アーカイブ
全国老人福祉施設協議会が推進する新しい介護
ロボット・ICTと共存する次世代高齢者福祉②
2023.02 老施協 MONTHLY
介護人員不足解決を目指し、老施協が推進する、全国老施協版介護ICT導入モデル事業とは? 「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」で行われた現場のリポートを含めて徹底解説。
JSフェスティバルin栃木 リポートVol.1
取り組み施設からのリポート
ICT導入での現場の変化 第6分科会「デジタル活用による現場革新・科学的介護」研究発表
去る1月26日、27日に開催された「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」。その研究発表における第6分科会のテーマは「デジタル活用による現場革新・科学的介護」。ここでは、発表した各施設のICT導入への取り組みを紹介する。
ICTの導入により負担が減りケアの質が向上
今年度の実践研究発表の中で、ICT導入への取り組みをテーマとする第6分科会では、全国各地から6施設が参加、発表を行った。
最優秀賞を受賞した「ささづ苑かすが」は、ICT機器導入により、主に情報共有システムの整備と音声入力記録化を進め、5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)の推進、3M(ムリ、ムダ、ムラ)の削減を行い、大幅な業務の効率化を図ることができた。
奨励賞を受賞した「能古清和園」は、「眠りSCAN」の導入により、スタッフの巡視など業務負担軽減が身体的負担軽減につながり、また、急変時や事故防止の迅速な対応が可能になることで、スタッフの精神的負担軽減にもつながり、ケアの質が向上している。
同じく、奨励賞を受賞した「つるかめの縁」は、見守りシステム「まもる〜の」を導入して、利用者の見守りを行うだけでなく、並行してスタッフのシステム活用研修や他施設と取り組み事例の共有をしたことで、さまざまな活用方法を考えることができているという。
「南幌みどり苑」は、ハインリッヒの法則にある「ヒヤリハット」が発生した事例を、インカムの導入により、リアルタイムで情報共有、業務確認を行った。その結果、令和元年度と比較して、令和3年度では、事故件数を60%削減することに成功している。
「楽生苑」は、生産性を向上させるために、ICT導入によってどんな課題解決ができるのかを精査。ムリ、ムダ、ムラの業務仕分け、マニュアルの見直し、情報システムの共有・効率化に取り組んだ。その結果、ICTを効果的に導入することができた。
令和2年に開設した「カルぺ而今」は、コロナ禍の2年間で52人の退居者が出てしまったという。そこで、LIFEからフィードバックされたPDCAサイクルを推進、AI、ICTによる分析により介護の質が向上、重度化の進行スピードは減速しているそうだ。
このように、ICTを導入した施設では、業務が効率化することにより、業務の負担が減り、スタッフの身体的、精神的負担も減ることになり、結果、利用者へのケアの質が向上するという効果をもたらしているようだ。一方、スタッフには、ICTへのさらなる理解も求められているのである。
「ICT・介護ロボット活用」で現場革新
情報共有システム整備・音声入力記録化によるスマートな職場作り
地域密着型特別養護老人ホーム
「ささづ苑かすが」(富山県)江尻勇輝
能古島(のこのしま)から介護を変える
〜眠りSCAN導入を通して〜
特別養護老人ホーム
「能古清和園」(福岡県)山川玄貴
見守りシステムを活用した「三方良し」の取り組み
見守りだけに留まらない新しい活用方法
特別養護老人ホーム
「つるかめの縁」(山形県)伊藤順哉
事故件数60%削減に成功
〜ハインリッヒの法則を証明した4アクション×ICT〜
特別養護老人ホーム
「南幌みどり苑」(北海道)堀朋代
「介護現場における生産性向上」の取り組み
ICT化の促進・現場視点で働き方を見つめ直して
特別養護老人ホーム
「楽生苑」(広島県)大西真紀
2年間で52名(定員60名)の退居
〜LIFE等のフィードバックデータの活用とAI、ICTの科学的根拠をもとに原因を追究 そして改善〜
特別養護老人ホーム
「カルぺ而今」(栃木県)野田有紀史(報告者:三品健)
JSフェスティバルin栃木 リポートVol.2
識者からの提言
介護DXの現場での効果と課題
「〜JSフェスティバルin栃木〜」の初日となる1月26日には、「デジタル介護:ロボット・ICTと共存する次世代の高齢者福祉の魅力」というテーマのイベントが実施された。紀伊信之氏、東好宣氏、五島清国氏、中山辰巳氏の4人が出演し、前半は登壇者それぞれの立場からの近況の取り組みを報告。後半のシンポジウムでは介護業界としてDX化を進めていくことは必須と声をそろえ、また、業界全体として連携していくことが必要不可欠という認識で一致した。ここでは、シンポジウムの模様をダイジェスト形式で紹介する。
DX化は施設一丸となって取り組むことが非常に大切
3人の識者たちが介護DXによる現場への効果や現時点での課題を語り、未来への提言を行った。介護DXを活用することで生まれる事業所のメリットとは?
東「現場で働く方の業務の専門性を高められることではないでしょうか。テクノロジーの導入をはじめ、業務全体を見直していくということで、専門業に取り込めるというのは魅力です。負担軽減、データの活用といったことも相まって、現場がやりたい介護につながるという期待が持てます」
五島「利用者さんにとっての安心安全な介護ができるようになると思います。また、時間にゆとりも生まれ、今まで以上に利用者の方に寄り添えるようになります。ここに一番の魅力を感じながら、展開を進めていくことが重要です」
中山「経営者の視点から言いますと、DX化は経営の近代化の第一歩。利用者や働く人、社会にとっても、介護というのは魅力のある仕事、職場である。こういうこともアピールできる。過去の経営と決別し、新しい経営、新しい介護を作る。その大きな一歩にしていただければと思います」
紀伊「これからの経営には必須ということですが、非常に高い買い物であることには間違いないと思います。導入する際のポイントや留意点はありますでしょうか?」
中山「一日も早く着手することですね。そしていろいろな経験、学びをしてほしい。しかし、ロボット・ICTも万能ではありません。あまり欲張らずに、一歩一歩着実に進めていくことが大事です」
五島「どういう目的、場面で、そのテクノロジーを導入するのかということを、現場で合意形成していくことが大切だと思います。そして利用者の方にどういう変化が表れたのかと、導入の結果を常に共有していくことが重要ですね」
東「単なる機器の導入だけではなくて、業務全体を見直していくことです。そのためには事業所全体として連携していくことが大切。機器の活用について検討できている施設の方が効果も上がっているという結果も出ていますので、現場レベルでは、どうやったら効果的なのかという観点から業務運用について考える。トップや管理層におかれましては、組織として何のために業務改善を行うのかということを明確にし、共有すること。そもそも業務を見直す、ルールを策定するというのは担当者の方の労力が大きい。なので、何のためにやっているのかと、全員が意識を持ち、それをトップが支えていくということが重要です」
紀伊氏は、それぞれの取り組みやシンポジウムでの発言を受けて「皆さんの目指している方向が、かなり近いベクトルで進んでいる」とコメント。それを受け「それぞれの立地から連携協力に関して、最後に一言お願いします」と依頼。
知識やノウハウを横展開し共有していくことが重要
東「全国的な広がりには何年間かかかるかと思いますが、厚生労働省としては前半に報告した介護生産性向上の総合相談センターで、業務改善や生産性向上の全般にかかる支援の仕組みや、地域で活用できる支援リソースなどを適切につないでいく仕組みを作っていきたいと考えています。こういう取り組みを広く多くの施設に広げていくには、地域の取り組みが不可欠。身近にモデルとなる施設があることも大切で、苦労して取り組んできて施設の実情が分かる人が、次の施設で課題に応じて助言していくというところが重要。こういう流れが回っていく仕組みを構築できればいいなと思います」
五島「現場で真に必要とされる福祉用具や介護ロボットを開発していくためには、介護施設の方の協力が欠かせません。しかし今は、そうした環境が整ってきているので、老施協会員の施設や事業者と連携をしながら、いい機器や用具の開発を進めていきたい。またロボットの導入は進んでいますが、福祉というのは、その地域の高齢者の方を地域の施設や事業所がどう支えていくのかが基本。それには場所それぞれの課題があり、そういった点を共有しながら知識やノウハウを横展開していくことは大切だと思います。加えて、テクノロジーやAIを使うことが今後ますます必要になります。そうした流れの中で、各法人の理念の中にテクノロジーの活用をどのような位置付けにするのかを真剣に考えるか、われわれテクノエイドはそういうところをサポートできるよう連携を図っていきたいです」
中山「全国老施協としては、大きな介護DXに向かって関係組織や団体と一緒になって進めていきたい。テクノエイドさんには大変素晴らしい福祉用具があります。単純にICTやロボットだけではなく、いい福祉用具とICT機器をミックスして、相乗効果を生んでいくことが大切だと思います。また、東様からお話がありましたように、厚生労働省が相談センターを各都道府県に設置します。これからは本当に人材育成が必須。人作りも含めて、相談センターの役割はとても大切に思っています。ぜひとも各都道府県の地区や行政の皆さんに、このセンターの設置の働きかけをお願いしたいです」
地域による人材育成の活性化が必要
厚生労働省 老健局 高齢者支援課
介護業務効率化・生産性向上推進室
室長補佐 介護ロボット開発・普及推進室 室長補佐
東 好宣氏
デジタル導入支援に関する厚生労働省の定期的な補助や支援の取り組みを報告し、新たに拡充する介護生産性向上推進事業(→上図)を紹介
導入の結果を共有していくことが重要
公益財団法人テクノエイド協会
企画部 部長
五島清国氏
協会の介護ロボット等の開発・普及に関する取り組みなどを説明した五島氏。介護・福祉機器の利用安全に資する取り組みも発表した
一番大事なことは学ぶ姿勢です
公益社団法人全国老人福祉施設
協議会 ロボット・ICT推進委員会 委員長
中山辰巳氏
全国老施協版介護ICT導入モデルを紹介し、モデル施設での導入効果を報告。機器の効果を最大限に発揮するためのポイントなどを語った
よりよい介護を実践していくことが確認できた
株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会
イノベーショングループ 部長
紀伊信之氏
全国老施協版介護ICT導入モデルのサポートを行っている経験から、デジタル機器はすぐに使いこなせるわけではないと実感したとコメント
構成=玉置晴子/撮影=山田芳朗、磯﨑威志/取材・文=石黒智樹、宮澤祐介
Check
厚生労働省が実施する「介護生産性向上推進事業」
都道府県が主体となり、介護生産性向上総合相談センター(仮)を設置。介護現場革新会議において策定する基本方針に基づき、さまざまな生産性向上に関する取り組みや人材確保に関する各種自業との連携の上、介護事業者に対し、ワンストップ型の支援を実施していくというもの