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組織に定着する介護人材育成のあり方③ 介護リーダーが働きやすくなるためには?
2023.06 老施協 MONTHLY
介護リーダーへのチャレンジで自分とチームが成長
スキルを基盤とした新時代のリーダーをつくりたい
介護リーダーを育成するため必要なスキルを確認すべき
介護人材市場は長年売り手市場だが、コロナ禍が明けようとしている今年度は、他業種他産業の市場も売り手市場になると予想される中、どうやって人材を確保していくのか、そして育成していくのか、をテーマに、3回のシリーズとしてお送りしてきたが、その最終回となる今回は、介護リーダーが働きやすくなるためのスキルについて考えていきたい。
介護リーダー育成については、 組織自体が常に悩みを抱えている。その一つに、介護職を離職する人が多くて、そろそろリーダーにと考えている人にあっさり辞められてしまうことが挙げられる。
スタッフ側からすれば、仕方な い。そもそも入社2年目にどんな役割を担い、3年目、5年目にはどんな役割を担ってほしいという、 組織側の求める理想像を知らないまま時間が過ぎる現実がある。そうこうするうち、やりがいを見失い、辞めていくケースが多い。
こんな言葉が事業所内で飛び交う。「もう2年たつんだから、こんなことくらいできるでしょ」という曖昧な勤務年数の縛りでのタスククオリティーを求める発言が多い。教育カリキュラムが徹底しているなら別だが、未来予測ができない状況でのその言葉は、働く側の意欲を下げてしまうだろう。
事業所はスタッフのキャリア形成を考え、準備することで、スタッフは目標を見失うことなく、キャリアアップを目指せるだろう。自身の未来予想図があることは大きい。そのためには組織側が介護リーダーに最低限必要なスキルを確認すべきである。
今回も、人材育成やケースメソッドに詳しい、名古屋市立大学大学院人間文化研究科教授の吉田輝美さんにお話を伺った。
リーダー育成のための 人が辞めない組織づくり
20代・30代の若手スタッフは、リーダーになりたがらないといわれています。その理由には、自分にリーダーの適性がないことや責任が重い、給与と仕事量が見合わないことなどが挙げられています。「コスパ(費用対効果)」という言葉をよく耳にします。労働時間やストレスの大きさなどの労働負荷としての「費用」と、報酬や成長機会、安定性など労働による「対価」から、コスパのいい仕事かどうかという視点で職場を評価しているのです。
公益財団法人介護労働安定センターによると、介護スタッフの1年間の採用率が15.7%、離職率が 14.6%となっています。職場に定着しキャリアを積んでいく介護スタッフの確保が非常に難しい要因の一つに、上司がロールモデルになり得ないという構造的な問題が挙げられることもあります。介護現場においては、人間関係に起因する離職を防止するために、「パワハラ防止対策」を正しく理解し、職場環境改善に取り組むべきではないでしょうか。
【図1】介護労働者の採用率・離職率
【図2】仕事における「コスパ志向」
介護リーダーに必要なのはコミュニケーション能力
事業所のキャリア形成について、自己評価と上司評価によって双方が納得できる内容は見える化されているでしょうか。介護リーダー育成では、スタッフが自らチャレンジしていくことを育てる工夫をするべきです。利用者や家族へのサービス満足度を高めるために、介護リーダーは後輩育成をどのようにしていくのか、チームの強みや弱みは何なのかなどの視点を持ちながら、マネジメントスキルを身に付けなくてはなりません。
後輩が疲弊しているようであれば、カウンセリングスキルによる心を支える関わり方をしていきます。後輩のモチベーションが高い場合には、コーチングスキルによって成長を促す関わり方をしていきます。介護リーダーは、後輩の心の状態に合わせた伴走型であってほしいものです。さらに、チームが高齢者虐待や介護事故を未然に防止し、業務のコスパを高められるように、会議などに必要なファシリテーションスキルも介護リーダーには必要です。
介護現場では人によってやり方や指示が違うようで、「こう言われたから○○したのに、違うと言われた」という不満を聞きます。近年の若者言葉である「上司ガチャ」や「部下ガチャ」と言われそうな場面です。介護リーダーはチーム力を強化していくためにも、自身のコミュニケーション能力を高めていくべきです。コミュニケーション能力の中でも「質問する力」を磨いていくと、チームに気付きが起きやすくなり、指示待ち依存型メンバーにも変化が起きるでしょう。
カリスマ的なリーダーの時代は終わりました。介護リーダーは一定の権限を持ちますが、偉くなったような錯覚を起こすことなく、チームメンバーと共に成長していくことを楽しんでください。
【図3】職場におけるパワーハラスメントの内容
[職場におけるパワーハラスメントとは?]
職場において行われる❶優越的な関係を背景とした言動であって、❷業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、❸労働者の就業環境が害されるものであり、❶〜❸までの要素を全て満たすもの。
→客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しない。
今月の回答者
名古屋市立大学
大学院人間文化研究科教授
吉田 輝美さん
Profile●よしだ・てるみ=老人ホームで介護職・生活相談員として勤務後、実務家教員として大学で介護福祉士・社会福祉士養成に従事する。感情労働としての介護労働を基盤とした福祉分野の人材育成研修やケースメソッドによる高齢者虐待防止研修などを展開している
取材・文=一銀海生
現役職員による座談会【介護現場のリアル】
介護リーダーを目指すカリキュラムは必須
特養に勤める中途採用スタッフAさんと訪問介護会社に勤める契約社員 Bさん。どちらも3年目で、リーダーにならないかと打診されている。
A「入ってすぐに、上の主任たちが所長と折り合いが悪く、全員辞めてしまい、夜勤2回目でいきなり夜勤リーダーにされたんだ。それから今は主任を兼務してくれと言われているけど、何をしていいのかさっぱり分からないのに、人がいないからって随分むちゃくちゃだと思ったよ」
B「私は入ってすぐにカリキュラムが決められていて、2年目にはこの仕事ができているかどうかチェック表もあったわ。3年目にはサ責に なるよう入社のときに言われていたので、それに沿って面談もある。先が予測できるし、自分が指導する側になるという意識も高まるよ」