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第1回 新人職員とどのように関わる? うまくコミュニケーションをとるには?
2022.04 老施協 MONTHLY
健康社会学者として活動する河合 薫さんが、介護現場で忙しく働く皆さんへ、自分らしく働き、自分らしく生きるヒントを贈ります。
自分なりの「道具」を使い目の前の仕事に向き合う
「分からない」ことを「分からない」と言えない葛藤を抱える若者が増えている。「コイツ使えない、って思われちゃうから、怖くて聞けない」のだという。情報社会となった現代で最優先される価値観は「知っていること」。情報を常にアップデートし、「何から何まで知っている」という人が称賛されがちだ。他者評価を過剰に気にする若者の胸の内を鑑みれば、聞けない症候群になるのは自然な流れなのかもしれない。
新年度になり、職場に新しい仲間を迎えた人たちも多いことだろう。年齢も経験もバラバラの介護現場での新人教育は、教える側にとっても不安だらけだ。新人職員を教育したい気持ちは「分からないことがあったら何でも聞いてね」という思いやりのある言葉に変換される。なのに、その言葉通りに受け止めてもらえないとは。さて、困ったものである。
しかし、「人は考える葦(あし)」。とりわけ介護職などのヒューマンサービスを目指す人たちは「人に喜ばれたい」という欲求が強いので、自分が何をすべきか?を考えるための道具を共有すればいい。どんな仕事にも有形無形の“大切な道具”がある。例えば、航空会社のそれは「飛行機」。全ての社員がたった一機の飛行機を飛ばすために汗を流している。私の場合は「自分の言葉」だ。小難しい理論も話題のニュースも「自分の言葉」で伝えることを大切にしている。その上で“ミッション”を考える。ミッションとは、「自分は何者で、なぜ、そこにいるのか?」といった自己のアイデンティティーで、危機を乗り越えるための正義だ。自分が大切にしている「道具」を決して忘れることなく、目の前の仕事に腹の底から真面目に向き合い続けることで、「ミッション」は血流や内臓のうねりのごとく、体内の深部まで根を下ろしていく。想定外の危機に遭遇しても、骨の髄までミッションが染み込んでいれば、「自分のなすべきことは何か?」と自らの正義に従い、危機に対峙できる。一方、ミッションなくして、利用者や家族を満足させることも、自分自身の職務満足感を満たすのも無理。いい仕事をするためにも、いい人生にするためにも、ミッションは必要なのだ
あなたの施設の大切な道具は何ですか? あなたのミッションは何? まずはそれらを新人職員に話してほしい。「分からないことはいいことだ。一緒に考えよう」という言葉を添えて。
健康社会学者(Ph.D.)/気象予報士
河合薫
Profile●かわい・かおる=東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士として「ニュースステーション」(テレビ朝日系)などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究に関わるとともに、講演や執筆活動を行う
イラスト=佐藤加奈子