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チームのことば

【INTERVIEW】株式会社タカラトミーアーツ ガチャ・キャンディ事業部 ガチャ企画部 企画1課 主任 森田和奏/係長 冨田ちぐさ/瀧澤実由

2023.01 老施協 MONTHLY

古い世代にとっては、駄菓子屋さんの店先に置いてあって「ガチャガチャ」などの呼び名で親しまれたカプセルトイ。最近では大型ショッピングモールなどで、筐体がズラッと並んだ専門店をよく目にするようになった。さらにカプセルの中に入っている内容の方も、王道のキャラクターのおもちゃから脱力系の企画もの、ポーチ、リップケースなどの実用品といった多様なラインアップに発展。若い女性やカップル、家族連れなど幅広い世代から支持を受けている。今回は、そんなカプセルトイ(ガチャ)を企画・製造している株式会社タカラトミーアーツの企画チームで働く3人に集まっていただいた。

何が出てくるか分からない、その小さなときめきや幸せを共有し、広げていくことができる仕事です


年間で400以上の商品を企画して、販売まで見届ける

 今回お邪魔したのはカプセルトイ業界大手のタカラトミーアーツのガチャ企画部。カプセルトイはメーカーによって呼び方がさまざまだが、“ガチャ”はこの会社の登録商標。“ガチャ”は通常の品物の販売方法と異なり「カプセル自販機」と呼ばれる筐体で販売される商品で、同社では毎月30〜40アイテムくらい発売している。その流れを’12年入社の係長、冨田ちぐささんから説明してもらった。

ガチャやぬいぐるみ、雑貨、アミューズメント筐体など、多岐にわたる商品を企画・製造している株式会社タカラトミーアーツ。オリジナル企画の商品はもちろん、幅広い世代で楽しめる商材ばかりで、ディズニーやポケットモンスター、サンリオ、人気アニメなど、取り扱うキャラクターコンテンツも充実している

冨田「月1回、部内でのアイデア会議みたいなものがありまして、そこに各個人で企画を持ち込みプレゼンします。上長の承認が下り次第、企画者が責任者となってガチャ商品の造形や金型の確認、パッケージのデザインなど、その後の工程も管理します」

 企画する上での共通のコンセプトといったものはあるのだろうか。

冨田「あまりそういった縛りはなくて、シンプルに自分が欲しいか。その上で誰に対してこの商品を作るのかといったところでしょうか」

森田「あとはガチャというジャンルの特性上、価格とカプセルの中に商品を入れないといけないという大きさの縛りがある中で、どれだけキャラクターの魅力、商品の内容を膨らませられるかというテーマがあります。カプセルの容量限界の大きさにする人とか、小さいものをいっぱい入れるとか企画者によって個性が出ますね」

 と語るのは、’16年入社の森田和奏主任。では、皆さん自身の個性はどんなところにあるのか。’20年入社、瀧澤実由さんは……。

瀧澤「自分の場合は毎月の会議に“今月のダジャレ”ってコーナーを作っています。こちらはチーズの“ズ”をZOOに掛けた『チーZOO図鑑』。こっちは野菜を盆栽風に作っているので『盆菜』。これ、冨田にブロッコリーで何か作りたいんですよねって相談したときに、盆栽とかいいんじゃない?ってアイデアをもらったので、ある意味チームで作ったアイテムかなって」

左が盆菜シリーズ、右がチーZOO図鑑。盆菜の前にちょっと写っているのがエリマキトカゲならぬ“エリマクトカゲ”。ちなみに瀧澤さんはダジャレ担当オンリーではないが、“言葉”を大切にする性格がインタビュー中でも感じられた

冨田「企画部は20名いて、担当キャラクターなどで2チームに分かれているんです。しかし、自分の担当とは別に、こうしたオリジナル商品も企画しています。私が手掛けているのはディズニーキャラクターなど幅広い世代に知られているコンテンツが多いので、とにかく関連する映像作品などをチェックして、SNSの投稿なども参考にしながら、少しでもファンのツボに刺さるような造形ポーズを考えたりしています」

森田「僕はディズニーとホビー系。昔の名車シリーズとか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンなども担当しています。それぞれの企画を考えるときに、そのコンテンツのファンの皆さんの気持ちに近づくというか、例えばこのディズニープリンセスのリップケースのときは原宿のコスメショップで一人ブラブラして、この色かわいいなあとか、心は女子大生になりきって考えていますね(笑)。デロリアンの商品を作っていたときは在宅勤務時などに、ずーっと映画の音楽聴きっ放しで世界観に浸ったりします」

話に出ていたディズニーのリップケースのシリーズ(写真右)。凝り性の森田さんはポップの写真を自分で撮影することもあるという。チームのムードメーカーといった雰囲気

さまざまな部署のチームと上手に連携する際の心得

 企画通過後、原形師が立体のデザインを制作し、工場で作った金型を確認した後、正式に発注。上がってきた試作品のサンプルチェックを企画チームが行い、その後、営業チームが専用の問屋から受注を取るという流れになる。ほとんどの工程に企画チームが関与するわけだが、役割の違うメンバーとのやりとりで皆さんが気を付けていることなどはないだろうか。

瀧澤「最初の段階で、商品のコンセプトやターゲットなどをうまく言葉として伝えられないと、工程が進むにつれてどんどんずれていって、イメージと違うサンプルが上がるということはあります。いかに自分の言葉でしっかり伝えられるかが大事だと思います」

森田「商品はわが子で、企画者は保護者みたいな感覚ですね。企画して、営業チームと商品にするかしないか検討し、品質管理のチームと安全面で問題ないかを検討します。生産部と実際に想定コストで生産できるか検討するなど、その一つ一つの工程で、子供と保護者が常に一緒に面談に回るみたいなイメージですね」

冨田「私が気を付けているのは、10年以上この仕事に携わっておりますので、逆に謙虚さとか感謝を各部署に対して忘れないよう常に心掛けています。特に弊社は個性的なメンバーが多いので、自分と同じ人って絶対いないんですよ。なので、私の思っていることが当たり前ではないといつも考えています。これは、どんな仕事でも大事なことだと思います」

 ガチャには、対象年齢6歳以上のものから15歳以上のものなどさまざまなものがあるが、実際の購買中心層はどの辺りなのだろうか。

冨田「6歳以上というのは、小さいパーツが多いので誤飲などを防ぐための安全基準上の表記となりますが、実際の購入年齢は20代前半の女性が多いです。商品の情報はSNSでチェックしていただいている方も多いですが、アンケートでは店頭で見て買ったという回答が8割を超えています。SNSで見て、専門店に買いに来て、他の商品も勢いでついつい買っちゃう、みたいなことだと思います」

瀧澤「この『盆菜』などはノンキャラクターなので、200円に設定しておくと、ノリで回しやすいということもあると思います」

 なるほど。では、このポップと呼ばれる筐体のアクリル面にある紙だけが購買につなげる勝負に?中味は見えないわけだし。

森田「企画を思い付いた段階で、このポップのイメージがパッと頭に浮かぶと大体売れるんです。けれど、このイメージがフヤフヤな場合はいつまでたっても売れないっていう感触はありますね」

冨田「特に専門店にはものすごい数の筐体が置かれてるので、このポップが命になりますね」

ガチャは小さな幸せ、ときめきを多くの人に届けるために

 ご自身の経験から、これからこの世界に入ってくる世代に伝えていこうと思うことは何だろうか。

森田「僕が入社してまず、メンバー紹介のときに上長に言われたのが『ここにいる全員がおまえの敵だ』」

冨田・瀧澤「怖ーい(笑)」

森田「入社したてでちょっとびっくりしましたけど、要は年齢や経験に関係なく、一つヒットさせればそれが自分の財産になり、仕事の信用度も増していくということです。そうしたことは、後輩に伝えていこうと思っています」

瀧澤「私はそんな怖いエピソードは持っていないんですけど(笑)。自分の場合は割と放牧状態で伸び伸びと育てていただきまして、冨田も森田も、他の先輩方も私の意見を頭ごなしに否定することが絶対ないんです。でも、こうしたらもっといいよねってことを、分かりやすい言葉で教えてくれて。割とアットホームなチームです。昨年度は後輩の配属がなかったのですが、今年度ようやく1年目の子が入ってきた。まだ3年目の私に教えられることは少ないと思うんですけれども、頑張って言葉を丁寧に伝えていけたらいいなって」

冨田「私は後輩教育ももう何年か担当している立場ですが、先ほどお話しした通り、本当に一人一人個性が違う。学校も美大系だったり普通の学校だったり。なので、その子が何が得意か不得意か、まず知るところから始めるようにはしています。人によって教え方を変えるようにはあえてしています」

キャリアは違うが、本当に垣根のないチームなのだということがよく分かる関係性。メンバーそれぞれの個性を尊重する、冨田さんの存在が大きいと感じた

 何ていい上司……。最後に、この仕事のやりがいを伺った。

冨田「誰かしらのつかの間の幸せを届けているという実感を持てるときでしょうか。ディズニー商品は東京ディズニーリゾートのある舞浜駅にも設置しているのですが、楽しそうに回しながら、パークに行く、もしくは帰ってくる姿を見るのが、一番幸せかなって」

森田「このガチャっていうのは、そもそもサプライズトイというジャンルに入るんですが(何が出てくるか分からないから)、その意味ではお客さんにワクワクドキドキみたいなときめきを与えられる商品を作っていきたいなと思っています。ときめきって、赤ちゃんでも未就学児でも、年配の方でも感情的には同じものかなって。というか、商品は違うとしてもその感覚は変わらないですよね。いろんな世代の人にそのときめきを届けられたらと思いますね」

瀧澤「個人的な意見にはなるんですが、自分の好きをカプセルの中に詰めて、それを誰かと共有できると言いますか、自分の好きが誰かの好きになって、どんどん広がっていく。そんな体験ができるすてきな仕事だなって思っています」

キャラクターたちのフィギュアを並べると、肩に寄りかかっているようにディスプレーできる「肩ズンFig.」シリーズ。ディズニーのような世界的に有名な商品は、国際空港に置いておくと、海外客が最後に小銭を使う需要で人気だという

冨田ちぐさ

株式会社タカラトミーアーツ
ガチャ・キャンディ事業部 ガチャ企画部 企画1課 係長

冨田ちぐさ

Profile●とみた・ちぐさ=2012年入社。企画チームの一員を担いながらも、係長という立場から、部内に2つあるチームの1つをまとめる

森田和奏

株式会社タカラトミーアーツ
ガチャ・キャンディ事業部 ガチャ企画部 企画1課 主任

森田和奏

Profile●もりた・わかな=2016年入社。ディズニーアイテムのほか、旧車や艦隊など、大人をターゲットにした“ホビー商材”も担当している

瀧澤実由

株式会社タカラトミーアーツ
ガチャ・キャンディ事業部 ガチャ企画部 企画1課

瀧澤実由

Profile●たきざわ・みゆ=2020年入社。ディズニーアイテムのほか、ダジャレものなどオリジナルシリーズを積極的に企画している


撮影=磯﨑威志/取材・文=重信裕之