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JSフェスティバル in 岐阜最速リポート!
〜女性キャリアアップ推進プログラムで職場の環境づくりを討論〜 笑顔で働き続ける「女性活躍社会」の実現へ
2023.12 老施協 MONTHLY
11月29日・30日に開催された「第2回全国老人福祉施設大会・研究会議~JSフェスティバル in 岐阜~」では、初日に「みんなが笑顔になる職場とは~女性視点の職場環境づくり~」をテーマに検討会が行われた。
全国老施協・女性キャリアアップ推進部会 担当副会長の山田淳子氏が司会進行を務め、介護業界における有識者2名と現場職員代表者2名がパネリストとして参加。
男女関係なく力が発揮できる職場環境をどのようにつくっていくかが話し合われた。
また、最後に2022(令和4)年7月8日に施行された「女性活躍推進法に関する制度改正のお知らせ」も紹介する。
介護業界で活躍する女性を支援
公益社団法人 全国老人福祉施設協議会 女性キャリアアップ推進部会
担当副会長 山田淳子
大山知子会長により今年9月から始動した「女性キャリアアップ推進部会」は4つの柱の一つ、女性活躍社会の実現促進に取り組む
性別問わず、働く現場の見直しが重要
慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科
教授 堀田聰子さん
ケア現場の実態把握や地域での支え合いに関わるプロジェクトを推進。2018年より「認知症未来共創ハブ」を始動、代表を務める
産後女性のリアルな思いを届けたい
株式会社Blanket 代表取締役
秋本可愛さん
介護に関わるオンラインコミュニティー「KAIGO LEADERS」を運営。厚生労働省「介護のしごと魅力発信等事業:事業間連携等事業」企画委員
これまでの経験談や現場職員の意見を披露
特別養護老人ホーム ほほえみ福寿の家
施設長 高井澄恵さん
子供2人を育てながら介護業界でキャリアを積み重ねてきた。「子育てと仕事を両立するために経験してきた苦労や思いを、皆さんと共有できればと思います」
職員それぞれに合ったコミュニケーションを!
特別養護老人ホーム 小川ホーム
施設長 小林美穂さん
東京都小平市「地域包括支援センター」センター長を兼任。「職員の悩みは、男性・女性・管理職問わず、それぞれ得意な部分をフォローするといいと思います」
アンケートから読み取る現場職員の悩みや思い
大会・フォーラム委員会では、会員を対象に「働き方や職場環境改善」についてのアンケートを実施した(下図)。
山田「アンケートには、人的環境に関する意見や悩みが多く寄せられました。女性職員の思いをくみ取ってアドバイスできる女性管理職を求める意見や、子供の体調不良時でも休みづらさを感じる女性職員の意見が挙がっています。また、施設に保育所があるなど、仕事と家庭の両立に向けて具体的な取り組みを行っている施設があることも分かりました」
高井「私自身、『子供をどこに預けよう』『帰りが遅く子供に申し訳ない』と、子供に謝りながらでないと仕事を続けられなかった経験があります。職員からは『子育ては夫婦で行うものだから、女性だけでなく男性も同様に休めないと、女性にとって働きやすい環境にならない』という意見がありました。また、他職員への気兼ねから休めない状況が続くと、結局は家庭を犠牲にせざるを得ない。必要なときに必要な休暇を、男女の区別なく取得できればと思います」
秋本「産休中の私にとって、すごく共感できます。私がこの場に参加できるのは、育休中の夫が子供を見てくれているから。産後の女性を代表して言いたいのが『男性育休は最高』ということです。皆さんの職場ではどうでしょうか? 実際は現場の人手不足により難しいこともありますが、男性がいかに子育てに参加できる環境かという点は、これからの組織の在り方にも関わってくると思います。女性キャリアアップ推進部会が立ち上がったばかりということで、女性管理者比率に加えて、男性育休の取得率も調べていただき、年々上がっていくような状況がこの部会でつくれればいいですね」
小林「悩みやその経緯をゆっくり聞ける根気強さは、女性の方があるのではないかと感じています。職員の抱える悩みは、男性・女性・管理職問わず、役割分担をして、それぞれ得意な部分でフォローできるといいのかなと思います」
堀田「アンケートにある具体的なご意見を拝読していると、必ずしも性や役職や年代によらない、共通したものがあります。とりわけ、リーダーシップの在り方、コミュニケーションや連携の取り方などは、介護分野や固有施設に限らないでしょう。女性の職場環境を入り口にしながら、改めて一人一人の職員が抱く悩みや不安、やりがいに耳を傾けながら活動を進めていただきたいと思いました」
より良い職場環境の実現を目指す、活発な意見交換が始まった。
コミュニケーションは人それぞれの取り方がある
小林「皆さんの話を聞き、改めて職員に対するコミュニケーションはすごく大事なものだと思いました。困っていることや家庭の状況が分かっていると、休みが取りやすくなる。また、管理職側も休みの必要性が分かる。普段のたわいない話から、そういうことをお互いに考えられると感じました」
秋本「リーダーが話を聞くというのは非常に重要でしょう。離職率が低い職場、働きやすいといわれている職場では、リーダーが個別面談をして職員の話をしっかり聞くことを実施しているようです。私たちが運営するコミュニティー『KAIGO LEADERS』では、不定期な通院を上司に相談したりシフト調整をしてもらったりすることが難しくて辞めてしまった、夜勤が負担になっているが異動希望がかなわず辞めてしまった、という声も。こういったケースは、ルールがあれば解決するわけではありません。日頃のコミュニケーションの中で、相談しやすい関係性や、シフトの穴を柔軟に埋められるような体制ができているかがすごく重要だと思います」
堀田「面談というフォーマルなコミュニケーションも良いですが、職場でのあいさつや声掛けのようなちょっとしたおしゃべりも大事ではないでしょうか。介護の職場では、利用者や入居者の方々について語る機会は定期的に持たれていると思います。一方で、職員側が自分の状態や感情を自覚して皆に話す機会は、意外と持たれていません。『最近どう?』という職員同士のおしゃべりを増やす方法を考えるのもいいですね」
山田「施設長のお二人は、職員の方と日頃どんなふうにコミュニケーションを取っていますか?」
高井「敷地内で擦れ違うときには必ず『おはよう』や『お疲れさま』と声を掛けます。ちょっと元気がないように感じると、その後に退職の相談をされたりしますね」
山田「声の掛け方には悩ましく思う点もありますが、職員の方にも『あなたを気にして見ていますよ』というメッセージを伝えていくことを大事にしたいものです」
小林「管理職として、職員一人一人をどれだけ知るかということは、すごく大切です。男女関係なく、それぞれの個性を知ることによって、いろいろな声掛けができたり、悩みに気付いてあげることができるのかなと思っています」
堀田「コミュニケーションは本当に人それぞれだと思うので、どういった方法がいいのか、職員全員で考えてみるのも一案です。顔を合わせる面談の方がきちんと話せる人もいれば、文字でやりとりするチャットの方が話しやすい人もいる。自分のことを話すのが苦手でも、入居者や利用者の方について語りながら、意見としてであれば話せるかもしれない。どんな方法がそれぞれの人に適しているのかを皆で考えていくことは、チームや組織の在り方をより良くしていくことにつながります」
コミュニケーションは、頻度に加え方法も検討すべきと指摘した。
女性管理職育成のために必要なこととは何か?
山田「アンケートでは、管理職をやりたがらない職員が増えている、仕事量や責任の重さが負担になって離職される方がいる、といったリーダーの抱える悩みについてもご意見をいただきました」
高井「管理職に就いてから抱える課題は、男性も女性も一緒。しかし辞退する人は女性が多く、それは担う責任を非常に大きく捉えてしまうからではないでしょうか。管理職であっても、一人で悩みを抱え込むのではなく、組織として上に相談できます。日本の社会において、男性はリーダーの立ち位置に立つ機会が多くありますが、女性は慣れていない。そのことが、管理職という立場に対して一歩引いてしまう要因ではないかと感じています。担うべき責任の範囲が見えていれば、そこまで恐れるものではありません。ですから、管理職としての姿形、担うべきものの大きさを見せていくことが大切なのだと思います」
小林「皆さんの中に、管理職はこうでなくてはならないという姿が根強くあって、これ以上の業務を担えないと考えてしまうのでしょう。得意な分野を生かして管理職をやる、という形も必要かと思います。もちろん、仕事量が多過ぎることも管理職が敬遠される理由ですので、業務改善は必要です。さらに、コミュニケーションによる精神的フォローも大切にしていかないと、管理職業務を学んでもつぶれてしまいます」
管理職になりたいと思えるロールモデルが必要
秋本「私たちが実施した意識調査で、リーダーになりたいかを尋ねたことがあります。なりたい人は32%、なりたくない人は38%でした。一方、リーダー職を対象に同じ質問をすると、リーダーになって良かったとの回答は83%でした。実は『リーダーになって良かった』の声には、あまり触れる機会がなかったのではないでしょうか。そうであるならば、リーダーとしてのやりがいをもっと伝えていく必要があります。また、勤続5年未満の世代はリーダー職への昇進意欲が高く、5年目以降になるとガクッと下がる。いかに勤続年数が若いうちにリーダーになる機会があるか、なれそうだと思えるか、というところは大切なポイントだと思います。また、女性リーダーを増やすためには、気持ちの問題だけではなく、管理職の業務改善が必須。私自身、出産をして経営に注力できる時間が減りました。管理職の役割を見直し、物理的に時間がかかる業務を分担したり減らせないかを同時に考えていかなければ、苦しむリーダーを増やしてしまうだけでしょう」
堀田「介護領域に限らず、日本は女性管理職率が極めて低いです。妊娠、出産、育児と、いろいろなことが起こる状況では経験年数が積みにくく、役職が上がりにくいわけです。これはジェンダーにかかわらず言えることですが、意欲のある人を管理職に、と考えるなら年功序列も見直すべきです。また、管理職をやりたくない人が多いのは、良いイメージがないから。例えば、必ずしもフルタイムで働くことが前提ではないような、女性も管理職になりたいと思えるロールモデルを作れると良いですね。管理職側が困っていることや不安なことを言えるような、弱めのリーダーシップもあっていいと思います。これは組織の在り方と連動して考えたい問題です」
性別に限らず、外国人が活躍する現場も増えている介護業界。このように多様化する中で、山田副会長は「働きやすさとは何かを改めて考える段階が来ている」と話し、引き続きまい進することを誓い本プログラムを締めくくった。
撮影=山田芳朗/取材・文=大川真由美
2022(令和4)年7月8日施行 女性活躍推進法に関する制度改正のお知らせ
女性の活躍に関する「情報公表」が変わります
2023年(令和5)年度より新たに公表することになった、制度改正のポイントを詳しく解説。
労働者が301人以上の事業主の皆さま
以下のA~Cの3項目の情報を公表する必要があります。
各区分の情報公表項目
「男女の賃金の差異」の情報公表のイメージ
付記事項(例)
対象期間:●●事業年度(●年●月●日~●年●月●日)
正社員:社外への出向者を除く。
パート・有期社員:契約社員、アルバイト、パートが該当。
賃金:通勤手当等を除く。
計算の前提とした重要事項を付記
(対象期間、対象労働者の範囲、「賃金」の範囲等)
※労働時間を基に人員数を換算している事業主については、例えば以下のように記載すること。
- パート労働者については、正社員の所定労働時間(1日8時間)で換算した人員数を基に平均年間賃金を算出している。
お知らせ
- 情報公表の際は、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」をご活用ください。
- 「男女の賃金の差異」の情報公表に関する詳細を含め、女性活躍推進法の詳細は、厚生労働省ウェブサイト(女性活躍推進法特集ページ)をご覧ください。
- 一般事業主行動計画の策定等については、最寄りの都道府県労働局雇用環境・均等部(室)までお問い合わせください。
どう変わる?
厚生労働省令を改正し、女性の活躍に関する情報公表項目を追加します。事業主の皆さまは、下記の改正内容をご覧の上、ご準備をお願いいたします。
2022(令和4)年7月8日の施行に伴い、初回「男女の賃金の差異」の情報公表は、施行後に最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表していただきます。