キャリアアップ

介護のかくしん

コミュニケーションの核心 その1 相手の存在を認める

介護の現場に必要な「革新」や「確信」や 「核心」をその分野の専門家に伺います。


 「あなたの存在を 無視していませんよ」と 伝えるのが挨拶。

 人は他人と関わりながら生きる動物なので無視されると不快になり、無視された方も、無視したくなります。だから相手の存在に気づいたら、すぐにそのことを伝えましょう。それが「挨拶」です。  朝だから『おはようございます』で、帰る時は『失礼します』というキマリが大切なのではなく「相手の存在や気持ちを、察する」ことが「挨拶」だと覚えましょう。  そう考えれば、後輩や部下に自分から先に挨拶したら軽く見られるなどとネガティブに考える必要もなくなります。挨拶は上下関係を示すものではなく、むしろ先手必勝! 先に相手の存在に気づけた自分に自信をもちましょう。もちろん、相手に先を越されてしまった場合は、すぐに続けて挨拶を返すのを忘れずに。   万一、その挨拶が自分に向けられているものでなく、勘違いであったとしてもむしろラッキー。あなたがその人と挨拶を交わすチャンスが生まれたのですから。

「あなたのことをちゃんと 見てますよ」が会話のはじまり

 気忙しそうに日勤の引き継ぎをしている夜勤のスタッフに、何と声をかけたらよいのかためらうこともあると思います。でも、ここでも大切なのは『おはよう』や『こんばんは』の違いではなく、「あなたが今日もしっかり引き継いでくれることに感謝しています」と、相手の存在を無視しないことなのです。  だから最初の挨拶が『ありがとう、よろしく』でも『お疲れさま』でも問題ありません。  存在に気づいたらもう一つ、その人の功績や変化に気づいてあげることも、とても有効な挨拶になります。  「昨日は○○さんが体調を崩して大変でしたね。おかげで助かったわ」とか「掃除しておいてくれてありがとう」でも、「雨が降り出しましたけれど、大丈夫でしたか?」「あなたの好きなドラマが昨日は最終回だったね」でもよいのです。自分の関心が相手にあることをさりげなく伝えることで、会話がはじまっていきます。

 

 「あなたへの感謝を覚えていますよ」 と伝えることで会話が続く

 相手の何かを褒めたり、関心をもっていることを示そうとしても、毎日のことともなると特に伝えることもなくなってくるかもしれません。  そんな時に有効なのは、以前にしてもらったことへの感謝を述べること。「子どもが熱を出した時はピンチだったから、代わってもらって助かった」「○○さんの趣味の話を教えてくれてありがとう」「連れていってくださったあの店のお弁当はやっぱりおいしいですね」など。繰り返し同じことを感謝されたからといって、嫌な顔をする人はあまりいないと思います。  あなたという存在を大切にしていることを伝え続けることが、よいコミュニケーションを保つ秘訣なのです。

 

高齢者にこそ 「傾聴は愛のはじめなり」

 これは鎌倉時代の高僧のことばだと聴いたことがあります。「相手の話をよく聴くことが好意的な人間関係を築くことにつながる」ということを端的に表しているように思います。  高齢者への「傾聴」は介護の現場ではなくてはならないもの。せっかく一定の時間を「傾聴」に費やすなら、左記のポイントに気をつけて、ご利用者とのコミュニケーションがよりよいものになるように心がけてみてください。  そしてこれは仕事仲間とのコミュニケーションにも当てはまります。自分の話をよく聴いてくれる人を、不快とは思わないのは、人は本来、話したい動物だからです。

 

人間関係を育てる「傾聴」

相手にやさしい視線を投げかけて聴く。
適切なタイミングで あいづちを打ちながら聴く。
熱心に聴いているということを、 相手に伝えながら聴く。
相手の気持ちを汲み取りながら聴く。
どんなに忙しくても、相手に向き合って 聴くことだけに集中する。

 

取材・文=池田佳寿子