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特集(制度関連)

毎日10分で体がラクになる!介護職員のための簡単ストレッチ&トレーニング①

2023.06 老施協 MONTHLY

移乗介助や入浴介助、体位変換などで体に負担がかかる介護職。体の不調は、仕事だけではなく日常生活にも影響を及ぼす恐れが。今回は、毎日繰り返すだけで体が軽くなるストレッチ&トレーニングを紹介。職場や就寝前など生活に取り入れよう!


介護職員の職業病〝腰痛〟血行を良くして疲れない体に

 体力と気力を使う介護職員の悩みの一つが「健康状態」。中でもよく聞かれるのが腰の痛みで、腰痛持ちの介護職員も少なくない。厚生労働省の「業務上疾病発生状況等調査」(令和3年)によると、介護職を含む保健衛生業の負傷に起因する疾病2187件のうち、腰痛(災害性腰痛)は2066件と他業種に比べてはるかに多い結果が。介護職員にとって腰痛は職業病といえるほどになっている。

 どのようなときに腰を痛めるかというと、ベッドから車椅子へのトランス介助で要介護者を持ち上げるときやベッドでのおむつ替えのときの中腰状態、食事介助のときの腰をひねった姿勢や長時間同じ姿勢を取るなど、どれも介護の仕事をする上で避けられないものばかり。特に要介護者の体を支えるときは、無理な姿勢で行うため、腰への負担がかなりかかっている。もちろん近年は福祉機器などを活用することで体への負担を軽減している施設も多いが、細やかな業務はまだまだ人力が多いのが現状だ。そういった日々の疲労が蓄積されて、慢性的な痛みを感じるようになっているようだ。

 痛みの原因となるのは、筋肉の血行不良からくるものが多い。今回はそんな体を少しでもラクにするためのストレッチとトレーニングを紹介。筋肉疲労からくる腰の痛みはもちろん、肩凝りや腕の痛みなどさまざまな悩みを和らげる動きをプロから教えてもらった。

 ストレッチは、筋肉の血行を良くするため、少し疲れたと思ったときに行うと疲れを軽減させる効果が、トレーニングは続けることで筋肉を鍛えて動きやすい体をつくっていく。どちらも10分もかからず、身近にあるものでできるため、今日から取り入れることも可能。ぜひ疲れにくい体を手に入れよう。

介護職員に聞いた!
この動きで体を痛めました

やはり多いのが「人を持ち上げるとき」に腰を痛める人。力任せに持ち上げようとしているのが原因と思われる。「ベッドでのおむつ替え」では腰と腕も痛くなる人も。一つの動作で体のいろんな箇所を痛めることもあるよう。また「車椅子の転倒防止バーを後ろ側から外すとき」に腰や背中を痛めてしまった人も。無理な体勢から体に不調が出る人が多いようだ。

リラックス効果も抜群 動きやすい体へチェンジ!

 毎日同じ動きをしているとどうしても出てくるのが体の不調。筋肉が凝り固まって血流が悪くなっていることも原因の一つ。そんな不調を改善、予防し、血流を良くするためのストレッチを教えてくれたのは、日本ストレッチング協会の講師・鈴木和孝さん。

日本ストレッチング協会 講師 鈴木和孝 さん
日本ストレッチング協会 講師
鈴木和孝 さん

「筋肉が硬くなっていくと、どうしても他の部位がカバーしようとして、体に不調が出やすくなります。そんな硬くなった筋肉の緊張をほぐしてくれるのがストレッチ。不調を感じたり、疲れたと思ったらすぐに取り入れると効果的です」

 介護職員の多くが悩まされている腰痛も、ストレッチを行っていると予防になるとのこと。

「大殿筋を含め、骨盤周りにはたくさんの筋肉がついています。中腰の姿勢が多かったり人を抱えることが多い方は、背中を含めて腰周りの筋肉を柔らかくして、腰痛になりにくい体をつくってください」

 ストレッチを行うことで筋肉が柔らかくなり、体が動きやすくなっていくのも特徴の一つ。

「筋肉や肩甲骨といった体を動かすために必要な部位の可動域が広がり、体の動きが安定し、ケガの予防になります。あと骨盤のゆがみが解消され、インナーマッスルを鍛えることでバランスが取れた体になるのも特徴です。ストレッチを続けると、今まで足が組めなかったのに組めるようになるなど体の変化を知ることができるのも大きなポイント。ストレッチは、今、自分の体調がどうなのかを測るバロメーターにもなるんです」

 体の変化だけではなくストレスが軽減されるメリットも。

「ストレッチはリラックス効果を生む副交感神経を活性化させて、自律神経のバランスを整えます。副交感神経を活性化すると良い睡眠が取れるようになり、一日の疲れを取りやすくなります」

 道具などを用いないので、職場の休憩時間でも行えるストレッチ。

「いつでも気軽にできるものばかりです。仕事を始める前のウオーミングアップで行うと、体が疲れにくくなると思います」


気になったらすぐにできる ストレッチ編

モデル=健康運動指導士・堀江恭子さん

腰の痛みを和らげる

原因はさまざまだが、長時間の中腰や猫背などの姿勢を続けて、腰や背中の筋肉に負担がかかっているときに起こりやすくなるのが腰痛。お尻や腰、背中を支える筋肉の緊張をほぐすと腰痛の症状を軽減することができる。


大殿筋を伸ばす

お尻の中でも最も大きな筋肉で、上半身と下半身の動きをつなぐ役割がある大殿筋。腰を伸ばすときや、姿勢を維持するときに使うので、常に柔らかくしておきましょう。

①足を軽く開いて姿勢を正して、浅く座る
②右足の太ももの上に左足を乗せる
③上体を前に傾けて15秒キープ。反対側も同様に


腰方形筋を伸ばす

腰方形筋は脇腹の奥にあり姿勢保持に使う筋肉。腰方形筋が弱くなると骨盤が傾いてしまい腰痛を引き起こすため、メンテナンスが必要。同時に腰と腕を動かす広背筋にも効く。

①足を肩幅に開いて真っすぐに立ち、右手で左腕の手首を軽くつかみ、腕を上げる
②腕を引っ張りながら上体を右に傾けて15秒キープ。反対側も同様に


脊柱起立筋を伸ばす

脊柱起立筋は首から腰にかけてある長い筋肉。人間が直立するために必要な筋肉で、常に体のバランスを取っている。弱くなると腰に負担がかかるため腰痛を引き起こすことも。

①足を軽く開いて姿勢を正して座る
②左足を上にして足を組む
③上体を左にひねって15秒キープ。反対側も同様に


背中の痛みを和らげる

同じ姿勢が続くことで血行が悪くなり、筋肉が硬くなることで起こる背中の痛み。広背筋と背中の表面から首や肩にかけてある僧帽筋の柔軟性を高めることで、痛みを和らげる。


広背筋と僧帽筋を伸ばす

広背筋は、背中から腰、腕の付け根に広がっている筋肉で、物を持つときに使われる。凝り固まると、背中から腰にかけての痛みの原因に。また僧帽筋が硬くなると肩凝りの原因になる。

①足を肩幅に開いて真っすぐに立つ
②体の前で手を組む
③組んだ手を前に突き出し、背中を丸めるようにして15秒キープ


首の痛みを和らげる

無理な姿勢や長時間同じ姿勢を取ることで筋肉の緊張や血行不良が起こり、肩凝りを引き起こすことに。首を支える脊柱起立筋や胸鎖乳突筋、僧帽筋を伸ばしてリラックスさせましょう。


脊柱起立筋を伸ばす

首から腰にかけてある脊柱起立筋。前かがみの姿勢が続くと肩の筋肉が引き伸ばされて弱くなってしまう。背骨周りの筋肉を伸ばすと背筋が伸び、無理なく体が動くようになる。

①足を肩幅に開いて真っすぐに立ち、両手で後頭部を軽く抱える
②みぞおちをのぞき込むようにうつむき、ゆっくりと首を丸め15秒キープ


胸鎖乳突筋を伸ばす

鎖骨から耳の下にかけて伸びている胸鎖乳突筋は、首を左右に曲げるときに使用。凝り固まると寝違えのような首や肩の痛み、頭痛、めまい、自律神経の乱れなどを引き起こす。

①足を肩幅に開いて真っすぐに立ち、鎖骨の下に手を軽く置く
②手で皮膚を引っ張りながら顔を上に向けて15秒キープ


僧帽筋を伸ばす

僧帽筋は首から肩や背中にかけてある大きな筋肉。力が入っている状態が続くと、血行不良が起こり肩が凝りやすくなる。ひどくなると頭痛や背中の痛みを引き起こすことも。

①足を肩幅に開いて真っすぐに立ち、左手を背中に回し腰に置く
②右手で頭を抱える
③頭をゆっくり右に傾けて首を曲げ、15秒キープ。反対側も同様に

ストレッチはリラックスして行いましょう

筋肉の緊張をほぐすためのストレッチなので、できるだけリラックスした状態が効果的。中でもお風呂上がりは体が温まって血行が良くなっているため、筋肉が伸縮しやすくかなりおすすめ。また寝る前などに行うと一日の疲れをリセットしてくれるので、疲れがたまりにくくなることも。職場で1セット、寝る前に1セット行いましょう。


腕の痛みを和らげる

物を持ち上げることで引き起こる腕の痛みは、筋肉が血行不良を起こしていることが多いとのこと。中でも上腕三頭筋はよく使うため柔らかくしておくと良い。肩凝り解消にも効く。


上腕三頭筋を伸ばす

腕の裏側にある上腕三頭筋は、肩を後ろに引く作用があるため、硬くなると神経を圧迫して腕の痛みや肩凝りを引き起こす。伸ばすことで手が上げやすくなったり動きやすくなる。

①足を肩幅に開いて真っすぐに立つ
②右腕を上げて肘を軽く曲げる
③左手で右腕を頭の方に引き寄せ、15秒キープ。反対側も同様に


脇の痛みを和らげる

肩甲骨を使い過ぎたり、逆に使わな過ぎると起きやすくなる脇の痛み。大胸筋を伸ばして、肩甲骨周りの血行を良くすると改善がみられる。肩凝りとも連動していることが多い。


大胸筋を伸ばす

胸部にある大胸筋は腕を動かすために必要な大きな筋肉。猫背など無理な姿勢を長時間続けていると凝り固まってしまい、脇腹の痛みや肩凝り、腕の痛みなどを引き起こすことも。

①壁の近くで、足を肩幅に開いて真っすぐに立つ
②指先が壁に引っ掛かる程度に右手を壁につける
③上体を左にひねり、肩甲骨を背中の真ん中に寄せて胸を張り15秒キープ。反対側も同様に


構成・取材・文=玉置晴子/撮影=井筒千恵子/写真=PIXTA