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介護イノベーション最前線
有識者が解説する介護DX、ICT化の「現状と課題」
2022.06 老施協 MONTHLY
要介護者の急増、人材の不足と待遇改善など、多くの課題を抱えるこれからの介護現場。
AI、ICTを中心としたイノベーションの活用によるDX化の推進が叫ばれて久しいが、遅々として進んでいない。
そこで今回は、さまざまな立場で研究、普及に携わる有識者、先んじてDX化に取り組んでいる介護施設から、現状の課題と意識改革の重要性など最新の動向をひもとく。
有識者が解説する介護DX、ICT化の「現状と課題」
コロナ禍をきっかけにDX化に取り組む施設が増えたが、まだ進んでいるとは言い難い。この現状を打破するにはどうすべきか、DX、ICT化の推進のためシステム開発や調査研究に力を注ぐ3人に聞いた。
一般社団法人 日本ケアテック協会 専務理事 事務局長
竹下康平氏
公益財団法人 テクノエイド協会 企画部長
五島清国氏
株式会社NTTデータ 経営研究所 アソシエイトパートナー
米澤麻子氏
介護のDX化の成功にはチームリーダーが必要
―そもそもなぜ介護現場のDX化が必要なのでしょう。
五島 人手不足の解消や介護サービスの維持・向上はもちろんですが、介護を見える化することによって科学的介護を実現し、自立支援と重度化防止・安全性の確保につなげるという側面もあります。
竹下 近年は厚生労働省も生産性向上のガイドラインを作成したり、現場のファシリテーターを養成する手引きを作ったりとリテラシーの向上を図っていますね。
―そんな中、導入しても活用できないという声も多いです。
米澤 業務に合った機器の導入ができていないことが要因ですね。テクノロジーの導入は①現状分析②目標の決定③業務フローの設計④機器の導入⑤運用状況の確認と展開、というのが通常のプロセス。各プロセスを検証しなければいけません。導入失敗には現場の課題の分析をしない、または業務フローの設計なしでシステムを導入する2つのパターンがあります。
竹下 さまざまな製品が出て選べるようになった半面、現場に知識がなければベストな製品をチョイスするのは現実的に難しく、使いこなすのはかなり難題ですからね。それはわれわれの協会の設立理由の一つにもなっています。そのために事業所が製品を選ぶ際の指標となる「ケアテック認証制度」、および認証制度に関わるガイドラインを作成しているところです。
五島 施設の中でDX化の旗振り役が必要ですよね。チームリーダーを養成し、現場で課題を共有し、何から進めるかなどを話し合う。そして導入後にも課題や得られる情報をリーダーに集約し、改善策を模索する努力が必要と思います。
竹下 そうですね、元々業務改善委員会等の会議体がある施設は現場が主体性を持って考える土壌があるので導入の成功率が高いですよね。また法人の自力での遂行が難しい場合は専門的なコンサルタントを入れるなど伴走者が必要。個人的な意見としては、社内をシステム化する上では介護業務を熟知した業務SE(システムエンジニア)的な人材が重要と考えます。
米澤 使いやすい機器であるか、セキュリティーに信頼性のあるものが作られているかということも大切です。そして信頼性の高い機器を開発するには、施設側もデータを提供するなどの協力が必要ですよね。現場と開発側が相互に機器の精度を上げる取り組みをしていくことが重要だと思います。
五島 現場ではこれまでテクノロジーを使わなくても介護ができていたことで、テクノロジーを使おうという意識の醸成・教育が十分ではないと感じます。
―現場の意識改革が必要ということでしょうか。
五島 パラダイムシフトですよね。技術はどんどん進化していきますから。若い世代の従事者が楽しく、やりがいを持って介護をしようとしている。本来の寄り添った介護をする上での環境をいかにつくっていくかにもDX化は必要です。
竹下 現場が必要性を感じていないケースは多々あります。今人員が足りていても、地域の5年後10年後の生産年齢人口を考えた際、人材確保を維持できるのか?などの背景の理解まで浸透しなければ、現場は「今困っていないから必要ない」となってしまう。またICTを活用する上で、今まで行わなくて良い事務(制約)も発生します。善が必要な理由と制約を現場と共有しなければいけませんよね。
米澤 記録を手書きでするというのは他の業界の人からすると考えられない世界ですから、若手から少しずつ意識改革をしていくといいのではないでしょうか。テクノロジーは利用者にも喜んでもらえ、業務をより良くするためのもの。現場の方々には、わくわくするものだと思ってもらいたいです。
介護ロボットの例
移乗支援
装着型パワーアシスト
移動支援
歩行アシストカート
排泄支援
自動排泄処理装置
認知症の方の見守り
見守りセンサー
補助金はスタートアップのみ
継続できるシステムが必要に
―しかし導入以前に予算の問題で二の足を踏んでしまうというのも実情だと思いますが。
米澤 確かに資本力によってDX格差が大きくなってきているなと感じます。厚労省や自治体では助成金やICTアドバイザーの派遣を行っていますので、それらを活用していただきたい。
五島 必要な機器を必要なときに必要なだけ使えるサブスクリプションのような新しいサービスにも可能性を見いだしたいですね。予算の根本的な解決にはならないかもしれませんが、今後、最新機種が出てきたときにどうするのかという問題もありますから。
竹下 いろいろな面で補助金が使えるようになったのはいいことですが、テクノロジーを導入したからといって資金がたまっていく仕組みにはなっていないですからね。介護の生産性向上というのは労働力を削るためにあるのではなく、介護の質を上げるためのものです。生まれた時間は、利用者のQOL向上のためのサービスとして返していきたいというのが現場の思い。使い続けるためのコストを、例えば「ICT活用推進体制加算」などを作って介護保険適用にできればいいなと。生産性が向上し介護の質が上がれば、ADLの維持、重度化防止、QOLの向上につながり、最終的に社会保険費が下がるのではないかと考えています。
―介護業界のDX化に今後どのようなことを期待されますか。
五島 タブレットも携帯もぶら下げて介護はできないですから、1つのデバイスでデータを共有できるような機器開発が進んでいくことに期待したいです。
竹下 協会にはそういったニーズを拾い上げて環境づくりを行うことが求められていると感じています。個人としては、ITの力で事務業務の省力化をし、介護従事者が本来の専門職に専念できるのがあるべき姿だと思っています。
米澤 今後はICTが当たり前の世代が利用者になり、高齢者像もどんどん変わっていきますしね。高齢者の方が幸せに暮らすためのツールとしてICTやロボットがある。介護において、日本は海外に比べ制度もICTも先進しています。日本からいろいろな発信ができるといいですね。
ロボット介護機器の開発重点分野(平成29年10月)※出典:厚生労働省公式HP
撮影=磯﨑威志(砧ホーム)/取材・文=岸上佳緒里
介護ロボットとは ※出典:厚生労働省公式HP
ロボットの定義とは、
この3つの要素技術を有する、知能化した機械システム。