福祉施設SX
第 5 回 レクリエーションの 舞台裏 ペーパーデコレーション


人生を彩り 生きる喜びまでも創造する
ペーパーデコレーション
高齢者施設での暮らしに楽しみをもたらすレクリエーション。
今回は、紙という身近な素材を使った作品作りを通じて 人生に豊かさをもたらす、やまもとえみこさんのペーパーデコレーションの舞台裏をご紹介します。

切り絵とは違う立体感に 紙のアートの面白さと 新しい可能性を見いだす
ペーパークラフト作家として、第一線で活動しているやまもとえみこさん。紙の魅力に出合ったのは絵画を学んでいた大学時代に、作品展に出展するために切り絵にチャレンジしたことがきっかけでした。
「切り絵を制作する中で、紙を折ったり、カールさせたらどうなるだろう?といろいろ工夫してみたら、立体的になることが面白くて。切り絵とは違う、紙の表現の可能性に気づき、夢中になりました」
大学卒業後は就職し、趣味としてペーパーデコレーションを続けていたものの、ご主人のあと押しもあり独立を決意。当時、立体的なペーパーデコレーションはまだ珍しく、展示会では「こんなものは見たことがない」と驚きの声が多く聞かれたそう。華やかで洗練された作品は人々の心を捉え、企業のディスプレーや広告制作、講師など、活動の幅が広がっていきました。
施設のスタッフや利用者が 素敵な作品を簡単に作れるよう 豊富なレクチャー動画を配信
そんな中、2020年からは動画配信をスタート。背景には、長年の活動の中で見てきた、施設や病院、学校などで、壁面装飾やレクリエーションの企画を担当しなければならないスタッフの方々の負担がありました。
「必ずしも専門的な知識や経験があるわけではないし、工作が得意な方ばかりでもないのに、忙しい業務の合間に、限られた予算の中で企画を考え、制作指導まで行うのは大変なこと。少しでも皆さんの力になれればと、誰でも簡単に楽しく、美しい作品を作れる方法を紹介したいと思い、コロナ禍だったこともあり、レクチャー動画の配信を始めました」
すると予想を超える反響があり、特に高齢者施設のスタッフからは「利用者さんと一緒に楽しみながら作れました」といった喜びのコメントが数多く寄せられました。高齢者特有のニーズや課題をより深く理解するために施設へ訪問し、作品作りを通してスタッフや利用者の方々と交流しました。そこで改めて感じたのは、高齢者は子どもや成人と違い、手の不自由な方、視力に問題のある方、理解に時間を要する方、そもそも工作に興味を示さない方など、人によって心身の状態が大きく異なるということ。やまもとさんは「全ての参加者が何かしらの制作に関わり、完成の喜びを共有できること」がレクリエーションでは重要だと考え、はさみやのりを使わない作品や、意欲のある方向けには凝った作品など、利用者の能力に応じて選べるよう、豊富な種類の作品を紹介しています。

アートは 本能的な欲求を満たし 人生を彩るもの
高齢者施設でのペーパーデコレーションは、単なる飾り物や工作の枠を超えた貴重なアート活動であると、やまもとさんは確信しています。
「そもそも人間には、何かを作り出したい、美しいものを愛でたい、という欲求が本能的に備わっており、アートはその欲求をかなえる一つの手段です。美しいものを創造する意欲や楽しさは、自分らしく生きる喜びにつながるのです」
最初はあまり興味を示さなかった利用者も、いざ始めると作業に集中し、完成時には満足そうな表情を見せることも。
「作品を褒められると自信や誇りが生まれ、それが次の制作への意欲になるので、ご利用者が作品作りを楽しめるよう、スタッフの方々が負担なく続けられる方法を模索していきたいです」
持ち前の探求心と精力的な創作活動を通じて、新しい表現技法のアイデアが次々と浮かんでくるというやまもとさん。今後もペーパーデコレーションの可能性を追求し、人生に彩りを添えるアートの楽しさを広げていきます。


●用意するもの●
●正方形の紙(コピー紙、折り紙、メモ紙など)
●はさみ
●接着剤
●えんぴつなど
❶三角形になるように2回折ります
❷さらに半分に折ります
❸短い方の2辺に三角形を3つ書くように印をつけます
❹同じものをもう1枚作ります

●作業の流れとポイント●
折り畳んだ紙を開くときれいな雪の結晶が現れる瞬間をぜひご利用者の方と楽しんでください。2つのパーツを合体させることで立体感が生まれます。



●用意するもの●
●色画用紙 ●折り紙
●はさみ ●ホチキス
●えんぴつ ●接着剤
●つまようじ ●ひも
●マスキングテープなど
●ペットボトルのフタなど 円を描くための型取りができるもの
【梅の花1の準備】 ❶紙を細長く切ります ❷端をそろえて丸めてホチキスで止めます

【梅の花2の準備】 6枚花びらのお花の形に切ったパーツも準備します

●作業の流れとポイント●
のりをつけて貼り付けていく作業だけなら、けがをする心配もないし安心。上から吊り下げると、壁面とは違った動きのあるデコレーションに。


取材・文=箭本美帆