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【INTERVIEW】株式会社エルティーアール 代表取締役社長 株式会社CLホールディングス 執行役員 株式会社レッグス 執行役員 谷 丈太朗
2022.09 老施協 MONTHLY
20年ほど前から、単に食事を提供するだけではない「テーマカフェ」や「テーマレストラン」といった新しい飲食業態が都心部を中心に多く登場している。特に最近じわじわと支持を集め、店舗を増やしているのが、アーティスト、映画、アニメやオリジナルキャラクターなどをモチーフにしたテーマカフェだ。中でも6月にオープンした期間限定「Harry Potter Cafe」は、その本格的な世界観の演出が話題になった。今回は、この店舗の企画・運営も行い、キャラクターカフェの分野全体でも先駆的企業を率いる谷 丈太朗さんにお話を伺った。
意見や要望、目標を共有することはもちろん若い世代の力を信じ、自分たちベテランがしっかりと支えてあげるという構図が大事
想像通りではつまらない ファンが思う半歩先の企画
谷さんの会社では、アニメ、ゲーム、キャラクター、アーティストなどさまざまなコンテンツのテーマカフェを行うスペースを全国約20店舗ほどで展開し、コラボレーションするコンテンツは期間限定で入れ替わるというスタイルを取っている。例外として、テーマは入れ替わるがディズニー社が権利を持つコンテンツ(ディズニー、ディズニー&ピクサー、スター・ウォーズ、マーベルなど)に絞った東京・表参道の「OH MY CAFE」、さらに東京・赤坂にオープンしたばかりの、「Harry Potter Cafe」がある。まずはこの分野に進出したきっかけからお話を伺っていこう。
谷「ウチはさまざまな企業の販売促進や商品開発をプロデュースする会社で、私は’08年から上海やシンガポールなど、海外で日本企業のお手伝いをしていました。対日感情という点では微妙な時期でもあったんですが、そうした中でも、アニメやマンガ、キャラクターなどの日本発のコンテンツの人気はすごかったんですね。そこで帰国後も『日本の素晴らしい作品の数々を世界に届けよう』というコンセプトの下、アニメやキャラクターのライセンスビジネスを行っていた中で、もともと社としても行っていたカフェビジネスと結び付けることになったわけです。好きなアーティストなりアニメなりがあって、誰かを誘ってイベントに行きたいとなったとき、ライブやグッズ販売イベントとかは、ちょっとハードルが高いですよね。でもカフェで食事なら、普段から誰でもよくすることだし誘いやすい。ファンの『好き』を広げたいという思いが自分には強くあって、このスタイルなら『好き』をつなげてより大きくすることができると感じています。ですから内装デザインからメニュー開発も時間をかけてきっちりとやります。単に作品やアーティストにちなんだメニューを提供するのではなくて、毎回テーマを決めるんです。ディズニーの名作アニメーション映画『シンデレラ』をテーマにしたスペシャルカフェをオープンした際は、“舞踏会”をテーマに、優雅で気品のある世界観を演出するようなコースメニューを用意しました」
なるほど、これはなかなかファンのツボを押さえた演出といえそう。
谷「この作品とコラボしたカフェなら、きっとこういうメニューがあるだろうという期待にも応えるべきですが、逆にそうしたメニューしかなかったというのもつまらないですよね。ですから、ファンが思う半歩先をいく企画というのが大事なポイントになります。いき過ぎてもいけないですし、さじ加減は難しいところなんですが」
多様な専門職の意思統一は最初にファンありき、の姿勢で
映画、アーティスト、キャラクターといった商品は、IP(知的財産)コンテンツとも言われ、作品のイメージやデザインなどに関して版権所有者とは密なコミュニケーションが必要になってくる。その辺のご苦労はないだろうか。
谷「それはもちろんあります。ただコロナ以降にリモート会議が普及したので、以前よりだいぶ効率的にはなっています。『Harry Potter Cafe』がある赤坂BizタワーはTBSさんが所有されている施設で、現在隣接したTBS赤坂ACTシアターで上演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』を盛り上げるために、街並みまで『ハリー・ポッター』の世界観にしたいというところから始まった企画なのですが、いつもビジネスパーソンしかいないというイメージの赤坂の街に若い女性が大挙して集まっていただいています。やはり、コンテンツの力は強いのだなと強く思っています」
期間限定でコンテンツが替わるカフェの場合、1テーマの期間は原則45日なので、1店舗で年間8コンテンツを扱うということになる。美術展のように地方へ場所が変わるケースもあるが、それでも会社全体では年間80コンテンツもの企画を実施しているそうだ。それぞれに版権元もあることを考えると、かなり大変な作業に思える。
谷「まず、コラボレーションする作品ごとにプロデューサーが立ち、マーケティング、ウェブ、オペレーション、PRなどの制作担当でチームを作ります。メニュー開発は合弁しているレストラン運営会社にまた別チームがいて、プロデューサーが全体を統括します。メニューは最終的にライセンサー(版権元)と試食会をします。これまでの実績から信頼していただいて、こちらでメニューまで確定する場合でも社内で試食会はしますので、結局今は毎日試食会をしているような感じですね(笑)」
コンセプト作りから始まって、デザイン、内装、レシピ開発、オペレーション、そしてライセンサー、と専門性の高いスタッフでチームを作り、どのように意思統一を図っているかも気になるところだ。そのあたりのスキームについて谷さんに伺った。
谷「IPコンテンツを扱う場合、何よりファンがどう楽しんでくれるのか。まずはファンベースで考えるということを押さえておけば、自然と意思統一はできると思います。そこでどう半歩先を見て、ファンの『好き』を広げられるかということを全員で考えるんですが、いつでもファンの目線に立ち返って考えれば、迷うことはないかと思っています」
好きをつなげ大きくする舞台は国内にとどまらず海外進出へ
では最後に、これからの谷さんのビジョンを伺ってみよう。
谷「今、ウチの会社全体で年間100万人くらいのお客さまに来店いただいています。でも有名テーマパークでは年間1000万人くらいは軽く来場していますよね。カフェはテーマパークに行くよりハードルが低いというメリットもお客さまにとってはあるわけですから、この数はまだ増やせるはず、というのがまずあります。それと、今は映画、アニメ、キャラクター、アーティストといったコンテンツが中心ですが、この先は歌舞伎などの演劇、アート、相撲や野球などのスポーツといった、ファンの思いの強いジャンルのコンテンツともコラボレーションしてみたいですし、業態もカフェレストランだけではなくて、大人向けのバー、居酒屋なども企画してみようと思っています。その中で、どういったコンテンツとコラボするかに関しては、3つの考え方がありまして、1つはエバーグリーン(常緑=時代を問わず不朽)なもの、アニメなら『名探偵コナン』とかですね。2つ目に、今現在旬なもの。そして3つ目がこれからブレークしそうなもの。ウチでは主に20代女性をターゲットにしているコンテンツが多いので、若いスタッフの意見が重要です。そこで若い力を信じて権限委譲を進め、ベテランが下支えするという組織づくりも大事だと思っています。自分も若いときに上司にしっかりサポートしてもらって今があると感謝していますので」
さらに谷さんには、誰もが納得する大きなビジョンがある。
谷「国内の事業拡大と同時に、海外進出ですね。日本のコンテンツは海外で絶大な人気がありますが、一方で日本食も海外で人気です。この両方で世界に打って出たら、きっといい相乗効果が出ると思っていますので、そこも目指して今後は活動していこうと思っています」
次はどんな企画でファンを驚かせ、「好き」を広げてくれるのか、利用者ならずとも期待が膨らむ。
株式会社エルティーアール 代表取締役社長
株式会社CLホールディングス 執行役員
株式会社レッグス 執行役員
谷 丈太朗
Profile●たに・じょうたろう=1974年生まれ。1998年株式会社レッグス入社。海外勤務を経て帰国後、ライセンスビジネスに携わり、フードエンターテインメントビジネスの責任者に。2021年、飲食店運営などでアライアンスを組んでいた株式会社トランジットジェネラルオフィスと合弁で株式会社エルティーアールが設立される際に代表取締役に就任した
撮影=磯﨑威志/取材・文=重信裕之
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