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働きやすい職場環境にするための「要」 介護施設の腰痛対策 PART.01

介護施設で働く人の多くが体験する腰痛は、離職や求人難の要因にもなっています。
そこで今回は、施設の職場環境を考えるうえでの要となる、腰痛対策について解説します。

忙しさを原因に腰痛対策を怠ると人手不足はさらに加速する
介護施設の中には、職員の7割が腰痛に悩まされているといわれ、報酬、人間関係と並んで離職の主要因の一つともいわれています。
介護現場で発生する腰痛の多くは、前かがみの動作と無理なひねりの動作が原因であるため、こうした動作を避ける必要があります。
しかし、日本の介護現場で腰痛に悩む職員が減るどころか増加傾向にあるのは、忙しさのせいで、無理な姿勢のまま介助を続けたり、ノーリフティングのための福祉用具の必要性が認識されていないためだと考えられます。

ベテラン職員の仕事への責任感が 腰痛を加速させている
介護現場で腰痛に悩まされている人の多くがベテランの中堅職員です。その理由は、自分なりの介助方法に慣れ、スピードを優先したり、とっさにご利用者の安全を守ろうとして、無理な姿勢をとってしまうからだと考えられます。また、介護は人の手で行うべきだという考えから、リフトなどの用具を敬遠する傾向もあります。
しかし、こうして我流の介助を続けていることで腰痛が悪化し、介護を続けられなくなることは、職員本人にとってはもちろん、施設にとっても大きな損失となります。
たとえ器具を使用したとしても、それがご利用者の安心や安全につながるなら、心のこもった介護にかわりないことや、何より、正しい姿勢で介護を続けることの重要性を繰り返し研修し、マニュアルや動画なども上手に活用して伝え続けることが大切です。

職員の腰痛対策をすることは 施設経営の足腰を強くする

福祉用具導入は「急がば回れ」 足固めをしながら正しい手順で
一人の介護者がもつ身体的能力には限界があります。人間の基本的な制約を超え、少ない人数でより多くの利用者に質の高いケアを提供するためには、福祉用具の活用が必須になります。
しかし、いきなり導入すると失敗するケースが多く、せっかく高い機器を購入しても倉庫で眠らせることになりかねません。
福祉用具の導入には下図のフローチャートを参考に計画的導入をすることをお勧めします。そして何より、介護業界や社会全体の「介護は人の手で行うもの」という従来の価値観から、「人の手を使って適切な道具を活用する」という新しい介護観への意識変革が必要になります。
福祉用具を何から導入するかは各施設の状況によって異なり、一概には決められませんが、スライディングシートやスライディングボードなど、リフト以外の選択肢も重要です。

職員の腰痛対策をすることは 施設経営の足腰を強くする
リフトなど福祉用具導入の初期段階では、職員のモチベーション低下が一時的に発生することが知られています。従来の方法に慣れた職員にとって新しい機器の習得は負担に感じられるためで、腰痛の悩みの多いベテラン職員がまさにこの層にあたります。
しかし、中長期的には、適切な使用方法をマスターすることで、職員の身体的負担は大幅に軽減され、結果として職場満足度や介護の質の向上につながっています。 福祉用具は持続可能な介護システムを構築するためには不可欠なのです。
取材・文=池田佳寿子