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第11回 冬の早番と遅番の不規則なシフト勤務、どうやって体調を整えればいい?
2023.02 老施協 MONTHLY
健康社会学者として活動する河合 薫さんが、介護現場で忙しく働く皆さんへ、自分らしく働き、自分らしく生きるヒントを贈ります。
冬の寒い中でのシフト勤務は考える以上に心身の負担に
私は寒さが何よりも嫌いだ。毎年、9月ごろから「ああ、また冬が来てしまう」と憂鬱になる。年末ごろからは「冬消えろ!」と呪文のように唱える日々。寒い、暗い、眠い、着替えに時間がかかる…。とにもかくにも寒さというものが、この世で一番嫌いなのだ!
そんな中、筑波大学と理化学研究所の研究グループがマウスの「人工冬眠」に成功した。マウスの脳にあるQ神経と呼ばれる部分を刺激すると、体温が37度から24度近くまで下がり、酸素の消費量などの代謝も大幅に低下し〝冬眠に近い状態〟になるという。人工冬眠は救急医療などに生かすのが目的だが、近い将来人間も冬眠できるようになれば、間違いなく私の人生満足度は倍増するに違いない。
一方、介護や看護に関わる人たちは、冬が嫌いだろうと寒さが苦手だろうと愚痴は許されず、どんなに医療技術が発展してもシフト勤務はなくならない。本当に頭が下がるし、冬眠などとのんきなこと言って申し訳ない。お許しを!
しかし、冬のシフト勤務は皆さんが考える以上に、心身をむしばんでいるので注意が必要だ。シフト勤務の人は夜勤のない人に比べ死亡率が11%高く、夜勤を6年以上続けていると心臓や血管の病気による死亡率が19%も上昇する。15年以上シフト勤務を続けると23%も高まるとの報告もあるので、冬場はいつも以上に心と身体のメンテナンスに手間をかけて。
「ヒト」は霊長類の動物なので、「日が暮れれば眠り、太陽が昇れば活動する」という前提で身体の機能はプログラムされている。例えば、朝になると血圧と心拍数は上昇するし、夕方になると体温が上がり睡眠の準備がスタートする。真夜中は免疫力を高めるT細胞が最大になるため、寝るべき時間に寝ないとストレス耐性が弱体化する。これは「体内時計」と呼ばれ、生活のリズムとのズレは内臓を〝時差ボケ状態〟に追い込んでしまうのだ。特に真夜中の労働は、内臓に猛烈なダメージを与えるので、時差ボケ解消が大切になる。
朝起きたら必ず太陽の光を浴びる、晴れた日は20分程度散歩する、曇りや雨のときは家でストレッチをするだけでもいい。夜勤明けの昼寝は疲労回復にはなるが、時差ボケ解消にはつながらない。昼に爆睡したときでも夜はベッドで横になること。施設の庭で利用者さんと日なたぼっこしながら、無駄話を楽しむのもグッド! 太陽の光は万能薬なので、お試しあれ!
健康社会学者(Ph.D.)/気象予報士
河合薫
Profile●かわい・かおる=東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士として「ニュースステーション」(テレビ朝日系)などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究に関わるとともに、講演や執筆活動を行う
イラスト=佐藤加奈子