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介護現場NOW

介護保険制度23年目の課題~取材の現場から~ どうなる?介護現場への外国人の受け入れ

2023.01 老施協 MONTHLY

外国人を介護現場へ恒常的に受け入れるために
母国と日本を行き来できる「循環」の仕組みに注目

不足が必至の介護人材
外国人材の活用と現状

 ’00年にスタートした介護保険制度。見直しに向けた議論が進められている。介護保険制度は、それまで主に家族が担っていた介護を社会全体で担う「介護の社会化」を目指したもので、「これで家族の負担がようやく軽減される」と制度への期待は大きいものだった。

 それから23年。要介護認定者は700万人近く、介護にかかる費用は約13兆円といずれも当初の3倍以上に上っている。介護保険制度はこの20年余りの間にすっかり社会に定着したが、今広がっているのは、制度への期待ではなく危機感だ。これから3回にわたって介護現場の課題を報告する。

 第1回は、介護の現場で深刻な人手不足が続く中、外国人材の受け入れについて考える。

 厚生労働省によると、介護現場で必要な職員の数は’25年度には約243万人、 ’40年度には約280万人と推計されている。’19年度と比べると約32万人から約69万人がさらに必要となる計算だ。

【表】第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
※介護職員の必要数は、介護保険給付の対象となる介護サービス事業所、介護保険施設に従事する介護職員の必要数に、介護予防、日常生活支援総合事業のうち、従前の介護予防訪問介護等に相当するサービスに従事する介護職員の必要数を加えたもの
注1)2019年度(令和元年度)の介護職員数約211万人は、「令和元年介護サービス施設・事業所調査」による。
注2)介護職員の必要数(約233万人・243万人・280万人)については、足下の介護職員数を約211万人として、市町村により第8期介護保険事業計画に位置付けられたサービス見込み量(総合事業を含む)等に基づく都道府県による推計値を集計したもの。
注3)介護職員数には、総合事業のうち従前の介護予防訪問介護等に相当するサービスに従事する介護職員数を含む。
注4)2018年度(平成30年度)分から、介護職員数を調査している「介護サービス施設・事業所調査」の集計方法に変更があった。このため、同調査の変更前の結果に基づき必要数を算出している 第7期計画と、変更後の結果に基づき必要数を算出している第8期計画との比較はできない。
出典:厚生労働省

 介護だけでなく他の業界でも人手不足が深刻となる中、外国人材への期待はあちこちから聞こえてくる。これは、制度が導入された当初には想定されていなかったことではないだろうか。

 外国人の受け入れ拡大に向け、制度も見直された。’19 年には人手不足が深刻な介護や外食などの業種で新たな在留資格「特定技能」が創設されたほか、技能実習制度の見直しに向けた議論も始まった。ようやく新型コロナの影響が落ち着きつつある中で、外国人の受け入れは加速するのだろうか。

現役職員による座談会【介護現場のリアル】

外国人介護士の夢と日本の介護現場の現実

特養に勤める職員Aさんとサービス付き高齢者向け住宅に勤める社員Bさん。外国人従業員と現場で一緒に働いていたが、コロナで一変。

A「コロナ禍で、勤勉で優秀な技能実習生の多くは祖国に帰国してしまって、本当に困ってる。日本の給料は祖国に比べるととても高いらしいから、その分モチベーションも高いはず。またぜひ戻ってきてもらいたいもんだね」

B「うちは半数がフィリピン人の介護士だよ。ただ、日本語はやはり難解なようで、彼らの苦労もよく分かる。日本である程度働いたら、国に帰って介護事業をやる夢があるみたい。技能実習生は特にその国の相当優秀な人材だというし、レベルが高い。難解な日本語の国家試験に合格するんだから本当に大したもんだよ」

 今回から3回にわたる連載では、NHKで長年、医療や介護の現場を取材、現在World News部で海外向けのニュースを発信している堀家春野さんにお話を伺った。

外国人受け入れたけれども…
期待とは裏腹に全て帰国

 介護現場への外国人材の受け入れが本格的に始まったのは’08 年。日本と東南アジアの国々の間でEPA=経済連携協定が結ばれたことがきっかけです。介護施設での研修・就労を通じて介護福祉士の国家資格を取得すれば、転職もでき、事実上定住も可能になるという制度でした。青森県むつ市の特別養護老人ホームではこれまでインドネシアとベトナムから35人の外国人を受け入れてきました(うち11人は技能実習生)。一軒家を購入して寮を整備したり、日本語の先生を雇ったりして介護福祉士の資格取得をサポートした結果、10人が合格。施設側はそのまま残ってくれるものと期待していました。しかし…試験に合格した全員が施設を去ってしまったのです。母国に帰った人もいれば、大阪などの都市部に移った人もいたといいます。施設を運営する中山辰巳さん(※)は「外国人にとって東北は大変厳しいところ。施設に残ってもらえなかったのは残念だが仕方がない」と話します。

青森県むつ市の施設で働くベトナム人の介護職員

 インドネシア人のワントさんもその一人です。3年間、青森の施設で働き、介護福祉士の資格を取得しました。施設側の期待とは裏腹に、ワントさんは「当初から日本で働くのは3年間だけと決めていた」といいます。その後、再び来日し、大阪の施設で働いたこともありましたが、今は母国に戻り、「特定技能」で来日を目指す人たちの支援にあたっています。ワントさんは「高齢化が進んでいないインドネシアには介護という概念がないので新しい知識、技術を身に付けることができ良かった。これからも日本に関わる仕事を続けたい」と話しています。

※本会 ロボット・ICT推進委員会委員長

定着か? 循環か?
ポストコロナでどうなる

 さて、ワントさんも支援に携わる新たな在留資格「特定技能」は試験を受けるルートのほか、技能実習で3年の経験があれば試験なしで移行でき、同じ業種内での転職もできるようになります。さらに、「特定技能2号」に移行すれば家族も呼び寄せることができます。コロナの影響が落ち着きつつある今、介護現場への受け入れは進むのでしょうか。中山さんは「ある程度の期待はあるが定着は難しいのではないか」と話します。というのも、「日本に来る外国人はみな若く、ずっと日本で働くというより、いずれ母国に帰ろうという人が多いから」というのです。

 では、恒常的に外国人を受け入れるにはどうすればいいのか。中山さんが今考えているのが「循環」の仕組みです。母国と日本を行き来できる環境を整えようというのです。中山さんの法人はベトナムの看護短期大学と連携し、現地で介護人材を育成し、技能実習生として日本の施設での受け入れを始めました。今後は、現地にデイサービスやショートステイなどをつくる計画です。日本で働いたあと母国に帰っても介護の知識や技術を生かせる場所があるという「安心感」が日本に働きに来てくれることにつながるのではないかというのです。こうした「循環」の仕組みはこれまでにない発想で、これまでと同じような受け入れを続けていても限界があるという危機感の表れでもあると感じます。

 こうした試みが功を奏するのか、持続可能な仕組みとなるのか、これからも注目したいと思います。

デイサービスなどをつくる計画のベトナムの病院と、中山さんの施設との間で協議が行われた
今月の回答者
NHK World News部 堀家 春野さん

NHK World News部

堀家 春野さん

Profile●ほりけ・はるの=1997年NHK入局。医療や介護現場を取材する記者、解説委員を経て、現在、World News部で海外向けのニュースを発信している


取材・文=一銀海生