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特集

PART.03 〈2040年問題への具体的な取り組み〉社会福祉法人みろく会 特別養護老人ホーム 光葉園

「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会で 浮き彫りになった課題に対して、 早急な対応が求められる地域の施設はどう取り組み始めているか。
実際に施設に赴き取材しました。


直面する人材難対策

 

サービス需要の変化に応じた提供体制の構築

人手不足による空室解消のため 地域密着型ユニットを広域型へ集約

 令和5年2月に地域密着型ユニットを廃止し、そのスペースを当時少しずつ稼働率が上がってきたショートステイへ変更したいと市に相談したところ、老人福祉計画上、期間内の特養定員数変更は厳しいとの返答でした。

 そこで地域密着型特養を広域型特養に集約。地域密着型は廃止し、空いたスペースをショートステイとして活用することにしました。

 以前は特養と共有スペースの多かったショートステイを新館で運営すれば、感染症発生時の稼働率ダウンの心配や利用者への行動制限等もせずに済むと考えました。

 

新館のユニット型居室のショートステイ活用で収益向上

 ユニット型のスペースをショートステイに活用したことで、ショートステイの稼働率が大幅にアップしたこともメリットでした。集約前は30〜40 %だった稼働率が、集約後は平均70〜80%に上昇。冬季には家が寒いという寒冷地特有の事情でロング利用を希望する人が増え、90%に達することもあります。

 地域密着型の9名分も広域型に集約したことで、それまでのマイナスが埋まり、収益も大きく改善しました。

 

 

補助金を使用していなかったことで 用途変更はスムーズに

 この決断を左右した要因が、補助金を使っているかどうかという問題でした。本館(広域型)建設時は国庫補助金を使用しましたが、新館(ユニット型)建設時は市の補助金をわずかに使っただけで、大部分は寄付と自己資金でした。この時、国庫補助金を使用していたら、用途変更時に返還が必要になりましたが、市に指示された書類を出して終了し、用途変更がスムーズに進みました。市役所の担当者が長年同じ方で、相談しやすかったことも幸いしました。

 

 

人手不足がもたらす危機と 人材維持・確保のための対策

一人しかいない専門職の定年退職が 加算休止につながる

 令和7年1月にパートの管理栄養士が1名退職しました。その結果、栄養マネジメント強化加算を一時休止せざるを得なくなりました。1名でも採用できれば再開できますが、応募はありません。

 看護師も同様で、ひとりでも多く採用したいものの、給与面で医療機関に太刀打ちできないために難しい状況です。処遇改善加算も長らく介護職員のみが対象で、看護師は対象外だったことも影響しています。制度が緩和されて支給対象になったものの、介護職員を優先しなければならないという縛りがあります。

 60代で病院勤務を終えてリタイアした看護師の応募もありましたが、施設が広く歩くのが大変だという理由で採用につながらなかったこともありました。

 夜間のオンコール体制を外部サービスに委託することも検討しましたが、入所者の状態や性格まで熟知している職員同士のやり取りと、初めて話す外部スタッフからの説明では、安心感が全く異なるため実現には至っていません。

 居宅介護支援事業所を運営していますが、ここでも3年ほど前にケアマネジャーが退職してから、数年間休止を余儀なくされました。閉鎖も考えましたが、再開時の再申請の手間を考え、休止という形を選んでいます。幸い、1年前に1名採用でき、現在は順調に運営していますが、例外的な幸運としか言いようがありません。

 向こう10年を見据えると、定年退職による人材流出はますます懸念されます。専門職がひとり欠けたら、代替者が見つかるまでは休止するしかありませんが、確保の見通しは立ちません。

 

 

 

高いコストをかけないと 採用できないというジレンマ

 人材確保の方法も大きく変化しているため対応も難しくなっています。かつてはハローワークが主要な採用経路でしたが、今では人材紹介会社を通じた転職が主流となっています。

 しかし、人材紹介会社によりますが、年収の約25〜35 %程度の費用がかかり、これが施設経営を圧迫しかねません。費用をかけずに採用したいがそれでは人が来ないというジレンマが続いています。

 

モチベーションを維持する 「副正規職員」という独自の職位

 人材確保対策として、20年以上前から実施してきたのが独自の「副正規職員」という雇用形態です。正規職員とパート職員の中間に位置するこの制度は、フルタイムで働けるけれど、エリア限定、時間帯限定、曜日固定などの条件をもつ職員を対象とし、それぞれの事情に応じた働き方を提供しています。

 「副」とつけながらも「正規職員」とすることで、仕事へのモチベーションが維持できることがポイントで、正規職員同様、キャリア形成も阻害しません。女性の多い職場だからこそ、出産・育児に限らず、家族の介護などに合わせて正規職員から副正規職員、そしてまた正規職員へというロールモデルも作ることで、人材確保と定着に貢献し、職員に安心感を与えています。

 

マニュアル改革で業務改善

 人手不足への対応として力を入れてきたのがマニュアルの徹底的な見直しです。澤口副施設長が入職した令和元年以降、業務改善の一画としてこの取り組みを本格化させました。

 それまでもマニュアルは存在したものの十分に活用されず、職員の業務手順にばらつきがある中、その差が少しずつ業務効率化を阻むという認識が薄く、“業務効率化”・“職場環境改善”という考え方を根付かせる必要がありました。

 そこで業務を細分化し、一つ一つの手順を明確にし、重点事項も詳細に記載したマニュアルを作成。この作業に1年以上を要しました。

 また新人職員にはOJT担当をつけ、まずは1ヶ月以内に覚えるべき業務を明確にし、自己チェックと先輩によるチェックと不安なことや学びたいことなどを確認する面談を3ヶ月、6ヶ月、1年と継続的に実施します。

 これは若い職員には手厚い支援体制ですが、当初は教える側がそもそもOJT体制で教わっていないことから「どうしたらよいのかわからない」という声もあり、OJTの基礎・考え方から学ぶ必要がありました。今でも毎年OJT担当者への研修を実施しています。

 しかし、マニュアルに沿って教育を受けた若手が成長し、後輩を教えられるようになる姿を見ることで、マニュアルを活用する成功体験があらゆる世代に広がり、今では、何かを聞かれたら「私はこうしている」から、 「マニュアルを見て確認する」という、新しい“標準”が醸成されています。

 また、業務中の気になることは職場環境改善アンケートで吸い上げ、「実態に即してマニュアルを変える」という提案が自然に出るまでになり、業務効率化の考え方が根付いています。

 

 

若手採用につながる 出身校への実績報告の手紙

 人材確保の突破口として力を入れているのが若手の採用です。数ある業種の中から介護の世界そのものに興味をもって頂く必要があるため、高校生や短大・大学の学生対象の就職説明会に積極的に参加し、介護の仕事の魅力だけでなく、キャリアアップが叶う環境であることや、当園の取り組みとして資格取得支援制度を紹介します。

 また、実際に研修を修了し介護福祉士となった先輩や、今まさに勉強しながら活躍している若手職員の姿などを、動画を作成して見てもらっています。若手職員を多用した動画は、学生さんに「自分と近い年齢の人が活躍している」と親近感を与えるツールとして有効です。

 見学に来た場合は、 2〜3歳年上の先輩職員と少しでも会話できる場を設けるよう努めています。「大変なことはありますか」という質問に対して年齢の近い先輩が答えるだけでなく、「こんなやりがいがあるから頑張れる」というメッセージも付け加えてくれるので、就職後のイメージがつき、安心感を与えられると思います。

 さらに効果的だったのが出身校へ卒業生の具体的な仕事ぶりや活躍の様子を写真と手紙で報告をするという手法です。短大卒者と高卒者が多く入職した令和4年度に実践したところ期待は的中。これを見た先生は生徒に見学を勧めてくださり、手紙を送った学校からは、毎年1~3人の応募が続いています。年によりばらつきはあり、決して多い人数とはいえませんが、若手採用が困難になってきている中、貴重な応募です。友人を誘って見学に来てくれる生徒もいて、先生や高校生の不安感が払拭されることがわかりました。

 

PART.04へ続きます。

 

 
撮影=蜂屋雄士/取材・文=池田佳寿子