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介護現場NOW

人口激減社会下でどのように人を活かすか 地域共生社会としてのまちづくりとは?

2022.09 老施協 MONTHLY

緩やかに頼り頼られる関係を地域に構築していき
地域社会で孤立しがちな人と人、資源をつなげる動きを

高齢者の社会的孤立を受け注目の集まる地域共生社会

 介護業界で働く人々の疑問や悩み、課題を聞き出し、その解決策を専門家に伺う本連載。今回も「人口激減社会下で人を活かすマネジメント」。3回にわたる連載のラストは“地域共生社会とまちづくり”について考えていきたい。

 近年のユニセフの調査によると、OECD加盟国中、日本は孤独を感じる子供の割合というものが、突出して高く、トップであるという。

 表2を見ると、内閣府調査では、日本は同性の友人がいるとする高齢者の割合はトップなものの、親しい友人がいないとする高齢者の割合も、日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデンの中でトップである。

 表1を見ると、OECDの調査では、自殺率の高さについても、日本は長い間、OECD諸国中のトップ層に居続けている。

【表1】人口10万人当たりの自殺率
OECD:主要統計2020年または入手可能な最新のデータ
【表2】親しい友人の有無
内閣府:第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査

 高齢者の6割以上は、独居か老齢夫婦世帯。85歳以上の高齢者の増加は、排泄は自立していても見守りが必要であり、布団の上げ下ろしが難しいなど、従来の介護制度だけではカバーできないニーズの増加も意味している。

 さらに8050問題、ごみ屋敷、社会的孤立など、従来の制度では解決できない問題が生じている。

 地域の福祉ニーズは多様化、複雑化が進んでいるが、制度で対応できないものに対しては、制度がないからと言って諦めてもらうよう説得するばかりの仕事に、疲れている介護従事者も多い。

 こうした問題山積な状況の中、地域共生社会が注目されている。それを実現するまちづくりとはどういったものなのだろうか?

 今回も、医療や福祉事業の経営と政策について研究されている早稲田大学人間科学学術院 教授の松原由美氏に解説していただいた。

地域共生社会で人と人、人と資源をつないでいく

 前述の通り、日本は人と人とのつながりが希薄な点が問題視されています。

 こうした中、’16年に「ニッポン一億総活躍プラン」が閣議決定され、そこで初めて国として「地域共生社会」が目指すべき目標として掲げられました。この「ニッポン一億総活躍プラン」によれば、地域共生社会とは“子供・高齢者・障がい者など全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる社会”です。地域共生社会は特段新しい概念ではなく、’70年代から岡村重夫氏ら地域福祉研究者が提唱してきた概念で、一部地域で実践されてきました。筆者はこの地域共生社会を「人を活かすまちづくり」だと捉えています。ここでいうまちづくりとは、地域文化の変革です。

 例えば後継者のいない農家を、障がい者や引きこもりの若者が手伝うといった農福連携は、地域共生社会の典型的な取り組みです。従来は支えられる一方だった障害者が地域農業の支え手となります。また元農家の高齢者が、何もすることがない人から教える側となり、社会に貢献します。さらに農産物を加工してレストランで販売し、6次産業化(1次産業×2次産業×3次産業)によって地域経済に貢献するケースも出てきました。

現役職員による座談会【介護現場のリアル】

残存能力を活かした人材活用法で、地域社会を豊かに

障がい者雇用施設に勤めるA社員とデイサービスと保育所一体型の施設に勤めるB社員。地域社会と連携した事業を行っているという。

A「障がい者就労支援で、農園のお手伝いをしてるよ。無農薬野菜を収穫して施設で販売してる。野良仕事は彼らも生き生きして働くし、感謝されて意欲が湧くし。高齢者のシルバー人材も支援員にいるよ」

B「高齢者も働く意欲があると認知症予防やフレイル予防にもなるし、その人の残存能力を活かして仕事をお願いしているよ。保育所を併設したデイサービスだけど、お年寄りは子供の面倒を見てくれて、85歳の保育士もいる。調理も利用者が手伝ってくれ、地域の配食サービスも始めたんだよ。地域の祭りに参加して、交流も大切だね」

地域の人と資源を活かすマネジメントが求められる

 また、在宅の要介護高齢者の生活を維持、充実させるために、例えばスナックのママの帰宅ついでに、客である要介護高齢者の自宅までの送迎を依頼しておく、麻雀好きの高齢者がいれば近所の雀荘に手すりをつけてもらう、スーパーや交番に利用者の買い物時の見守りを依頼しておく、高齢者福祉施設で駄菓子店を開き、子供の居場所づくりも兼ねた高齢者の就労場所もつくる等、利用者等高齢者と地域の人や資源をつなげるといった介護事業者も出始めています。

 こうした取り組みに苦労はありますが、利用者の表情も変わるなど職員のやりがいも大きく、ワクワクする仕事だといえます。地域に開かれ地域の人と人をつなぐ取り組みに対し、内閣官房・内閣府の地方創生推進交付金制度なども後押ししています。地域社会で孤立しがちな人々をつなぎ、また人と地域資源をつなぐ地域共生社会に向けた取り組みが、今、日本各地で行われ始めています。

 これらの取り組みの特徴に、全てを自分たちで背負い込むのではなく、地域の人と資源を活用することが挙げられます。介護・福祉事業者の人も資源も有限です。人口激減社会が始まった日本では、自己責任ばかりを強調するのではなく、緩やかに頼り頼られる関係を地域に構築する技術が必要です。本連載で見てきた社会福祉連携推進法人の活用や、心理的安全性を技術として構築するなど、地域の人と資源を活かすマネジメントが求められています。

今月の回答者
早稲田大学 人間科学学術院 教授 松原 由美さん

早稲田大学 人間科学学術院 教授
松原 由美さん

Profile●まつばら・ゆみ=慶應義塾大学大学院 経営管理研究科修了。博士(福祉経営日本福祉大学)。医療や福祉事業の経営と政策について研究。社会保障審議会医療部会 委員、社会保障審議会福祉部会 委員、神奈川県 公益認定等審議会 委員、新宿区 高齢者保健福祉推進協議会 会長、新宿区地域包括支援センター等運営協議会 会長


取材・文=一銀海生