりながらもできたら2人で一緒に喜んだり。すると、利用者さんから次のパズルに取り掛かられたりして、だんだん興味が強くなってきます。間違っていても楽しくやれればいいのだと思います。
小林:スタッフと一緒にやって達成感を味わってもらうことで、利用者さんの笑顔が増えていきます。そうすると、スタッフとの普段の会話からも笑顔が出てくるようになります。
――この取り組みをなされた成果は、どのようなものがあったのでしょうか?
小林:シート評価の結果、脳トレパズルの正解数が増えたり、計算問題を解くのが速くなったり、バーセルインデックスでADLをチェックすると、以前はできなかった着替えができるようになったという利用者さんもいらっしゃいました。利用者さんがスタッフと一緒に取り組むことによって、達成感や成功体験を分かち合い、利用者さんとの信頼関係も構築することができるようになりました。
――今後、さらに取り組まれたい課題がありましたら、教えてください。
小林:るり苑では、シナプソロジーは定着してきているのですが、シナプソロジーはそれぞれ難易度がありまして、耳が聞こえない方や目が見えない方などそれぞれの悩みに対応することの難しさがあります。種目も偏りがちになるので、シナプソロジー協会からどんどん新しいものも取り入れていき、脳トレとの相乗効果を狙っています。脳に対する働きかけやアプローチを多彩化することで、認知症で脳を活性化するなら当施設、「るり苑=脳トレ」という周知を広めていき、最後までその人らしい人生を送ることができるよう、これからも支援していきたいと考えています。
社会福祉法人白川直会会
指定介護老人福祉施設
るり苑
〒861-8010
熊本県熊本市東区上南部1丁目16-36
TEL:096-388-2121
URL:https://www.rurien.jp/
[定員]
介護老人福祉施設:50人
ショートステイ:6人
デイサービス:40人(通所介護35人、通所型サービス5人)
撮影=山田芳朗/取材・文=石黒智樹
社会福祉法人白川直会会
2003年、熊本県熊本市東区上南部に設立。角中直也理事長の下、「職員を大事に」「『和』を大切に運営」「地域に役立つ、地域から信頼される、地域に開かれた施設を目指す」を訓示として、同年に開設された指定介護老人福祉施設「るり苑」にて、介護老人福祉事業、短期入所生活介護事業、通所介護事業、居宅介護支援事業、生計困難者に対する相談支援事業を行っている。