福祉施設SX

継続はチカラなり

第1回 実践!ワーク・ライフ・バランス 社会福祉法人 隼人会 鴻巣まきば園

高齢者福祉をますます発展させていくために、
持続可能な施設運営のヒントをご紹介します。


第1回 実践!ワーク・ライフ・バランス

仕事はもちろん、自分の人生を楽しむ働き方を!

 隼人会は埼玉県内で4つの高齢者施設「まきば園」を運営し、現在約580人のスタッフが在籍。介護業界における人手不足はまきば園も例外ではなく、その対策の一つとしてキーパー職をいち早く導入しました。
 「キーパー職とはお客さま*に直接触れる介護をしないスタッフです。排せつ介助など介護職でなければできない仕事とそれ以外の仕事を分けて、そちらをシニアや障がい者に担ってもらうことで人手を確保しています」。キーパー職の導入によって介護スタッフの負担が軽減され、働きやすさも飛躍的に向上。「まきば園では〝自分の人生を楽しまないとお客さまを楽しませることはできない〟という基本的な考え方があります。仕事だけでなく、きちんと自分の人生も楽しむ。そんな前向きな働き方を実現したいと思っています」

私生活を充実させるためにさまざまなシフトを設定し
休みやすい職場環境をつくる

 自分の人生を充実させる働き方をするために、まきば園はスタッフ一人一人の働き方に合わせてシフトを決めていくスタイル。
 「職種や部署によってシフトの組み方が異なるため、種類は相当数ありますが、シフト制はワーク・ライフ・バランスがとりやすい働き方だと思っています。独身のスタッフは土日に縛られない働き方をすれば観光地がすいている平日に旅行したり、私生活を楽しむ選択肢が増えます。家族がいるスタッフはまず休みやすいことが第一。お子さんの病気や自分が体調不良のときに、無理して出勤しなくていい環境づくりをしています。急な欠勤者が出ると職場は忙しくなるので、フォローするスタッフの残業代など金銭面での補塡もしっかり行っています」。とはいえ、自身の急な欠勤は申し訳なく感じてしまうものですが、その心苦しさも、他のスタッフが休んだときに寛容になれる大切なきっかけだと根岸さんは語ります。
 「自分が休んだときに助けてもらったから、今度は自分が助けよう!と思えるように、お互いに迷惑をかけ合える人間関係や職場の環境が大切だと感じています」

 

無理なく働き続けてもらうためスタッフのささいな変化も
定期的な個人面談でしっかりキャッチ

 採用の際には雇用形態や配属先についても一人一人の状況をヒアリングして決めています。
 「例えば曜日固定で働きたいとか朝は働けないという場合はパートを、時間に縛られず勤務できるという方は正社員登用を提案しています。介護職希望であったとしてもその方をとりまく状況によっては、まずはキーパー職から始めてみることや、総務をお勧めすることもありますし、無理なく勤務できる時間や職種を提案するようにしています」
 現職のスタッフに対しても年2回、夏と冬に個人面談を実施。仕事に対するマインドの変化や、生活環境の変化を受け止め、それに合わせた働き方をその都度提案することが離職者の減少につながっていると根岸さんは話します。
 「一対一でじっくり話すことで、心が仕事から離れそうになっていないかを確認できますし、同僚にも言えなかったプライベートな悩みを打ち明けてくれることも。スタッフの働きやすさを維持するために定期的な面談が大切だと実感しています」

ライフステージの変化に対してフレキシブルなフォローも

 まきば園は育休取得率と育休からの復職率がほぼ100%。30年にわたる歴史のなかでそれが当たり前のこととして受け継がれており、現在は男性の育休取得も進んでいます。「育休は一つの大きな経験です。大切なお子さんを前に悩んだり、戸惑ったりするその全ての経験が後の仕事に活きるので、育休のチャンスを手放す男性は成長の機会を逃しているとさえ思います。なのでたとえ1週間でも取得を勧めています」と語る根岸さん。男女ともに復帰の時期や復帰後の働き方は本人の希望を聞いたうえで提案しています。
 「結婚や離婚、介護など、ライフステージの変化に対してもフォローしています。例えば 家族の介護をしたいというスタッフには勤務時間を短くする提案や、詳しい介護制度を案内しています」

 

人生の充実につながるクラブ活動や福利厚生を企画

 まきば園ではスタッフのクラブ活動を推奨し、福利厚生が充実しているのも特長。「スタッフが立ち上げるクラブの他、こちらで企画したストレッチ部があり、スタッフの腰痛改善のためのレッスンを設けています。研修会や福利厚生も体験系のものが多く、仕事以外の分野でも経験を重ね、人生を充実させてほしいと思っています」

介護業界の未来のために、子どもたちにイキイキと働く 大人の姿を見せたい

 福利厚生を充実させているのにはもう一つ大きな理由があるといいます。
 「スタッフの家族に好かれたいという思いがあります。お父さんやお母さんがつらそうに働いていたら、お子さんに〝介護の仕事ってしんどそうだな〟という思いを植え付けてしまいますし、それをお友達にも話すかもしれない。だからこそ、家族を意識した働き方の提案が福祉の未来をつくると思っています。いかに子どもたちにかっこよく働く親たちを見せられるか、すごく考えますね」。その思いは、根岸さんご自身が子育てしている経験も大きいそう。  
 「出産後は全てに完璧を求めず、自分が何を大事にしたいかを明確にすることが大切だと思うようになりました。介護はゴールのない仕事。多くの理想を追求しようとすると、結局どれも中途半端になってしまいがちだからです」
 そんな根岸さんが大切にしているのが〝悩みは執着にあり〟という仏教の言葉。「ワーク・ライフ・バランスを保つには、仕事のこだわりや悩みに執着しすぎず、時には切りあげる決断力をもつことが、とても大切だと考えています」。今後もスタッフが人生を充実させながら仕事を続けられる方法を考えていきたいと語ってくださいました。


ワーク・ライフ・バランスを維持するために、
何を心がけていますか?

 仕事のオン・オフをきっちり分けて、家に仕事はもち込まないようにしています。オフは趣味のウオーキングやジム、職場のストレッチ部でからだを動かしていますね。あとは体操のインストラクターの資格をもっていますのでボランティアで指導したり。休みを取りやすい職場なので夫と日程を合わせて旅行に行くのも楽しみの一つです。

まきば園はどのようなところが働きやすいと感じますか?

 介護業務がキーパー職としっかり分担できているところです。以前は介護業務の全てを担っていたのでとにかく忙しくて時間内に終わらないことも多々あり、今のように生活のなかで自分の好きな活動をすることは想像もできませんでした。今は希望休も取りやすいのでプライベートな時間が充実しています。また、まきば園は研修がすごく豊富なのもいいところ。研修なのでお給料をいただきながらいろいろなことを体験したり学べたりできるのはすごくよい制度だと思います。

16年もの間まきば園で働き続けられた理由は?

 何か問題や事故などが起きてしまったときに、まきば園では原因の追究だけでなく、自分自身の振り返りをさせてもらえるところが素晴らしいです。あとはやはりスタッフの人生に寄り添った働き方の提案をしてくれるところですね。実は65歳で定年になる頃、母の介護で一度退職しようと思っていたんです。でも一方では仕事を続けたいという思いもあり、主任や園長に相談したら有休の利用を提案してくださって。職場のスタッフもうまくシフトを調整してくれて、退職せずに母への自分の最後の望みをかなえられたので、すごく感謝しています。

撮影=柿島達郎/取材・文=箭本美帆