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第7回 東京都世田谷区 社会福祉法人友愛十字会 特別養護老人ホーム 砧ホーム
2022.10 老施協 MONTHLY
独自の取り組みでキラリと光る各地の高齢者福祉施設へおじゃまします!
※令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)入賞施設を取材しています
介護スタッフをメインに専門スタッフが支援する「多職種協働」
介護スタッフの質がサービスの質に直結する
東京23区の中で人口が一番多く、また、面積が2番目に広いというのが、世田谷区。その閑静な住宅街の中に立っているのが、特別養護老人ホームである「砧ホーム」だ。
砧ホームを運営している社会福祉法人「友愛十字会」は’50年に創立、元々は終戦後に傷ついた障がい者をケアするために努めていたのだという。そして、’92 年に砧ホームが設立され今年で30周年、友愛十字会の本館2階を中心に、特別養護老人ホームは従来型多床室で定員60人、ショートステイは定員4人という規模で運営され、主に世田谷区民が利用している。
元は現場スタッフであった施設長の鈴木健太さんが、介護スタッフは専門性を高めていかないと成長しないし、やりがいもないと考え、掲げたのが「介護スタッフを中心とした組織作り」。施設ではさまざまな職種のスタッフが働いているが、中でもメインの職種はやはり24時間365日、直接利用者のケアに当たる介護スタッフである。「介護スタッフの質がサービスの質に直結する」という理念の下に、介護スタッフの質を高めていくことこそが、サービスの質を向上させていくという考え方だ。
そして、メインである介護職種の成功がその他の専門職種の真の成功につながるという考え方の下、介護職種がしっかりパフォーマンスを発揮できるよう、その他の専門職種が支援を行う「多職種協働」という仕組みも実践している。
また、国の制度であるキャリア段位制度をいち早く取り入れている他、専門職の専門性の表現を大切にして、研究発表も積極的に行っており、令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)最優秀賞受賞をはじめ、東京都社会福祉協議会でも多数受賞している。
世田谷区ではここ数年、特別養護老人ホームが急速に増加。砧ホームでは、以前は人員確保に困らなかったが、施設の増加に伴いスタッフが減少してしまった。そこで鈴木さんは、魅力的な施設作りをしないとスタッフが集まらないと、このような組織改革を行った結果、新しいことにチャレンジする意欲が旺盛な若いスタッフが応募してくるようになったという。
介護DXやICTなどの科学的介護を積極的に導入
一方、スタッフ減少へ歯止めを掛ける施設改革として、少人数でも介護可能な体制の構築と介護スタッフの負担減、人が集まる魅力的な職場づくり、もちろん利用者へのサービスの質の向上のため、介護ロボットやICTなどの科学的介護を積極的に導入している。
転落防止のためセンサーを内蔵している「見守りベッド」、スタッフが力仕事をする際に負担を軽減する「マッスルスーツ」、プライバシーに配慮したシルエット画像で見守り、転倒やケガを未然に防ぐ「シルエット見守りセンサ」、スタッフ同士のコミュニケーションを図る「インカム」、「介護記録システム」、眠りセンサーにより覚醒状態に応じた介護が可能な「眠りSCAN」、かわいい動物形のセラピーロボット「PARO」など、現場のスタッフが使いやすいか検証しながら、必要な機器を見極めて計画的に採用している。
リフトの利用を最適化
持ち上げない介護の推進
同施設では、「持ち上げない介護の推進」を掲げ、利用者のベッドと車椅子の移乗に際して、介護スタッフの負担軽減のためリフトを導入しているのだが、数が限られているリフトをどの利用者に割り当てるか、ということを判断するため、指標となるスケール表を作成して使用している。
その結果、本当にリフトを必要としている利用者に最適に割り当てることができるようになった他、リフトの対象から外れた利用者の移乗方法もみんなで試行錯誤しながら新たに開発するなど、介護スタッフと機能訓練スタッフの密な連携が取れるようになったという。
今後もどこでも誰でも簡単に扱えて、新たな問題にも対応できるよう、精査、改良していくそうだ。
【キラリと光る取り組み】
「スケールを用いてリフトの優先度を判断することによる効果的な持ち上げない介護の実現――専門職としての想像と創造 We are professional
「令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)」最優秀賞受賞
砧ホーム 機能訓練指導員 小谷野祐樹さん・介護副主任 三浦好顕さん インタビュー
――この取り組みを始めたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?
小谷野:「持ち上げない介護の推進」を掲げ、介護スタッフにとっての使いやすさにこだわりながら、リフトや移乗ボード、移乗シートを導入してきたのですが、元々リフトを使っていらっしゃった利用者さんに加えて、後から入所された利用者さんの中に、本当はリフトが必要なんじゃないかという方が出てきて、そういった方に「この方にリフトを使用したいのですが、どうしたらよいでしょうか?」という要望が、介護スタッフからしばしば聞かれるようになりました。
三浦:リフトが導入された当初は、この利用者さんが今一番リスクが高いからリフトを使いましょうといったやり方で割り当てていました。リフト導入後、そして、この研究が始まって5年がたつのですが、その間に新しい利用者さんたちが入所してきて、より体重がある方だとか、より身長がある方だとか、どんどん拘縮が強くなってきて普通の移乗介助が難しくなった方が、時を経ていくうちに重度化していき、「もっと楽な方法はないだろうか?」「この方はなぜリフトじゃないのですか?」などといった相談を機能訓練スタッフとしていく中で、「この方にリフトを使うと、今使っている方にリフトがなくなるのだがどうするのか?」という問題が起こってきました。利用者さんの退所をリフト使用者の入れ替えの機会とするのでは、持ち上げない介護が間に合わなくなってきたのです。
――この取り組みは、具体的にどのようなものだったのでしょうか?
小谷野:当時の状態だと、このリフトをこの方に割り当てるといった決まりが特になかったので、みんなが納得できるスケールを設定してリフト対象者を決めた方が、効率的にもよく、介護スタッフの負担も少なく、対処できるのではないかと進めてきました。
――この取り組みをなされた成果はどのようなものがあったのでしょうか?
小谷野:みんながこの方に使いたいと思ったところにリフトが集まっていくといったように、最適な利用者さんにリフトが使えるようになり、ミスマッチが減ったということです。逆に、リフトを外される利用者さんも出てきますが、その方に負担が掛からないように、他の移乗方法を考えるというきっかけにもなったのではないかと思います。
三浦:リフトの対象から外れた利用者さんにも他の移乗方法を考えないといけないところで、介護スタッフだけでは難しい状況だったので、機能訓練スタッフと相談しながら、この方は移乗ボードを使ったらいけるんじゃないかとか、フルフラットになる車椅子に移乗シートを使ったらいけるんじゃないかとか、リフトだけではなく、リフトを元々使っていたが今は外された利用者さんの介護方法も、機能訓練スタッフと一緒になって考え、連携できるようになったということがあります。
――今後、さらに取り組まれたい課題がありましたら、教えてください。
小谷野:同じ法人の町田にある施設でスタッフがこのスケールを使ってみて、例えば指標の項目などで「これはどういう意味?」といったように、分かりにくさを指摘する質問が出てきてしまっているので、誰にでも簡単に扱えて分かりやすく、かつ、効果があるよう、リニューアルをしています。やはり、他の施設で使っていただくようになると、その施設なりの他の問題も出てきます。また、スケールを使っていく中で、たとえばハラスメントが出てくる方にどう点数をつけていくかなど、この項目は追加した方がいいのではないかという新たな課題も出てくるので、常に現場の意見を聞きながら、項目の追加、修正をしながら使っていければと考えています。
社会福祉法人友愛十字会 特別養護老人ホーム
砧ホーム
〒157-0073
東京都世田谷区砧3丁目9番11号
TEL:03-3416-3164
URL:https://www.yuai.or.jp/
[定員]
特別養護老人ホーム:60人
ショートステイ:4人
撮影=山田芳朗/取材・文=石黒智樹
社会福祉法人友愛十字会
1950年、東京都世田谷区に設立。1953年から三笠宮崇仁親王殿下を、1974年から寬仁親王殿下を、そして2014年から瑶子女王殿下を総裁に戴いている。当初は、「戦争で傷ついた方々の自立」「身寄りのない高齢の方々の安心できる暮らし」の支援に努めていた。現在は、世田谷区、板橋区、千代田区、町田市に身体障害者施設5、老人福祉施設6、事業所1の計12の施設や事業ならびに港区に指定管理事業として港区立障害保健福祉センターと港区立児童発達支援センターを経営している。