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第23回 福島県伊達市 社会福祉法人慈仁会 特別養護老人ホーム 星風苑
2024.02 老施協 MONTHLY
独自の取り組みでキラリと光る各地の高齢者福祉施設へおじゃまします!
※「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」入賞施設を取材しています
「週休3日制」を導入し、スタッフが笑顔になることで、サービスも向上
高齢化する地域のため地元出身の医師が開設
福島県の北部に位置する福島市の北東に隣接する伊達市。福島市街のJR福島駅から車で30分ほど行った伊達市南部の自然豊かな山間地域となる月舘町に、特別養護老人ホーム星風苑はある。
’03年に福島市にある社会医療法人福島厚生会福島第一病院の星野俊一理事長(当時)が、高齢化社会を見据えて地元に貢献したいという思いで、初代理事長として社会福祉法人慈仁会を創設。’04年に自身の地元である伊達市霊山町に隣接している月舘町に、特別養護老人ホーム星風苑を開設した。’18年には星野俊吾理事長が就任し、現在まで運営している。
伊達市には特別養護老人ホームが8施設あり、月舘町は伊達市旧5町の中でも人口が一番少なく、その約半分が65歳以上の高齢者という、超高齢化が顕著な町である。
利用者については、50%が伊達市、18%が飯舘村、10%が相馬市、6%が福島市・川俣町、16%がその他地域より入所しており、介護老人保健施設に長期入所中の方や退院後の在宅介護が困難になった方、ショートステイ利用者で在宅介護が困難に至った方が多くを占めているということだ。
面会専用棟増設のほか災害への対策にも注力
理念としては、人生の先輩である高齢者の尊厳を大切にする「人間尊重」と、優しさを持って丁寧なケアを実践し、愛と慈しみの優しい心と笑顔で、安心と信頼の福祉支援サービスを提供する「慈愛」を掲げている。品質方針は、「目配り、気配り、心配り」。これは、3つが整ってこその安全安心であり、ヒヤリハットのときはどれかが抜けているという心構えで臨んでいるのだそうだ。
建物は、面積1万7811㎡の広大な敷地に、延床面積5228㎡という鉄筋コンクリート造りの平屋建てとなっている。居室は、全てユニット型の個室で、特別養護老人ホームが1ユニット10~12室の8ユニットで合計90室、ショートステイが1ユニットで合計10室という構成であり、居室面積は19.25㎡、全室トイレ、洗面台、冷暖房完備となっている。
また、特徴的な設備として、「エスポワール」と名付けられた面会専用棟がある。これは新型コロナ感染症流行時に増設され、利用者と訪問者を隔離する構造により、いつでも面会が可能、さらに福祉避難所としての機能も持っている。他にも、太陽熱を活用した給湯システムや、井戸水を飲料水に浄水可能な装置などを設置、災害対策にも注力している。
スタッフは、男性40人、女性56人の合計96人。平均年齢は44歳である。また、深刻な人材不足となるであろう将来を見据えて、昨年7月に初めての外国人スタッフとして、インドネシア人の特定技能スタッフを2人雇用した。
労働環境改善のために週休3日制導入を実施
同施設では、スタッフの労働環境改善と人材確保のための「強み」として、週休3日制を導入している。1日8時間勤務から1日10時間勤務とし、シフトスケジュールを工夫することで、常態化していた残業が激減、スタッフが連休を取得しやすくなり、疲労が軽減され、プライベートの充実を実現、スタッフの笑顔も増え、利用者へのサービスも向上、おおむね好評を得ているという。
今後は、週休2日制と週休3日制の選択制を視野に入れ、自由で幅広い働き方ができる職場環境づくりを進めていくそうだ。
【キラリと光る取り組み】
次世代の働き方と人材確保戦略
週休3日制の導入と効果
「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」実践研究発表奨励賞受賞
施設長・居宅所長 鈴木忠彦さん インタビュー
――この取り組みへのきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?
鈴木:当施設は、公共交通機関がほとんど利用できない山間地域に位置していることもあり、スタッフの人材不足に非常に苦慮していました。配置基準は満たしているのですが、実際、より良いサービス提供を行う上では、スタッフが不足しており、日勤と夜勤のつなぎ時間において時間外労働が1人当たり月25〜30時間あるといった具合に常態化していて、残業ありきのシフトスケジュールとなってしまっており、スタッフが疲弊している様子が見られていたのです。人材不足から夜勤(8時間)回数も増加しており、夜勤明け休みが月に5~6回発生しているため、夜勤明けの休みは一日寝ているだけで休んだ気がしない。法定休日以外に丸一日の休日取得が困難になり、連休も取得し難くなっていました。そんなプライベートの時間を確保し難い状況に、スタッフが退職する事例も数件発生してしまっていました。このようなことから、労働環境を改善し、スタッフを定着させるために、当施設の「強み」を作ろうと模索していたときに、福島県で週休3日制導入事業を行うという通知があり、説明会に参加したことがきっかけとなりました。
――取り組みの具体的な内容は、どのようなものだったのでしょうか?
鈴木:まずはとにかくやってみようと、コンサルを受けながら試行錯誤し、取り組みを始めました。従来の流れやシフトの動きを見える化し、従来の1日8時間勤務から新たに1日10時間勤務へのモデル業務シフトを作成。勤務表作成単位(ユニット)における1日に最低限必要な出勤者数(5人)を割り出し、夜勤スタッフの配置も、100床に対し6名から5名に変更。シフト表を作成し、シミュレーションを行いました。また、スタッフには、業務内容やシフトの比較をメリット、デメリットを含めて説明。その後、アンケートを実施し、働き方が変わることに対するスタッフの不安に対し、個別面談を行い、解消していきました。これらを、9ユニットのうち、3ユニットから試験的に導入を始めながら、その間に有料紹介求人などにより、人材確保を強化してスタッフの増員を図り、残り6ユニット全てに導入しています。
――この取り組みの成果としては、どのようなものがあったのでしょうか? 反対するスタッフはいなかったのでしょうか?
鈴木:時間外労働を前年度比マイナス5031時間という大幅な削減を達成、スタッフの出勤時間が重なることが増えました。また、1日の出勤人数が固定されるため、シフトが作成しやすく、急な勤務変更があっても、勤務の組み換えがしやすい、勉強会や会議を業務時間内に完結できるなどの効果がありました。公休数の増加により、丸一日の休日が増加、スタッフのプライベートが充実してきたことで、多くの笑顔が見られるようになりました。子供と過ごしたり、趣味、資格取得などの勉強に費やす時間が増えたと歓迎されています。また、週休3日制は、スタッフの6割以上、特に若手のスタッフが賛同していますが、1日10時間勤務は、ワンオペレーションの勤務が長くなり、新人スタッフにとっては不安を感じるという声も聞こえているため、インカム、グループチャット、オンライン会議、介護記録システムなどのICTを活用して、コミュニケーションを円滑に図れるような環境を整備しています。こういった取り組みも、自分たちの強みとして求人活動でも発信をすることで、見学者や問い合わせも増えました。
――この取り組みに関して、今後の課題、目標がありましたら、教えてください。
鈴木:週休3日制を維持していくためには、一定のスタッフ数が必要であり、スタッフ採用と育成、定着に力を入れ、体制確保が必須となります。週休3日制をアピールし、スタッフの応募を増やすため、SNSなどを使って広報活動を強化したいと考えています。そして、定着率向上のため、働き方の工夫やモチベーション向上に対する取り組みも行っていきます。また、1日10時間勤務という長時間労働になるスタッフの負担軽減のため、見守りシステムなどICTを活用し、効率的な業務への見直しや、情報共有、連携等の業務改善をさらに進めていかなければいけません。スタッフにも家庭や育児などそれぞれの事情があるので、従来の週休2日制と新たな週休3日制の選択制ということも視野に入れ、自由で幅広い働き方ができる職場環境づくりを進めていきたいと考えています。
社会福祉法人慈仁会
特別養護老人ホーム
星風苑
〒960-0906
福島県伊達市月舘町御代田月崎山1-7
TEL:024-573-3581
URL:https://jijinkai-seifuen.jp/
[定員]
特別養護老人ホーム:90人(ユニット型)
ショートステイ:10人
撮影=山田芳朗/取材・文=石黒智樹
社会福祉法人慈仁会
2003年、福島市にある社会医療法人福島厚生会福島第一病院の医師であった星野俊一理事長(当時)が、初代理事長として社会福祉法人慈仁会を創設。2004年、特別養護老人ホーム星風苑を開設。2008年、ケアハウス星風苑を開設。2018年に星野俊吾理事長が就任し、現在これらの施設を運営している