福祉施設SX

全国施設最前線

第1回 東京都昭島市 社会福祉法人 同胞互助会 愛全園

社会福祉法人 同胞互助会 愛全園
昭和23年、高津刈良氏によって創設された財団法人同胞互助会が昭和27年に社会福祉法人へと組織変更。昭和34年に養護老人ホーム「偕生園」を、昭和39年に東京都第一号の特別養護老人ホーム「愛全園」を開設。以後、在宅サービスも展開し、高齢者の尊厳を守る良質な介護と医療に取り組む

大切なのは、
高齢者を尊ぶケアを施設全体で続けること

リハビリの概念を取り入れた 東京都認定第一号の施設

 JR昭島駅から徒歩圏内の静かな環境のなかに建つ社会福祉法人 同胞互助会 愛全園。同園における高齢者ケアの歴史は古く、敷地内には東京都認定第一号である特別養護老人ホーム「愛全園」を始め、養護老人ホーム「偕生園」、デイサービス、ショートステイ、地域包括支援センター、診療所など、高齢者に特化した17の事業所があります。 「愛全園が誕生した昭和39年当時、日本にはまだリハビリという概念がなく、体の弱った高齢者の多くは寝かせきりの状態でした。それではいけないと、当園では食事のたびに入所している方々を食堂にお連れして、端座位で食べていただくようにしました。高齢者の尊厳を守るという創設時の考えを今も大切にしています」と話すのは、業務執行理事で施設長の丸山和代さん。  運営母体である社会福祉法人同胞互助会の法人理念は「老いの装い支援」。老いてもなお毎日装いたくなる気分になれるように支援するというその言葉の通り、ここでは利用者の「快眠・快食・快便・快感」にアプローチしたケアが重視されています。

「快眠・快食・快便・快感」を 叶える個別ケアを実践

 「睡眠リズムの乱れた方に睡眠薬を使用するのではなく、適度な運動や脳機能訓練を取り入れるなど日中の過ごし方を見直すことで、睡眠リズムを整えていただいています」と話す丸山さん。また、「食事は日本人の昔ながらの食材を意識した献立を自家厨房で作り、ご利用者の『快食』を目指しています。そして食べたら出すのが健康の基本。当園では日々の便の状態を観察し、漢方薬を適切に用いることで排便コントロールを行い、『快便』につなげています。その上で大切なのが『快感』です。ご利用者の生活歴を理解し、趣味や居室環境の設定など細やかな個別ケアを徹底して心地よさを得られるサービスを目指しています」。  次ページからは、同園の個別ケアの取り組みや課題などについてご紹介します。

 

❶センターには、図書室も。蔵書は毎月増え、現在約1000冊だという ❷常駐するPT(理学療法士)の指導のもと、筋トレに励む利用者ら。車椅子のまま使用できるマシンもある ❸季節感あふれる塗り絵を仕上げ、笑顔で見せてくれた利用者の女性。デイには昭島市中から高齢者が集まる ❹今春導入された玉川温泉の足温浴。石の上に足を乗せていると体中暖まると利用者からの人気が高い

 

「一番古い施設だからこそ、
一番新しいことをやらなければ」

自家厨房で手作りした 凍結含浸食でQOLの向上を

 「当園では、2013年まで噛む力が衰えたご利用者に刻み食やミキサー食をご提供していました。しかし、『もっと通常食に近い食事を食べてもらいたい』という現場の声を受け、見た目が普通で、かつ舌でつぶして食べられる食事にできないかと考え、試行錯誤の末に2014年、刻み食を全廃し、凍結含浸食を自家厨房で作ることに成功しました」。  凍結含浸食とは、広島県が特許をもつ分解酵素を使った調理法で、食材に酵素を浸み込ませ、食材の見た目や風味はそのままに、舌と上顎でつぶせるほど軟らかいのが特徴です。  導入にあたっては初期設備の投資やスタッフへの理解が必要でしたが、はじめる以上、ある程度の投資は必要と割り切った上で、従来の調理設備を生かすなどして割高化を回避。また、管理栄養士が中心となって凍結含浸食の試食会や講習会を開き、必要性を周知させていったといいます。 「現在、当園では介護食だけでなく看取り食でも、その方に合わせた個別対応食を用意しています。こうした取り組みもNST(Nutrition Support Team=栄養サポートチーム)活動の一環なのです」。  NSTとは、利用者の栄養状態を評価し、適切な栄養療法を提案し、実施する取り組みのこと。主に急性期病院で行われているイメージがありますが、同園ではほかの特養に先駆けて、2011年からNSTをスタート。現在、管理栄養士が主体となり、医師や看護師、介護福祉士らが参加して、毎週水曜の午前中に1時間のNSTラウンドを実施しています。そのなかで利用者の食欲や体重だけではなく、病態、褥瘡の状態なども確認し、終了後はそこで得た情報をほかのスタッフと共有し、全体のケアにつなげています。「NST導入前は多業種間のコミュニケーション不足による対応の遅れが課題でしたが、おかげで今はスムーズな連携が可能になりました」。

人の個性が花開く場所を 見つけることが自分の役割

 丸山さんの信条は、「東京で一番古い施設だからこそ、一番新しいことをやっていく」こと。それを利用者の満足・納得につなげるには、高齢者へのケアを自分事ととらえることが大事だと言います。 「つまり、スタッフ自身が『快眠・快食・快便・快感』であること。ですから、私は常々、まずは自分を大切にしてほしいとスタッフに伝えています」。  そのために自分ができることは個々のスタッフの長所を見極め、個性が輝く場所を作ることだと丸山さんは話します。 「例えば、植物が好きなスタッフなら花壇の管理を任せてみる。すると本人も楽しいし、同じ趣味のご利用者が周りに集まってきて、マニュアルではない交流が生まれます。もちろん、それがすぐによい効果につながるわけではありませんが、諦めず継続することが大切です」。  ほかにも施設全体をWi-Fi環境とし、社内SNSでスタッフ間コミュニケーションを活性化させ、YouTubeで施設の活動を紹介するなど、介護の世界にさまざまな新風を吹き込む愛全園。この春からは、福祉人材の裾野を広げる地域プロジェクトも始動します。

❶週一回開催される特養のNSТラウンドでは、利用者の状態変化の確認を行うとともに、要望や希望を直接聞くことで迅速なケアにつなげている ❷コミュニケーションアプリ「HR Ring」を使って、スタッフのこころとからだの状態を見える化する取り組みも実施

 ❸スポンジにゼラチン溶液を浸み込ませて作った「愛全園ケーキ」も凍結含浸食 ❹凍結含浸食の見た目は常食とほぼ同じ。摂食嚥下障害の人でも食事を楽しむことができる ❺酵素を浸み込ませて食材の軟らかさを調整できる凍結含浸食。特養をはじめ、デイやショートでも提供されている

 

 

 

 

昨年開催された「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議JSフェスティバルin栃木」において、昭島市高齢者在宅サービスセンター「愛全園」の介護福祉士、中嶋直樹さんの「多職種連携によるシームレスな支援」についての事例研究が奨励賞を受賞しました。ここではその内容とともに、中嶋さんに介護ケアへの思いをうかがいました。

 

❶丸山さんと並び、満面の笑顔を見せる中嶋さん。「今よりさらにこころとからだが元気になるデイにすることが私の目標」と話す ❷車に添乗して利用者を自宅へ安全に送り届けるのも、キャリアの長い中嶋さんの大切な業務 ❸エレベーター内の季節感溢れる装飾は、スタッフが自ら提案して手作りしたもの

 

―この事例研究をするに至った背景を教えてください

 きっかけは、長くデイサービスセンター(以下、デイ)をご利用いただいていたAさん(96歳)が脳梗塞で半年間入院したのをきっかけに、要介護2から5になり、常時オムツ着用になったことです。しかし、退院翌日にデイにいらした際、ご本人が自分でトイレに行きたいと言われたことに胸を打たれ、皆で支えられないだろうかと思いました。

 

―どのような取り組みをされたのでしょう?

 まず、PTにAさんの状態を評価してもらったところ、運動項目と比較して認知項目の評価が高く、ご本人がリハビリに意欲があることがわかりました。そこで、現状の便失禁を改善するために主治医に相談して下剤を調整してもらい、デイ利用時にはオムツをリハビリパンツに替えて、ご自分でトイレに行くためのリハビリを通し、Aさんの自立支援を行うことにしました。

 

―リハビリの内容はどのようなものですか?

 Aさんは左半身に麻痺がありましたが、PTの機能評価をもとに、麻痺側と非麻痺側の下肢筋力の向上を目的に、機能訓練室のマシンを使って、立ち上がりや歩行の練習を行いました。

 

―変化はどのように現れましたか?

 最初の二週間はリハビリによる疲労で、夜中ご自宅で痛みを訴えられたり、体力が低下して食事量が減ったり、よくない変化がみられました。この時期はご家族も不安だったと思います。そこで我々は、ご家族をケアする意味で、デイでの小さな変化をフィードバックするように努めました。  ただ、デイではご利用日の日中しか我々は介入できません。そこで、ご家族とAさんにデイとショートステイを組み合わせて、同じ機能訓練をしてはどうかとご提案をしたのです。

 

―つなぎ目のない支援を図るということですね?

 そうです。当時、Aさんのご家族はこの先の在宅介護をどうすればいいのか悩まれていたので、我々がこの話をもちかけると、ご快諾いただけました。そこからデイとショートステイの交互利用を通してシームレスな連携を図り、身体機能を高めるとともに、ご本人に合った介助法をご家族にお伝えすることになりました。

 

―連携の工夫について教えてください

 相談員がAさんの様子を互いの施設に報告するほか、PTや介護福祉士、看護師などがご利用日の夕礼にミーティングをもち、情報を共有しました。また、Aさんのリハビリの様子を写真や動画で撮影し、法人内のLANでスタッフが共有し、ご家族にもそれをお見せできたのは大きかったですね。

 

―そこからのAさんの変化は、いかがでしたか?

 まず、継続した食事のケアで食べる量が増え、体重が2か月で約2㌔増加しました。また、下肢筋力も約12㌫増加、疲労感なく歩ける距離も当初の3㍍から9㍍に増えました。その結果、ご自宅では毎日7時間離床することができるようになり、ご家族の負担も軽減しました。ご本人に笑顔が増えたのが、何よりも嬉しいことでした。

 

―最後に、今回のシームレスな支援で得た気づきと、今後への思いを教えてください

 今回よい結果が出せたのは、デイで問題点を見逃さなかったこと、問題と捉えるタイミングを逃さず、スピード感をもって対応できたこと、そして多職種の連携が事業所の内外でスムーズに行えたことが要因だと思います。連携とひと言で言っても簡単なものではなく、今も試行錯誤を続けていますが、結果を出すにはどうすればよいかを皆で考え、熱量をもって思いを伝えることが大切だと思います。

 

Aさん(96歳)。つなぎ目のない支援の結果、ご本人の発語と笑顔が増え、ご家族の負担が軽減した ❷デイとショートの交互利用を続けて2か月経つと体力が付き、一日のうち7時間は離床できるようになった

〈多業種連携によるAさんの変化〉

社会福祉法人 同胞互助会 愛全園
●東京都昭島市田中町2-25-3 ●tel.042-541-3101 ●定員:特養112名、ショートステイ20名 ●https://www.aizenen.jp

撮影=柿島達郎/取材・文=冨部志保子