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特集

出会えてよかった! 外国人介護人材 CASE STUDY 01 社会福祉法人織舩会 ウエルハイム・ヨコゼ

今後、人手不足が深刻化すると予測される介護業界において、
外国人介護人材の存在はもはや不可欠です。
日本に魅力を感じ、介護を学んで資格を取得したいと願う若い力を、
私たちはどう伸ばし、どう活用すればよいのか、二つのケーススタディから探ります。

技能実習生のハナロズさんとジェイゼルさんを、フィリピン人職員の先輩や日本人職員が取り囲む

 

技能教育と日本語教育と 生活面のサポート

 今回ご紹介する2つの施設では、それぞれフィリピンとミャンマーからの外国人材を受け入れています。実務経験を経て介護福祉士の資格取得に挑戦する方も多く、国家試験の合否は、外国人本人はもとより、雇用している介護施設にとっても永続的に働いてもらえるかどうかの分かれ目となっています。仕事に従事しながら、いかに技能教育と日本語教育を行い、生活面のサポートをして離職を防いでいるかを伺いました。

 

CASE STUDY 01
職員からのサポートを受け、 即戦力として活躍中

コロナ禍の入国延期中は オンラインで親睦を維持

 特養部門90床、ショートステイ10床を抱えるウエルハイム・ヨコゼでは、現在、常勤・非常勤で総勢60名のスタッフが働いています。このうち外国人材は計12名。そのなかの4名はフィリピンから 来た永住者で、残り8名のうちの4名が、同じくフィリピンから特定技能制度を利用して2022年6月に入職しました。

 「介護人材の雇用は、従来ハローワークと人脈を頼った紹介が主で、求人広告を出しても応募はほとんどありません。そのため、外国人材の採用は安定的な雇用を継続し、組織の若返りを図るための有効な手段でした」(中根さん)

 オンラインでの面接後に、フィリピン人4名の内定を決めたのが2020年。その後コロナ禍となり、入国は2年延期となったものの、その間、内定した4名と職員とがオンラインで話す機会を何度か設けるなど交流を継続し、互いのモチベーション維持を図ったといいます。

 「たまたまですが、うちには2009年から永住者のフィリピン人が介護職で働いており、その方にも面接やオンライン親睦会に参加してもらいました。同国の後輩の入職は彼女にとっても励みになるはずですから」(中根さん)

 「先に入職していたフィリピン人職員は仕事ぶりが実に素晴らしく、長く職員の規範的な存在です。そんな彼女を頼って、うちの施設では永住権のある優秀なフィリピン人職員が増えてきたという背景があります」(豊田さん)  こうした素地があったため、外国人材の活用には抵抗感がなかったと二人は口を揃えます。

当初あった言葉の壁を 取り払ったのは同国の先輩

 ただし、受け入れ側としての不安がまったくなかったわけではありません。

 「やはり言葉の問題は気がかりでした。今いるフィリピン人職員は日本在住歴が長いため、言葉や考え方が日本人に近いのですが、新しい4名はそうではないので、コミュニケーションがちゃんと取れるかどうか。もちろん、日本語能力ではN4をもっているので、基本的な日本語の理解は可能と思っていましたが」(豊田さん)

  その懸念どおり、入職当初、4名とは会話が成立しづらい状況でした。

 「こちらの言っていることは理解できても、その返事を日本語で返せないので、我々は指示に対してどこまで理解できているのかわからないという不安がありました。そんなとき、同国の先輩職員が間に入り、こちらの言っていることを母国語で彼女らに伝え、彼女らの思いを日本語でこちらに伝えてくれたことで、意思疎通を図ることができました」(豊田さん)

 その結果、技術や知識の習得がスムーズに進み、入職半年後には4名とも先輩と組んで夜勤を行うことまでできるようになったといいます。

資質をベースに、今は介護の テクニックを習得するとき

 このことから、外国人材を活用するには職員のサポートが不可欠だと豊田さんは話します。

 「うちの場合、先輩職員の働きぶりのよさもあり、職員みんなが新しく入る外国人スタッフにフレンドリーな気持ちをもっていました。なかでも同国の先輩職員らは、まるで家族のように4名に対して仕事からプライベートまでを親身にサポートしてくれたおかげで、こちらの生活に早く慣れることができ、今では日本語で冗談まで言い合う関係になれました」(豊田さん)

 「先輩職員が休日を返上して彼女らの日常の買い物につきあったり、ごみの出し方を教えたり。先日は一緒に東京ディズニーランドに行ったようです。そうした交流が仕事への意欲につながっていると感じています」

 利用者への対応も良好となり、よい信頼関係が築けているといいます。

 「ただ、そうは言ってもまだ2年。今は介護のプロとして仕事の精度を高めていくのが課題です。フィリピンには自宅で家族を介護する風習があり、その文化のもとで育った彼女らは介護職に向く資質があります。今後はその資質を生かし、介護に必要なテクニカルなことをしっかり身につけていってほしいですね」(中根さん)

 

我々は人材を預かる立場 介護のプロとしてしあわせに

 一昨年に入職した4名に続き、昨年11月には第2弾としてミャンマーから技能実習生4名が入職。彼女らには同国の先輩がいないため、厳しい言葉の壁に直面しているといいます。

 「そのため、毎月、相談員が日本語ドリルで学習機会を作っています。。今は大変ですが、それでも彼女らは欠勤もせず、真面目です。今は苦労をしていても何とか明るさと思いやりで乗り越え、介護のプロとしてしあわせになってほしいと思います。母国を離れて働く若い女性たちを、我々はお預かりしている立場。日本での経験をよい思い出にしてもらうためにも、しっかり面倒をみなければと思っています」(中根さん)

❶ベッドから車椅子への移乗も、今では一人で行うことができる ❷明るい笑顔と対応は 利用者からの評価も高い 

 

INTERVIEW
ウエルハイム・ヨコゼ 外国人材インタビュー

父が生きていたとき、歩く支援をしたことから介護の仕事に興味をもちました。そして働くなら、私の好きな国でと思い、日本に来ました。普段の仕事は大変ですが、私は身体的なサポートだけではなく、ご利用者が喜びを感じられるように支援したいと思っています。それでご利用者から「ありがとう」「また明日」と声をかけていただくと、すごくうれしくなります。将来のことはまだ決められませんが、介護福祉士の資格を取得できたら、ずっと日本で介護の仕事がしたいと思っています。

 

最初の頃はご利用者に私の日本語が伝わらず、心細くなりました。入国前に介護については勉強しましたが、日本に来て、実際にやってみると大変で、ご利用者をベッドから一人で起こすことができませんでした。でも何度も練習をして、今では一人でできるようになりました。 日本語は『名探偵コナン』や『鬼滅の刃』の英語字幕のアニメを観るなどして、自分で勉強しています。健康に気をつけて、これからもこの仕事を続けたいと思っています。

 

私の母は、私が6歳の頃から複雑な病気になり、10年ほどお世話をしました。その経験が、この仕事につながっていると思います。仕事の現場では、薬を飲むのを嫌がるご利用者もいますが、困ったときは先輩にどうすればよいかを相談しています。仕事で大事にしているのは、ルールを守ることです。そして、今はもっと日本語が上手になりたいです。そのために辞書を引くことも多いです。趣味は、歌うこと。フィリピンが恋しくなったときは、同室のキナンさんとカラオケに行って気分転換を図っています。

 

入職してすぐの頃は、ご利用者を支援したいのに、相手が何をしてほしいのかわからないときがありました。でも、そんな経験は、私にとっては苦労ではなく、チャレンジ。わからないことはまずリーダーに相談して、学んでいきました。日本は時間を守る人が多いので、私も時間は厳守するようにしています。私はお料理をつくるのが好きなので、休みの日はフィリピンの味をおうちで再現してみんなに食べてもらいます。将来は、日本での経験を生かしてフィリピンでビジネスをしてみたいです。

撮影=松浦幸之助/取材・文=冨部志保子