こころとからだ

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AIでは築けない人と動物との絆を体感 介護施設でアニマルセラピーを導入する際に知っておきたいこと

今回も、日本動物病院協会(JAHA)が確立したCAPP(人と動物の触れ合い活動)に25年以上従事されているCAPPチームリーダー、中村悟先生に、アニマルセラピーを導入する際のポイントについて伺っていきます。


今回の監修

VCA Japan七里動物病院・院長/
公益社団法人日本動物病院協会CAPP委員長/獣医師

中村悟さん

1966年兵庫県生まれ。日本大学農獣医学部卒業。1994年から七里動物病院・院長。CAPPの活動には2001年ごろから参加している

「この活動を長く続けられているモチベーションは、実際に体験してみないと分からない、胸が熱くなるような感動を毎回味わえることにあります。ぜひ、多くの方々に知っていただきたいと思っています」

 

CAPPは主に3つの活動タイプがあります。

AAE
Animal Assisted Education
=
動物介在教育

小学校などに動物と共に訪問し、正しい動物との触れ合い方や命の大切さを子供たちに学んでもらうための活動。総合学習のプログラムなどに取り入れる学校も増えています。

AAT
Animal Assisted Therapy
=
動物介在療法

専門的な治療行為として行われる動物を介在させた補助療法。医療従事者の主導で実施。適切な動物とボランティア(ハンドラー)を選択、治療後は治療効果の評価を行います。

AAA
Animal Assisted Activity
=
動物介在活動

一般的にアニマルセラピーと呼ばれる活動の多くがこのタイプ。動物と触れ合うことによる情緒的な安定、レクリエーション・生活の質の向上等を目的とした触れ合い活動です。

アニマルセラピーの導入には施設の受け入れ態勢も重要

 前回に引き続き、獣医師である中村悟先生に日本動物病院協会(以下JAHA)が確立したアニマルセラピー、CAPP(Companion Animal Partnership Program = 人と動物の触れ合い活動)について伺っていきます。現在JAHAのホームページには160カ所余りの介護施設や病院、学校なども含めたCAPP活動の訪問施設一覧がありますが、この活動に参加したい施設はどのように申し込むのでしょうか?

 「基本的には施設さんから希望がJAHAにいって、そこからチームリーダーを通してスタッフやスケジュールの相談になります。しかし、ボランティアさんや登録されている動物の数にも限界があって、なかなかご希望には沿えられていない現状があります。私たちの埼玉県でも2つの介護施設が待ちの状態ですね」

 CAPPを受け入れたい施設に対して、アドバイスなどありますか?

 「まず大体のきっかけは犬好きの方が施設にいらして、その方を中心に話が盛り上がって、こちらにご連絡いただくことが多いんです。しかし、きっかけは個人でも、組織と組織での関係をつくることが大切ですから、施設のトップの方とトップの組織、そして私たちの組織のトップが理解した上で契約することが大事です。個人の方からお問い合わせをいただいても、それ以上は話が進まないケースがよくあります」

 犬好きの職員さんがいる一方で、動物が苦手なスタッフさんがいる場合もありますものね。

 「そうですね。でも、ちょっとレアかもしれないお話をすると、私たちが活動しているある施設で、若いけどすごく優秀なドクターがいたんです。そのドクターは見るからに犬を触るのも初めてで、最初はどこから触ったらいいのかも分からない状態。『ここは触ってもいい場所ですか?』から始まって、もう、抱っこするのもやっとなんですね。でもそのドクターは頑張って、1年も続けられたんです。そしたら、今では犬の扱い方を人に教えるまでになっているんです。もちろん、人によってさまざまだとは思うんですけどね」

 その先生の場合は、参加している人の中で一番、アニマルセラピーの効果があったみたいですね。

 「あの先生には、絶対に効果があったと思います」

 動物が苦手な利用者さんやスタッフさんがいたとしても、アニマルセラピーがそれを解決してしまう例もあるということですね。一方、動物なので、衛生面での心配を持つ施設さんもありそうです。

 「もちろんです。介護施設を訪問する動物には、年に一回の健康診断結果の提出が義務付けられています。しかし、病院の場合は、動物の口腔内と便の細菌検査を年2回、人間のスタッフも4つの抗体検査をしなければならないなど、さらに厳しくなっています。私たちのチームでは、介護施設でも病院と同じレベルの検査を行うようにしています」

 施設の建物の構造など、インフラ的な面で向いている、向いていないはあるのでしょうか?

 「ありますね。出入り口からなるべく近いところに待合やミーティングルームがあるといいです。動物は訪問前24時間以内にシャンプーをしていないといけないんですけど、訪問の際にも地面を歩きますから、施設に入ったらまた入念にきれいにするんです。そのため、出入り口からの導線が短いと助かります。それと、前回もお話ししましたように、一回の訪問で、私たちスタッフは、ハンドラー(飼い主)さん、ボランティアさん含めて10〜20名で伺うわけなんですが、受け入れる施設側にも同じくらいのボランティアさんがいらっしゃることが理想ではあります。そこまでいかなくとも、施設側のスタッフさんの人数もある程度いていただけるのがいいですね」

動物にも向き不向きがあるストレスサインに注意

 施設として、理想はJAHAによるCAPP活動の訪問対象になることですが、待ち状態も続いている中、独自にアニマルセラピーを行うというケースはありますか?

 「ここ(さいたま市見沼区)の近くにも、当院から保護犬で譲渡された子が飼われていて、利用者の方と触れ合っていますよ。この活動に理解や経験がある獣医師からアドバイスを受けられる環境があれば、独自の活動もあり得ると思います」

 このアニマルセラピーに参加する動物は、犬猫だけですか?

 ウサギとかモルモットとかもいるんですが、基本的にはケージに入っていないといけないですし、ほとんどが犬ですね。猫は犬30頭に1頭くらいの割合しか、CAPPの活動に参加していないんじゃないでしょうか(JAHAにこの1年で参加申請があったのは犬283頭に対し猫11頭)。経験的には、猫は難しいことが多いです。回を重ねると、学習していって、行きたくない場所として認識してゆくケースが多くて。犬は逆にどんどん好きになっていく子の方が多い気がします」

活動に適した動物は?

人と接することが大好きで、必要なしつけや健康管理ができているかなどが大切。

⬆参加しやすく、親しみを持って迎え入れてもらいやすい活動の主役。

⬆上記の動物も参加できますが、詳細はCAPPのチームリーダーにご相談ください。

 動物にも飼い主にも厳しいレギュレーションがあり、それをクリアして初めて、この活動に参加できることは前回も伺いました。しかし、それでもこの活動を通じて、動物にストレスがたまることはありませんか。

 「まず活動に向いている動物の条件としては(先生の膝の上で寝ているトイプードルのニコちゃんを見て)、例えばこうやって全然知らない人が大勢いる中でも寝られる子とかですかね。もちろん、それでもストレスをためることはあります。そういうストレスサインというのが、箇条書きで20項目くらいあるんです。分かりやすい例を挙げるなら、目をそらすとか、落ち着きがなくなるとか、耳を伏せるなどですね。そうした兆候を見逃さず、休みを入れてあげたり、今日はここまでとするなどの判断は必要になってきます」

 動物と人間のコミュニケーションには言葉が介在しないですよね。言葉を介さずにコミュニケーションを良好に保つというのは、例えば認知症の方とのコミュニケーションの取り方などに参考にならないかな、などと思ってしまったんですが。

 「なるほど。アイコンタクトってよく言いますけど、犬は人のちょっとした体の動きや目線の動きに非常に敏感で、目の動きだけでかなりの意思が伝わるんです。もちろん言葉もよく覚えているので伝わるんですけど。ですから、人と人でも目を見てコミュニケーションを取るというのは、シンプルだけど効果があることなのかもしれないですね」

 

動物たちがもたらしてくれる 利用者さんの笑顔!

 人間と共に暮らしてきたコンパニオンアニマル(伴侶動物)と呼ばれる動物たちが、その動物のことを一番よく理解している飼い主(ご家族)の方とペアでCAPP活動に参加しています。

実際に体験してみないと分からない人の変化に感動!

 それにしても、本業の動物病院の業務と並行しながら、25年にもわたってこの活動を続けてこられた原動力は、どこにあるのでしょうか。

 これはですね、アニマルセラピーを一度体験すれば、きっと分かってくれると思います。実際にこの活動に参加してみないとピンとこないかもしれませんが、利用者の皆さんのその劇的な変化に、私たちは感動して、胸が熱くなるような変化に心が動かされるんです。それがモチベーションになっていますね」

⬆信頼される動物病院を目指して活動されている七里動物病院のスタッフの皆さん。モットーは“すべては患者さんのために”。この考えは、介護施設にも通じるものがあります。

 それは…ぜひ一度立ち会ってみたくなりました。最後にCAPPの活動として、今後の課題やテーマみたいなものはございますか。

 「われわれの活動では実はまだコロナの影響が続いています。コロナは人と人の感染ですが、だからといって動物だけで訪問するわけにもいきません。高齢者はひときわ感染症に弱いですから、完全に元通りにするには時間がかかっています。コロナ禍では、窓越しとか、オンラインツールなどでの活動なんてのもあったんですよ。それでも効果がないわけではないですが、やはり実際に触れるのとは大きな違いがあります。ですから、今後もまたそうした事態が起きたときに、このアニマルセラピーの活動をどのように効果的に行えるかを、今から考えて準備しておかないといけないかもしれませんね」

⬆獣医師ということもあり、動物たちのみとりに立ち会うこともあるという中村先生。「亡くなることは、どんな小さな動物のクリニックでも起こり得ることです。そういったことが起きた際は、うちのスタッフには『飼い主さん、よく頑張りましたね』と褒めてあげてくださいと言っています。飼い主さんあっての動物たちですからね」。

 

 豊富な経験と知識を持つ中村先生をして言葉ではいい表せない“心が震えるような”感動を呼び起こすアニマルセラピー。人と動物は種こそ違えど、同じ命を持つもの同士です。そこで生まれるコミュニケーションは決して予定調和ではない、ましてやAIに予測できることでもない可能性を秘めているようです。


構成=宮澤祐介/取材・文=重信裕之/撮影=磯崎威志/写真提供=七里動物病院