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利用者と介護者の命を守るために 災害が起きる前に備えておきたい 高齢者施設での 避難準備①

9月1日の防災の日を前に、家具の固定や備蓄の点検、さらに災害後にいかに事業を継続させるかというBCP(Business Continuity Plan)についてなどの情報がさまざまなメディアで取り上げられています。しかし高齢者施設での災害を想定したときに、まず考えておくべきは、いかに早く安全な場所に、介護者とともに無事に避難できるかということです。

 高齢者施設の利用者の多くは自分だけで逃げることはできません。また高齢者が体育館などの避難所で今までと同じような介護を受け続けることも現実的ではありません。基本的には施設がそのまま避難所となり、施設内の同じフロアの安全なところに移動する水平避難か、より安全なフロアへ移動する垂直避難を選び、どうしても施設内にいることが危険なときだけ、施設外へ避難することになると想定されます。

 大災害が起こったときは恐怖心でパニック状態に陥ることもあり、とっさの判断に迷うこともあるでしょう。そこで今回は、災害時にできるだけ安全かつ迅速に避難するために、今から準備しておきたい事柄についてまとめました。

 

 「避難情報に関するガイドライン(内閣府・防災担当)」では5段階の警戒レベルを明記して防災情報が提供されることとなっています。自治体から警戒レベル4避難指示や警戒レベル3高齢者等避難が発令された際には速やかに避難行動をとってください。
 多くの場合、防災気象情報は自治体が発令する避難指示等よりも先に発表されるため、危険な場所からの避難が必要とされる警戒レベル4や高齢者等の避難が必要とされる警戒レベル3に相当する防災気象情報が発表された際には、避難指示等が発令されていなくても、ハザードマップでその場所の災害種類別リスクを事前に確認しておき、防災情報に応じながら、自ら避難の判断をしてください。
 また、夜間の避難は危険を伴うことがあるだけでなく、夜勤のスタッフだけで対応すると避難が遅れる心配もあります。夜間に災害の発生が切迫するおそれがある場合には、日没までに避難を完了するようにしましょう。 デイケアサービス施設等の通所施設については、休業判断をすることが利用者の命を守る手段となります。

 避難の際、情報は大変重要なものです。多様な手段から正しい情報を入手して落ち着いて避難しましょう。日頃から自治体の防災担当者などと綿密なネットワークを築いておくことで、いち早く被害情報を収集できたり、避難に向けての適切な判断を仰ぐことも可能になります。

 普段から避難場所や避難経路を確認し、大勢が一度に扉に殺到しないために利用者の誰から順番に避難させるかなども、あらかじめ決めておきましょう。  どうしても屋外に避難しなければならない場合は、原則として徒歩での避難が推奨されています。ただし歩行が困難なお年寄りの場合には災害の種類や状況を考えて、適切に車を利用することも選択肢となります。車で避難する場合には、水に流されたり、浸水した車から脱出できなかったり、渋滞を招いたりすることがないように注意しましょう。

 

ハザードマップの確認

 自分たちの施設の立地がどんなハザード(危険)にさらされているかを正確に知るための手がかりとなるのがハザードマップです。ハザードマップは対象となる自然災害ごとに作成され、法令等に基づき自治体が体系的に作成しています。

 またハザードマップは大災害などをきっかけに更新されることがあります。最近でいえば、中小河川等の水害リスク情報のない水域でも多くの浸水被害が発生していることから、 水害リスク情報の空白域を解消するために水防法を改正し、浸水想定区域図及びハザードマップの作成・公表 の対象を全ての一級・二級河川や下水道※に拡大しています。

 洪水浸水想定区域図は令和7年度までに完了を目指し、雨水出水浸水想定区域図は令和7年度までに8割の完了を目指していることから、利用する側もこまめにチェックし、見直しをすることが必要になります。

※ 全ての一級・二級河川や下水道とは、住宅等の防護対象のある全ての一級・二級河川や浸水対策を目的として整備された下水道のこと。

 

 

内水ハザードマップの重要性

 内水(ないすい)氾濫とは、大雨などが原因で下水道の雨水排水能力を超えてしまった場合、下水道設備にキャパオーバーが発生し、水が地上にあふれ浸水する現象を指します。

 洪水であれば、河川の流域が危険箇所になることは、感覚的に分かりますが、内水は河川のそばだけで起こるものではありません。内水ハザードマップで浸水の発生が想定される区域や避難所に関する情報を知ることがリスク回避の唯一の手段といってもよいかもしれません。

 さらに内水ハザードマップは、地下室への止水板、土嚢等の設置、住民の自助、適正な土地の利用を促すことも目的として作成されています。

   大雨や台風で浸水被害が想定されるときは、洪水ハザードマップだけでなく、内水ハザードマップを注視することが必要です。また、ため池ハザードマップはため池が近くにある場合、地震や豪雨などで築堤が決壊した場合の浸水想定区域を示しています。

専門家と一緒に施設独自の ハザードマップを作れば安心

 ご紹介したようにハザードマップを活用して避難計画を立てるにしても、これだけの情報を突き合わせて、抜かりのない避難経路を想定することは非常に困難です。

 そこで先にも記載したように、日頃から地域の自治体などとのネットワークを深めておき、ハザードマップの見方についてアドバイスを得ておくことも有効です。

 また防災の専門家とともにあらかじめ施設独自のハザードマップを作っておくという方法もあります。今回、この記事の監修にあたった3名は、「技術士」という国家資格を有しています。技術士が集まって社会に貢献することを目的とした公益社団法人が日本技術士会です。

 日本技術士会の防災支援委員会では大規模災害発生時の被害軽減を技術支援するため、建設、情報工学、電気電子、機械、上下水道、衛生工学など21の科学部門専門家が技術と知恵を出し合い、最新の情報に基づいた減災マップの作成や、防災・減災に関わるアドバイスなども行っています。

取材・文=池田佳寿子