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特集

J Sフェスティバル in山口 誌上レポート4 特別講演 2040年に向けた人材確保策 地域型プラットフォームの意義と可能性

社会課題に取り組みながら キャリアアップできるのが介護職の魅力

 私は「実践を出発点にした研究者」と自己紹介しているように、介護職員、ケアマネジャー、介護事業所管理者としての実務を経て研究に携わる者として、現場の皆さんと一緒に取り組んだなかで得たことから事例を作り、政策提言や人材育成につなげることに注力してきました。

 私が現場にいた時に特に問題意識をもったのが自身のキャリア開発です。私自身は介護老人保健施設への就職から始まりましたが、介護予防教室など、施設職員の仕事以外の地域活動にも取り組み、今、社会課題に対応した福祉介護人材の育成やキャリア開発を研究の専門領域にしています。私はこの社会課題にこそ介護福祉の本質を考える意義と学ぶべきものがあり、介護職、福祉職としてのキャリアを積み重ねていけると考えてきました。

 近年、私が研究活動で最も時間をかけているものが災害福祉支援という社会課題です。災害はいつ起きてもおかしくありません。記憶に新しい能登半島地震では静岡 DWAT のメンバーとして活動しました。本学でも介護施設を選ぶ時に「将来、『DWATになりたい』ので、DWATの活動をしている福祉施設に就職したい」という相談を受けることがあります。新しい社会課題に対して、私たちが取り組んでいることそのものが魅力発信となっていることを体感します。

 

ニーズに応じた個別の生活支援を行う「介護」の役割を社会に広める

 近年、介護福祉養成課程のなかでは『チームマネジメント』という新しい教育内容が追加されていることをご存じでしょうか。私が介護福祉士の資格を取った時には、『形態別介護技術」や『社会福祉援助技術』、『医学一般』という科目が並んでいましたが、今は『介護技術』は『生活支援技術』という名称に変更されました。手技としての介護ではなく、ニーズに応じた個別の生活支援を行うプロセスが、いわゆる介護過程であることを色濃く表している改正であると思っています。食事や入浴、排泄等のいわゆる『世話』と言われた昔の定義から、今は、家族への介護支援も含めて、心身の状況に応じた生活支援としての実践をいかに行っていくかが期待されている時代です。

 一方で、サービスの質の評価をエビデンスとしてなかなか伝えられないのが介護の仕事です。私は介護の科学性を高め、数字で表すことも大切にしながら、自分たちの実践を生活支援という広い概念のなかで扱っていかなければならないと考えます。そのために、私自身は専門職者のためだけではなく、民生委員も含めた一般市民の方々のために「教養としての介護」というものを広めていきたいと考えています。私たちの役割が社会に認知されることはとても大切です。私自身の研究活動においても、広報は重要なテーマになっています。

 

やるべきことが見えている今 問われるのはそれをどう実行するか

 国の議論は2040年へと焦点が移っています。あと15年後です。人口減少や地域差の拡大、外国人住民の増加、そして自然災害の頻発など、日本のどこかで同時に複数の課題が起き続ける時代になります。だからこそ私は「どんな施策を当てはめるか」以前に、「自分たちの地域に合ったサービス提供体制をどう組み立てるか」を考えない限り、うまくいかないと感じています。『2040年に向けたサービス提供体制等のあり方』検討会に関わるなかで私が強く実感したのは、「今から新しいことに取り組む時代」ではなく、「やらなければいけないことが見えている今、それをどう実行するか」が問われる時代だということです。

 具体的に言えば、人材確保のための参入促進では、賃金が大きな要因であることは間違いありません。多様な人材の確保や育成も必要です。離職防止や定着促進には生産性向上がキーワードになります。ただしこの生産性向上についての学生の反応はまちまちです。テクノロジーの取り組みに非常に興味をもつ学生と、監視や管理をしている工場のようで嫌だという学生の声も聞きます。これも、機器のよしあしではなく、介護現場の生産性とは何かをしっかり説明できないと、向上したのかどうかもなかなか分からないのではないでしょうか。

 また近年の変化として、介護福祉士養成施設の定員充足が厳しく、入学者に占める外国人留学生の割合は、令和7年度には国内学生を上回りました。人口減少のなかで若い力を得られるのは力強いことである一方、中核的人材を養成している介護福祉士養成施設のこの状況を、私たちはどのように捉えていけばよいのか考える必要があります。介護が「生活支援」であることを考えると、文化や価値観、会話の距離感、家族観など、多国籍の人材と学び合うべき点は多く、受け入れる現場・地域も含めた対応が必要になります。

 介護人材の入職経路については、ハローワーク、縁故関係、そして施設での実習がきっかけになるケースがあります。ただ実習先になればそれがすぐ就職となるわけではなく、実習経験を通して、介護のやりがいや働く魅力を経験できたかどうかが決め手になります。というのも、介護職の魅力発信では、今、「働き方」をキーワードにすることが重要になっているからです。

 

プラットフォームのなかで連携し人材確保のための種まきを協働する

 本日のキーワードは「地域型プラットフォーム」です。これは単なる情報交換の場ではありません。現場で“実行する”ための連携の仕組みです。

 たとえば介護人材の確保では、小規模事業所では採用活動そのものが難しい現実がありますし、就職フェアを開いても学生が集まりにくいという声も各地で聞きます。であれば、大学の学祭にこちらから出向く、就職相談という入り口ではなく出前講座のような関わりを作る、新卒だけでなく転職フェアのなかで介護を見せるなど、地域の実情から生まれるアイデアを束ね、実行する力が必要です。その種まきを個別でやるのではなくて、プラットフォームのなかで連携して協働することが大事なのだと思います。

 そしてプラットフォームのなかでの連携というものは、重層的に考えていかなければなりません。大きいものと小さいものを重ね合わせ、必要な人に必要な資源が届く形を作る。しかも福祉関係者だけで閉じず、地域のなかに落とし込んでいくことが欠かせません。

 

 

プロジェクトでつながることで 所属意識が高まり連携は強固に

 ただ、私がプラットフォームの意義を話すと、よく二つの反応があります。ひとつは「よいことは分かるが、誰が運営するのか。マンパワーがない」という声。もうひとつは「すでに協議会やネットワークはある。何が違うのか」という声です。確かに、つながるためには場所と仕組み、そしてコーディネートする人が必要です。静岡県では社会福祉人材センターがその役割を担っています。そして私がより大事だと思うのは、単につながっているのではなく、参加者が「つながっている実感(所属意識)」をもてることです。

 そのために私は「プロジェクトでつながる」ネットワークが重要だと考えています。情報交換だけで終わるのではなく、具体的な企画を一緒に作り、やってみて、うまくいってもいかなくても学びに変える。そうした過程がネットワークを強くし、思いがけないキーパーソンやアイデアとも出会わせてくれます。気づけば発信力が鍛えられ、介護人材の魅力発信そのものが生まれてきます。地域単位での関係者間での共有と議論を継続するには、会議体をもつ以上に、仲間としてつながることが大事で、静岡県の実践研究会ではまさに有志がそれを行い、どんなことがやれそうかを議論しています。こうして養成校との連携やパイプが強固なものになっていくという流れは非常に重要で、これはかなり実動的な、受容性の高い、プラットフォームの形だと思っています。

 

 

公益的な取り組みをしているか それに参加できるかが就職選びの関心事

 静岡県立大学で行った「福祉の仕事のリアルを知るセミナー」は大学のオープンキャンパスと、社会福祉人材センターが行う就職フェア、法人の卒業生の実践報告会などが全部合体したようなイベントです。そのなかで卒業生12名が自身のキャリアを語りました。少し前なら、利用者の笑顔とか温かみとかをキーワードに報告する学生が多い印象ですが、近年ではむしろ職場の雰囲気やチームワーク、安心して話せる関係、プリセプター制度、学び直し支援、キャリア展望などの要素が多くを占めていました。

 また地域貢献事業のような社会活動に関心を寄せて、就職選びの時にもどのような公益的な取り組みを行っているのか、介護職として就職しながら、どのようにそれにも参加できるのかということに関心をもつ学生も増えています。一般的に多様な人材の「多様」とは、介護助手や中核人材、国際介護人材というような役割の機能分化をイメージしがちですが、実は多くの現代の若者は、それぞれに幅広いキャリアや働き方への展望があり、そこに多様性というものを求めているからこそ、それができることがとても魅力的となることが分かります。

 以上、私が本日おもち帰りいただきたいのは、「新しいことを作る」よりも、「できることを連携で実行する」こと、そして「自施設はどこと協働できるのか」を具体的に考えることです。私の話のなかに出てきた実践は、決して私ひとりの成果ではなく、プラットフォーム=協働のなかで生まれてきたものです。その点も含めて受け止めていただければ幸いです。

 

撮影=菓子谷 梨沙、児玉 一成、吉本 博史 取材・文=冨部 志保子、池田 佳寿子、箭本 美帆、濵口 ゆかり