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第20回 広島県広島市 社会福祉法人慈光会 特別養護老人ホーム 慈光園
2023.11 老施協 MONTHLY
独自の取り組みでキラリと光る各地の高齢者福祉施設へおじゃまします!
※「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」入賞施設を取材しています
利用者だけでなく、近隣の一人暮らしのお年寄りも気遣った地域貢献を
お寺の住職が開設して68年 歴史ある総合福祉施設
広島市の中心街にある広島駅から車で北へ30分ほど行った、広島市のほぼ中央に位置し、市の8つの区の中で一番人口が多い郊外のベッドタウンである安佐南区。その住宅街の中に立つのが、特別養護老人ホーム「慈光園」だ。
第2次世界大戦の終戦から10年たった’55 年、広島市内では、原爆で子供を亡くし、社会保障もなく、生活に困っている高齢者が非常に多く見られた。それを見かねた正傅寺(浄土真宗本願寺派)の住職であった金尾澄映初代理事長が、私財をなげうって、開基一千年記念法要の記念事業として、社会福祉法人「慈光園」を創設し、同時に養老施設「慈光園」を開設したのが、同施設の始まりである。
その際、地域の多くの方々が応援してくれて、多額の寄付をいただき、以来、地域とのつながりが深まったという。その恩返しとして、特養を始めてからは、体が不自由で入浴できない方のために車で送迎する入浴サービスを始めたり、食堂を開放したりして、地域貢献に努めているそうだ。
その後、’06年には、慈光園は現在の場所に新築移転し、旧慈光園は「上安慈光園」と改称し、現在も営業している。旧慈光園時代は、この辺りは田舎で農家が多く、近所だけでなく県内の遠いところからも入所してきたが、現在は住宅街となり、新しい特別養護老人ホームも多くできたため、すぐ向かいに立つ県営住宅のほか、近所の方たちが利用しているという。
災害からの復旧が早いオール電化の厨房を採用
理念としては、設立当初から「老後に生きがいを」としている。以前、40周年を迎えた際、本当に今の時代に合っているのか検討したそうだが、今の時代でもふさわしいとして継続している。
その理念に沿う基本方針としては、「地域福祉に貢献する」「利用者の人権を尊重する」「施設の発展 明るい職場」を掲げている。その中で、行政がやる前に自分たちがやるのが社会福祉法人の務めであるとして、これがあったらいいのではないかというスタッフの気付きを大切にしているそうだ。
建物は、鉄筋コンクリート造りの3階建てと2階建てと平家の3棟が連結。その中に、特別養護老人ホーム、短期入所生活介護事業所、グループホーム、訪問入浴介護事業所、デイサービスセンター、居宅介護支援事業所がある。
設備で特徴的なのは、調理から保存までオール電化の厨房。災害からの復旧が一番早く、災害食も1週間分用意可能なことから、市の福祉避難所にも指定されている。
スタッフは、現在、男性39人、女性134人の合計173人。平均年齢は、50.4歳である。
お年寄りの地域交流を促す「じこうネット」を実施
同施設では、食へのこだわりと地域貢献を目的として、一人暮らしのお年寄り、特に男性にお弁当を安価で販売し、受け取りに来てもらう「じこうネット」という取り組みを行っている。
これにより、お年寄りの食生活を通しての健康維持と地域交流を促している。徐々にではあるが、その成果は上がっているようだ。
なお、この取り組みは、去る’23年1月に栃木県で開催された「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」の実践研究発表において、優秀賞を受賞している。
【キラリと光る取り組み】
出会いと食事は健康の源
〜いつまでもきょういくときょうようを〜
「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」実践研究発表優秀賞受賞
管理栄養士 中津貴子さん・地域貢献職員 西山和彦さん・常務理事・統括園長 藤井紀子さん インタビュー
――この取り組みへのきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?
中津:もともと、当施設の理念である地域福祉に貢献することを目的に、「地域配食サービス」や「じこう食堂」、古民家で利用者さんとおやつ作りなどを通して認知症予防をする「いとうさん家」など、地域のお年寄りと交流する場をつくる取り組みを行ってきました。その中で、女性はその場を楽しめるのですが、男性がなかなか参加してくださらない。男性はご近所との交流が少ないと聞きますし、施設のすぐ前にある県営住宅でも孤独死の事案を聞いています。そこで、一人暮らしのお年寄り、特に男性の食事と健康が心配ということから、2020年4月より「じこうネット」という取り組みを開始しました。
西山:私はその取り組みを始める時に当施設に来たのですが、ちょうどその頃は新型コロナウイルス感染症がはやっていて、お年寄りの中でも男性がなかなか表に出ないという話があり、窓口となることを依頼されました。
――取り組みの具体的な内容は、どのようなものなのでしょうか?
中津:一人暮らしである60歳以上のお年寄り、特に男性に、お弁当のおかずのみを1個300円で販売するというものです。
西山:お弁当は自炊を促すためご飯を付けず、配達するのは意味がないので、当施設まで取りに来てもらい、その際に、対話をしたり、一緒に体操をしたり、社会と接点を持つことができるようにしています。また、今年の4月からは、男性の行き場として、「じぃじの畑」というものも用意しています。
――中津さんが作るお弁当の献立は、どういうことを意識して作られていますか?
中津:栄養価はもちろんですが、目で見てふたを開けたときに、今日はどんな味かなとわくわくしてもらえるもの、アンケートを取ってお年寄りが食べたいもの、全国の郷土料理を入れてみるなど、工夫しています。また、楽しんでいただけるよう、メッセージカードなども添えたりしています。統括園長は食への強いこだわりがあり、利用者さんの中には食事を楽しみにされている方がたくさんいらっしゃるので、おいしい物を提供したいとよく言っています。その思いを、私たち調理部門も引き継ぎ、生野菜や旬の食材を使用する、顆粒だしを使わずいりこやカツオ、コンブからだしを作るなど、できるだけ新鮮な物を使用し、手作りするようにしています。
藤井:お弁当を取りに来られなくなった方が出た場合は、民生委員と確認する手順を決めて、施設で対応する仕組みができています。
――この取り組みの成果としては、どういったものがありましたか?
中津:開始から3カ月後には、利用者が男性6人だったのが、現在は男性9人、女性11人の合計20人まで増えました。皆さんの外出のきっかけづくりができて、中には全く知らなかった同士が仲良くなって、一緒にお弁当を取りに来られるなど、地域交流の場になっています。小さなことかもしれませんが、この小さなつながりが大切だと思います。取り組み始めた頃より、話も一言から二言、三言に増えてきて、顔を合わすことが大切だなと感じています。また、お年寄りの体調や安否を把握するなど、情報交換もできるようになりました。私たちも献立の感想を伺うなど、顔を覚えていただき、西山とお話をしたがるお年寄りの方も増えてきています。
――西山さんは、お年寄りとどのような内容のお話をされるのでしょうか?
西山:一番はやっぱり広島カープです(笑)。あとは、ゴルフ、天気、体調などですね。「今日は調子どうですか?」と聞いて「今日はええよ」と伺うとうれしいものです。
――この取り組みに関して、今後の課題や目標がありましたら、教えてください。
中津:現在は、お年寄りの夫婦でも炊事ができない方にお弁当を提供しているのですが、一人暮らしのお年寄りに限らず、困っている方が少しでも減ればいいなと思っています。今後は、住み慣れた自宅での生活をできるだけ長く続けていただきたい、その中の楽しみの一つとして、コロナがなくなったらご自宅に伺って、一緒に料理をして、その楽しさを思い出していただければと考えています。
西山:男性であれば、お弁当を取りに来てもらうついでに将棋や健康麻雀をするなど、気兼ねなく来られる環境をつくりたいです。
藤井:まだまだ困っている方がどこにいらっしゃるのか情報が取りにくい状況です。民生委員さんも個人情報を出せないので、引きこもりの方が把握できなかったりします。そういった情報の収集が、今後の課題ですね。
社会福祉法人慈光会 特別養護老人ホーム
慈光園
〒731-0144
広島県広島市安佐南区高取北1-17-41
TEL:082-878-8005
URL:http://www.jikouen.jp/tokubetuyougoroujinnhomu.html
[定員]
特別養護老人ホーム:80人
撮影=山田芳朗・慈光園/取材・文=石黒智樹
社会福祉法人慈光会
1955年、正傅寺(浄土真宗本願寺派)開基一千年記念法要の記念事業として、住職であった金尾澄映初代理事長が、社会福祉法人「慈光園」を創設し、養老施設「慈光園」を開設。1956年、「慈光会」と改称。1999年、「石内慈光園」開設。2002年、「東原慈光園」開設。2006年、慈光園を移転し、旧慈光園を「上安慈光園」と改称。現在は、金尾哲也理事長が運営している。