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特集

PART.02 〈2040年問題への具体的な取り組み〉社会福祉法人かみかわ福寿園 上川町特別養護老人ホーム 大雪荘

「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会で 浮き彫りになった課題に対して、 早急な対応が求められる地域の施設はどう取り組み始めているか。
実際に施設に赴き取材しました。


医療と介護の密接な連携で
過疎化が進む山間の町での 存在価値を維持

 

地域のニーズに応じた医療介護連携

疾患を抱えたご利用者の増加に 対応して医療的ケアを充実

 町民からの地元にも施設が必要という声に応えて、上川町が中心になって札幌市の保育所を運営していた社会福祉法人に委託し、平成4年に30床の小規模特養としてスタート。しかし町外の法人運営と地元のニーズとの温度差があり、平成10年に現在のかみかわ福寿園に業務移管されました。現在は50床を有する特別養護老人ホームとしての機能に加え、ショートステイ、デイサービスを運営しています。

 大雪荘の最大の特徴は、生活施設である特養でありながら、医療的ケアを提供できる体制を整えている点です。平成4年の開設当初の入所理由の多くは、配偶者を亡くした高齢男性が家事ができない、独居で生活に不安があるといった、いわば「生活支援」が中心でした。

 しかし時代とともに、入所者の平均年齢は上昇し、90代の利用者が珍しくなくなったのに伴い、複数の疾患を抱え、日常的な医療管理が必要な高齢者が増加しています。

 地域のご利用者のニーズの変化に応じるためには、入所前から看取り後まで安心して任せられる包括的な支援体制を継続することが必要だったのです。

 

医療との密接な連携の要は 情報共有の徹底

 看護師の山川さんは大雪荘の医療的ケアの最前線に立ち、国民健康保険診療所上川医療センターとの連携を担っています。訪問診療時には、事前情報をもとに医師による診察が行えるように準備するとともに、診療後指示書の内容や、医師と施設の看護師で相談した内容などを施設内で回覧し、介護に係る職員すべてが入居者個々の健康状態を把握できるようにしています。往診で病院の受診指示が出た場合の受診対応等も看護師の仕事です。

 厚生労働省が現 在示している地域医療構想の内容に、少し近い役割を担っているかもしれないと自負しています。

 以前から医療機関との関係性はよかったのですが、現在ほどは密接ではありませんでした。それが平成20年度に北海道家庭医療学センターの医師になり、さらに現在の院長が就任し、連携がいっそう深まりました。

 嘱託医の総合診療医が週1で往診。施設の入居者が入院治療を要しても満床で受け入れができない場合は、医師の方からこちらの看護師に施設での治療を行えないか相談があり、24時間オンコール体制で医療的ケアを施設内で実施し、さらに診療データをカンファレンスで共有しています。

 「日中のうちに気になることがあれば、すぐに先生に相談でき、心配だったらすぐ連れてきていいよと言ってもらえる安心感が急変を防ぐことにつながっています」と山川さんは語ります。悪化する前に対処しているため、夜間の緊急コールは劇的に減少しました。

 こうした連携の鍵となっているのが、情報共有の徹底です。さらに背景には地域の医師が特養の人員体制や設備等の状況をよく理解していること。また地元からの入居者は在宅の頃から長年、同じ医師に診てもらっていることがあります。施設と病院との双方の助け合いの精神と信頼関係が良好な連携を支えています。

 

看取りケアの充実が示す 最期まで大雪荘で暮らすことの価値

  医療と介護の密接な連携は施設での看取りケアの充実にも結びついています。平成27年以降は要介護度3以上の入居制限となったこともあり、大雪荘での看取り件数は、近年増加傾向にあります。

 ある末期がんの利用者は妻を突然亡くし、自身も余命わずかと宣告されました。一時は生きる意欲を失い、自殺を図ろうとするほど落ち込んでいましたが、施設のスタッフ、医療センターの医師、社会福祉協議会のケアマネジャーなど、多職種が連携して支援を続けた結果、最期の数ヶ月を笑顔で過ごすことができました。

 生活相談員の小林さんはこのケースを振り返りながら「一つの事業所だけでは、この方を支えることはできませんでした。それぞれの専門性をもち寄り、事業所の垣根を越えて協力したからこそ、看取りケアが充実できました」と語ります。

 看取りケアが充実したことは、家族にとってもよい影響を与えています。突然の死ではなく、準備期間をもてることで遠方に住む家族も、計画的に面会に訪れることができます。そして何より、住み慣れた地域で、知り合いに囲まれて人生を終えることが、大雪荘で最期まで暮らせる意義ではないかと、谷越施設長は語ります。

 

 

人材確保のための職場環境改善と経営支援

喀痰吸引等研修の修了者は18名

 無資格で入職した職員には、介護福祉士の資格取得を支援します。資格を取得すれば正職員になれるという明確なキャリアパスが、職員の成長意欲を刺激し、現在、パート職員を含めほぼすべての介護職員が介護福祉士の資格をもっています。

 さらに、喀痰吸引等研修の修了者は18 名に達し、夜勤職員配置加算の要件を満たしています。また医療的ケアのニーズに対応できる体制を整えることで、算定可能な加算を複数取得しています。これが高い給与水準を維持する財源の一部となっています。

 しかし、谷越施設長が最も強調するのは「現場の自転」です。トップダウンで指示を出すのではなく、現場の職員が自ら考え、行動する。施設長の役割は、その環境を整え、必要な支援を提供することです。「職員が楽しく働ける環境を作ることが、定着率向上の最大の要因です」

 

 

給与水準の引き上げは最優先課題

 地方の介護施設にとって、人材確保は最大の課題のひとつですが、大雪荘は比較的安定した人員体制を維持しています。その理由は給与水準の引き上げを最優先課題として取り組んできたことにあります。「過疎地で人を集めるには、都市部よりもよい条件を提示するしかありません」という明確な方針のもと、基本給の引き上げ、各種手当の充実を図りました。現在、介護職員の平均年収は400万円を超え、中には500万円に達する職員もいます。

 さらに重要なのは、正職員化の推進です。かつては契約職員として採用していた介護職員も、現在はすべて正職員として採用し、特養の介護職員は正職員・契約職員ともに同じ手当を支給します。この平等な処遇が、職員のモチベーション向上につながっています。

 

地理的な制約を超えて人材活用 それでも抑えられない人件費

 高い給与水準を維持し、充実したケアを提供するには相応の財源が必要です。大雪荘は、看護体制加算、看取り介護加算、栄養マネジメント強化加算など、取得可能な介護報酬の加算は取り逃がすことなく収入源としています。なかでも栄養マネジメント強化加算のための管理栄養士については、北海道担当者に栄養士1名常勤の他、管理栄養士を配置する場合はテレワークでもよいと回答を頂いているため、現在福岡県に住む管理栄養士が、オンラインで業務を行っています。

 それでも介護報酬の改定が思うように進まない中、人件費の上昇は避けられず財政は厳しい状況で、大雪荘は長年、積立金を切り崩して運営を続けてきました。

 上川町は、大雪荘の財務状況を毎年ヒアリングし、自助努力を見守ってきましたが、今年度、積立金がほぼ底をついたタイミングで、3、000万円の運営補助を決定しました。

 大雪荘の取り組みは、施設単独のものではなく、上川町全体で、高齢者を支える仕組みの中核にあるからこそ、補助金などの理解も得やすくなっているのです。

 

地域包括システムの深化

地域全体で支える 仕組みの中核として

 令和4年に発足した「軽度要介護者の見守り支援体制構築プロジェクト」では町内の在宅における専門職員が集まり、フレイル予防から重度介護まで、切れ目のない支援体制を構築しています。しかし専門職だけでは、すべての高齢者を支えることはできず、「専門的なことはわからない」と躊躇する住民も多くいることから住民向けの研修会やマルシェを開催し、VR体験で認知症の人の見え方を体験して認知症への理解を深めたり、福祉用具を実際に使ってみて支援の方法を学んだりする経験を通して、「自分にもできることがある」と気づいてもらっています。

 また、退職した役場職員などが中心となり、 NPO法人を立ち上げて地域の支え合いを実践。ちょっとした修理、電球の交換、庭の草刈りなど高齢者の困りごとに低料金で対応するサービスを始めています 。

 専門職による公的なサービスと、住民による支援。この二つが重なり合うことで、高齢者は最期まで住み慣れた地域で暮らし続けることができます。大雪荘は、この仕組みの中で一翼を担っています。

「軽度要介護者の見守り支援体制構築プロジェクト」の主なメンバー 
 医療センターから座長として院長、その他の医師、理学療法士、看護師。かみかわ福寿園からデイサービス相談員。薬局から薬剤師。役場介護係担当職員2名、社会福祉協議会から局長、ケアマネジャー、行政職員1名、社協職員2名、生活支援コーディネーター  
 
PART.03へ続きます。
 
撮影=大谷康介/取材・文=池田佳寿子