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介護現場NOW

組織に定着する介護人材育成のあり方① 新人職員の育成で組織が取り組むべきことは?

2023.04 老施協 MONTHLY

期待して入職する新人を大切に育てることが組織の使命
働きがいのある組織づくりから人材の定着を目指そう

介護人材確保の問題はより困難になるとの予測も

 介護人材市場は長年売り手市場だが、コロナ禍が明けようとしている今年度は、他業種他産業の市場も売り手市場となると予想される中、どうやって人材を確保していくのか、そして育成していくのか、をテーマに、今回から3回のシリーズにてお送りする。

 介護人材確保の問題はなぜ起きているのだろうか。社会全体が労働者不足を問題視している中、 長年、介護分野は人材不足を言われ続けてきた。他産業が人材不足として求人数を増やせば、当然のことながら、介護分野は他産業との競争にさらされ、どうやって介護人材を確保するかは、これまで以上に難しくなることが予測される。危機感を持って、辞めてしまわれない組織をどうつくるかが今後のポイントとなるだろう。

 具体的な例では、中でも人間関係が離職理由として挙げられている。上司のあり方を見直す必要があるようだ。上司に「分からないことがあったら聞いてね」と言われても、新人は上司にどのように声を掛ければいいか悩んでいて、機会を逃してしまう。

 そんなことが続いてしまうと、周囲が気が付いたときには、メンタル不調になって出勤しなくなっていた、という最悪の状態もしばしば見受けられることになる。

 また、上に気に入られたら出世 するとか、おつぼね様がチームを牛耳っているなど、理不尽なやり方が残っていると、若い人はすぐに辞めていく。新人が将来展望(キャリア)をイメージできなければ頑張りがいがなくなるのは必至。

 介護人材確保、留保の実情について、 人材育成やケースメソッドに詳しい、名古屋市立大学大学院人間文化研究科教授の吉田輝美さんにお話を伺った。

現役職員による座談会【介護現場のリアル】

売り手市場の陰に人間関係で退職者続出

特養に勤める中途採用スタッフAさんと有料ホームに勤める新入社員のBさん。どちらも介護職は初めての経験で入社2年目の春を迎える。

A「会社が倒産して、年齢も年齢だし、就職しやすいからと安易に介護職に。最初は早番や遅番や夜勤もあって、体がついていかなくてね。あとかなりうるさい女性スタッフがいて、人間関係もつらいときがあった。辞めても介護はすぐ再就職できるから、ある意味気楽だけどね」

B「私も福祉関係の大学を出て、社会福祉士の資格も取っていたから、人事にも期待されていたけど、現場を全く知らなくて、知識だけしかないから、やっと技術を覚えて一人前になった感じ。同期の社員なんて半分くらい辞めてて。上司や先輩の教え方が厳しいと長続きしないね」

新人介護職員育成と介護人材確保の課題は近接

 ’24年春に卒業を控える大学生の就職活動は、「売り手市場」と報じられています。その理由としては、’20年から続いたコロナ禍からの経済回復見込みが大きく影響していると考えられているようです。

 介護労働安定センターの「令和3年度介護労働実態調査」によると、図1では、介護現場の離職状況は、平成27年度に17.6%でピークを迎え、以降は減少傾向にあり、令和3年度は14.6%と報告されています。また、従業員の過不足状況については、「不足感」が63.0%と報告されており、介護分野の売り手市場は長期にわたって続いています。

【図1】離職率の経年変化
出典:介護労働安定センター「令和3年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書」P40

 図2を見ると、現在の仕事の満足度D. I.(「満足」+「やや満足」)-(「やや不満足」+「不満足」)について、介護職員全体の結果ですので新人のみの結果ではありませんが、「①仕事の内容・やりがい」が最も高くなっています。一方で、マイナスポイントとなったものは、「③賃金」「⑥人事評価・処遇のあり方」「⑪教育訓練・能力開発のあり方」となっています。新人育成にあたり組織が行うことは、「⑪教育訓練・能力開発のあり方」を明確にして新人に提示することです。実際に提供したことを新人はどのように習得し、職場に貢献できているのか「⑥人事評価・処遇のあり方」へ連動させ、「③賃金」に反映させていく仕組みづくりが必要ではないかと考えます。

※Diffusion Index(ディフュージョン・インデックス)の略で、業況感や過不足など明確に数値化しにくい対象を比率化、指数化したもの

【図2】現在の仕事の満足度(介護職員)
出典:介護労働安定センター「令和3年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書」P54

〝感情労働〟という概念への新人介護職員の向き合い方

 私は、’12年頃から介護労働を感情労働と位置づけ、介護人材向けの研修やトレーニングを提供してきました。感情労働とはアメリカの社会学者であるホックシールドが提唱した概念で、「自己の感情管理を必要とし他者の感情に働きかける仕事」とされています。感情労働を行っていくと、当然ながらストレスを感じることもあります。ストレスはさまざまな形で、人体にサインを出してくれます。食事はおいしく食べられるか、夜は眠れるか、つらい肩凝りや腰痛はないかなど、体からのメッセージを感じ取り、心の状態に意識を向けましょう。何か違和感があった場合には、ひどい状態になる前に上司に相談してみてはいかがでしょうか?

 普段から仕事のことについて、「こういうときはどうしてる?」などと話ができる人を職場内でつくりましょう。そこで解決できない場合は、「自分はダメなんだ」と結論づけずに、新人教育担当者や上司に相談しましょう。上司がいつも忙しそうで、いつ質問していいのか分からずに悩むかもしれません。そのときには、「ご相談したいので〇分程度お時間をいただけませんか」と伝えてみてください。上司からは、今すぐなのか、後で時間を確保するのかなどと回答があるでしょう。「〇分程度」と明確にすることは、忙しい介護現場において、話を整理して伝える力をつけることになります。

今月の回答者
名古屋市立大学大学院人間文化研究科教授  吉田 輝美さん

名古屋市立大学
大学院人間文化研究科教授

吉田 輝美さん

Profile●よしだ・てるみ=老人ホームで介護職・生活相談員として勤務後、実務家教員として大学で介護福祉士・社会福祉士養成に従事する。感情労働としての介護労働を基盤とした福祉分野の人材育成研修やケースメソッドによる高齢者虐待防止研修などを展開している


取材・文=一銀海生