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第22回 福岡県 社会福祉法人 北筑前福祉会 デイサービスセンター 菜々

社会福祉法人 北筑前福祉会 デイサービスセンター 菜々
「共生」を理念に掲げ、1972年に法人設立。現在、福岡県内にて22事業所を運営。うち、デイサービスセンター菜々は、認知症対応型の通所介護施設として1995年に開設。地域の方々との関わり・交流を積極的に行っている

 

選ばれる認知症デイへ。
地域密着と特色再構築の軌跡

 今回訪ねたのは、福岡県北部の自然に囲まれた地域に位置する、認知症対応型の通所介護「デイサービスセンター菜々」。市内で唯一、この類型を担う事業所です。同センターは「第3回JSフェスティバル」で「特色の再構築と実践」をテーマにした実践研究を発表。ご利用者の保有能力を生かし、「誰かを笑顔にすること」「地域とつながること」を目指した取り組みが評価され、奨励賞を受賞しています。

 法人内特養の施設長、天野幸治さんは、選んだテーマの背景について「時代の流れや地域の事情を丁寧に読み取り、何が求められているのかを把握するとともに、法人理念でもある『共生』~共に生きる~に立ち返ることが事業所の安定した運営につながると考えました。そのうえで大切にしたのは、地域密着という役割を明確にし、特色をより際立たせることです」と話します。

 その取り組みを進めるうえで欠かせなかったのが、認知症への理解を地域に広げる取り組みでした。

 「認知症には後ろ向きのイメージがあり、誤解も少なくありません。しかし、症状があっても、その人らしい生活は続けられます。菜々が地域とのつながりを深めることで、そのことをご本人やご家族、さらに地域の方々にも知っていただけるはずだと思ったのです」

 

職員の自発性を起点にした 現場マネジメント

 特筆すべきは、この取り組みが現場主導で立ち上がり、進んでいった点です。

 端緒となったのは、コロナ禍で地域交流が途絶えるなか、職員が受講した「対話ファシリテーション研修」。この研修を機に、「相手の見方が自分と違っても、まず受け止めることが大切」「自分の思いは諦めずに言葉にしよう」といった前向きな言葉が交わされるようになり、“自分たちで特色を再構築する”との空気が醸成されたと天野さんは振り返ります。そこから生まれたのが「食べちゃってん菜(さい)」「なないろ」「ナナカラ+plus」という3つの活動です。こうしたボトムアップの動きを支えるため、菜々では事業所独自の行動指針を整備。

 「立ち上げただけで終わり、ということがないように、困ったときは指針に立ち返り、職員と何度も対話を重ねました」と天野さん。次のページからは、実践を担った現場職員の発表内容をご紹介します。

※「食べちゃってんさい」は、九州地方の方言で「食べてみなさい」の意味

 

❶ 華道の心得を持つご利用者が、庭のコスモスを手際よく生ける。その花が、菜々の玄関に季節の息づかいを運ぶ ❷ 野菜作り活動「食べちゃってん菜」。ご利用者自身で、苗を買い、育て、収穫し、袋詰めをし、さらにレシピを添えて地域の子ども食堂などに寄付をしている ❸ 縫い物活動「なないろ」では、ご利用者が作った作品を近隣の小学校や保育園に寄贈。今では注文が入るという ❹ 家事活動を活かした取り組み「ナナカラ+plus」。ご利用者がウェイターになり、地域の方や関係者を接客。売り上げは全額寄付をしている

 

認知症の方の保有能力を、地域で発揮できる仕組みづくりに取り組む菜々。 現場発のアイデアを基盤に、「認知症ケア」「楽しみと役割」「地域交流」という3つを 施設の特色として再構築を進めてきました。 ここでは、その考え方を軸に生まれた具体的な活動の全体像を紹介します。

受賞者のインタビューはコチラから

 

■ ご利用者の意欲と 力を地域へつなぐ
認知症の方の保有能力や意欲を、日々の活動のなかでどう生かすかを出発点としました。従来の「事業所内で完結する楽しみ」から、地域と関わり、誰かを笑顔にできる体験へと視点を転換。活動を通じて力を発揮し、社会につながる役割を持てるよう再構築を進めています

■ 楽しみと役割を 新たな特色の柱に
再構築の基盤として、従来の特色に「楽しみと役割」を追加。個々のご利用者が活動を通して達成感が得られ、役割を持って地域とつながることが大切だと考えました。この再構築した特色を計画・実行するために、職員の意識改革やご利用者への満足度調査などを進めました

■ ①「食べちゃってん菜(さい)」 地域へ届ける喜び
畑で育てた野菜を収穫し、生活困窮者を支援したり、子ども食堂へ提供したりする活動です。家庭菜園の経験や作業の得意さを活かし、分業で誰もが参加できる仕組みを整備。「誰かに喜ばれる」という実感が意欲を引き出し、社会貢献としても地域に根づいた取り組みです

■ ②「なないろ」 技術を活かし 世代をつなぐ
裁縫技術を持つご利用者の力を活かし、雑巾やフェルト玩具などの作品を保育園や小学校へ寄贈しています。作品作りは達成感をもたらし、若い頃の記憶を語るきっかけにも。子どもたちとの交流を通じて「役割」を実感でき、地域のなかで力を発揮する場として定着しました

■③「ナナカラ+plus」 力を信じて任せる場
ご利用者がウェイターとなり、地域の方を招くミニカフェを運営しています。介助は必要最小限にとどめ、力を信じて任せる姿勢を徹底。“仕事”という刺激と感謝される喜びが自信を育み、地域との接点を広げています。認知症の方が活躍できる、菜々らしさを象徴する活動です

 

 

認知症の方の力をどう引き出し、地域へつなぐのか。菜々では、 対話を基盤にした現場主導の取り組みが多様な役割を生み、 法人内連携による継続可能な仕組みへと発展しています。 発表者・山下さんへのインタビューで、その軌跡をたどります。

 

職員の共通意識から始まった “菜々らしさ”の再構築

 

 菜々が「楽しみと役割」を新たな柱に据え、特色の再構築に取り組んだ背景には、山下さんをはじめ、現場職員の「ご利用者の保有能力をもっと活かせるはずだ」という共通意識がありました。

 

 「認知症の方は活動の記憶がつながりにくく、事業所内だけで完結すると喜びがその場限りになってしまいます。当時はコロナ禍で地域交流も絶たれ、もったいない、何とかできないかと考えていました」

 

 そんな折、受講した対話の研修が、人の意見を引き出し整理する方法を見直す契機となり、菜々の特色を話し合うアイディア出し会議がスタート。限られた業務時間を有効に使い、対話の流れをスムーズにするため、壁に紙を貼って職員が自由に意見を書き込み、それを会議で整理する方式を採用するなど、効率的な進め方を模索しました。こうして生まれた最初の活動が「食べちゃってん菜」です。

 

 「実際に動き出すと、畑作業では、寡黙な男性ご利用者が作業をリードしたり、収穫野菜の袋詰めでは、別のご利用者が『こうしたほうがきれい』と工夫したり。ご利用者が意欲的に取り組む様子に手応えを感じました」と山下さん。

 

 さらに、カフェ「ナナカラ+plus」では、サービス業とは無縁だった男性ご利用者が人生初のウェイター役を楽しみ、その姿を見たご家族が「家での様子と全然違う」と驚かれたことも。ご利用者の秘めた力を見られるのは職員にとっても大きな喜びだと山下さんは語ります。

 

菜々の取り組みを、法人内 連携で支える展開へ

 

  こうした実践の積み重ねにより、ご利用者の在宅生活は以前より延びたと山下さん。

 

 「その一方で介護度の重度化が進み、今後どうやって活動を続けるかが新たな課題になりました」

 

 そこで生まれたのが、法人内分業体制。例えば、縫い物活動「なないろ」では、かつて菜々だけで裁断から仕上げまでを行っていたのを、現在はパーツ作りを法人内の別事業所が担い、菜々は仕上げなど、得意な工程だけに集中するように。

 

 「1事業所だけで完結させようとせず、できるところを柔軟に分け合う。これも法人が大きいからこそできることですし、これからもご利用者の特性を活かしながら工夫していきたいと思っています」と話します。

 

 

社会福祉法人 北筑前福祉会 デイサービスセンター 菜々
●福岡県福津市勝浦3515   ●tel. 0940-52-7077  ●利用定員:12名/日  
https://kitatikuzen.net

撮影=勝村祐紀 写真提供=社会福祉法人 北筑前福祉会 取材・文=冨部志保子