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特集

地域共生社会の社会福祉法人 誰もが役割をもち支え合う地域を目指して PART.02 社会福祉法人北海道光生舎 光生舎ゆいま〜る・もみじ台

 

 「地域共生社会」とは、制度・分野ごとの「縦割り」や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を目指すと、厚生労働省は記しています。

 なかでも少子高齢化によって人口減少が進行している日本では、担い手の不足や、福祉ニーズの多様化が求められています。そこで今回は、誰もが支え合う共生社会の実現も念頭に、地域の人材を上手に活用している社会福祉法人を紹介いたします。

 

PART.02

社会福祉法人北海道光生舎 光生舎ゆいま〜る・もみじ台

法人としての理念の共有と目的意識の統一が
介護施設職員と障がい者との協働を成功させる鍵

 同じ理念を掲げる同一法人内でありながらも、障がい者の就労を受け入れるためには、双方の現場のリーダーたちがその意義と目的を共有することが必要でした。それができたことで見えてきた障がい者就労の新たな可能性について伺いました。

同一法人内という強みを活かして 高齢者と障がい者の共生を目指す

  社会福祉法人北海道光生舎は自らも障がい者であった前理事長が1956年に障がい者のために働く場をつくったことからはじまります。「働く喜び」「誇りある人生」「きれいと快適」を理念として掲げ、施設を市中心部におき、長い年月をかけて市民の理解を深めながら地域社会との共生を育んできました。同じ理念のもとに開設された特別養護老人ホームにも多目的スペースを設けるなど、地域の方々と交流できる場となることを目指しています。さらに同一法人内の障がい者を介護助手として積極的に活用し、介護施設のご入居者と障がい者施設のご利用者の双方が互いに助け合いながら、誰もがイキイキと過ごせる空間を目指しています。

 

間接業務を中心に掃除や洗い物 洗剤やおむつの補充などを依頼

 特別養護老人ホーム光生舎ゆいま〜る・もみじ台では同一法人内の光生舎く・る・るの障がい者の方々が働いています。

 雇用契約を結ぶ就労継続支援A型は施設内の掃除、洗濯、茶わん洗い、寝具交換など主に間接業務を、1ユニット1~2名で担当。雇用契約を結ばないB型は特別養護老人ホームやデイサービスで使用されるバスタオルや衣類の洗濯、喫茶での調理などを請け負っています。

 「介護職にとって負担となるシーツ交換も任せていますし、シャンプーなどの洗面用品の詰め替えも定期的に行ってもらっています」と副施設長の髙田さん。「各ユニットのおむつやパッド類は平均的な使用量を把握してもらうことで適切な量が毎日補充されます」

 障がい者の働きやすさのためには、決まった時間に、決まったことをお願いし、イレギュラー要素をなくすことがポイントで、一つの作業がスムーズにこなせるようになったら、車いす清掃、ユニットへの物品の振り分け、消毒液補充など、できることを段階的に追加しているといいます。

 「職業指導員が必ず付き添うので、仕事の指示や説明をこちらの介護職が直接行う必要もありません」

 

職員に法人や事業所の理念を 理解してもらうことも大切

 障がい者にとって働きやすく、仕事を依頼する側にも負担が少なくて済むようなシステムがつくり上げられているとはいえ、やはり障がい者の就労を受け入れるためには、介護施設側の意識を変える必要があると髙田さんは言います。

 「施設の各部門のリーダーが集まるリーダー会議は、事業所運営上の最高決定機関です。ここでも理念を判断基準に、どうすればより有意義な関係性を築けるのかについて徹底的に話し合います。同じ理念を共有し、目的意識を統一することが、障がい者との協働を成功させる鍵となっています」

 認知症のある方と障がい者の関わり方について、当初は戸惑いがあったそうですが、これも研修を重ねることで改善できたといいます。介護職員の理解が進んだことで、よりスムーズな連携が可能になったことを、今、髙田さんは実感しています。 

 

間接業務で実績を積んだ障がい者は 直接介護へとステップアップ

 介護施設で働く障がい者のなかには、介護の仕事に興味をもち、勉強して直接介護にも関わりたいと願う人も少なくないといいます。

 「『人のためになる仕事をしたい』いう思いがとても強いのだと思います。間接業務をしっかりこなせて、さらに直接介護にも関わりたいという障がい者には、3カ月を目安とした独り立ち準備期間を設定し 、PDCAサイクルで個人指導を繰り返しながら、一定の基準をクリアした場合は直接介護のスタッフとして登用しています。入浴介助やおむつ交換など、これまでに3名が従事しています」

 直接介護では、対象となるご入居者を固定したり、時間帯を決めることで、安心して介護に関わってもらえるようにしているそう。これまでに2名が一般就労へと結びついた実績もあり、人手不足を救う重要な戦力ともなっています。

 

 

障がい者の熱心な接し方は 現場職員へのよい刺激に

 介護職員にとって、障がい者のご利用者への熱心でていねいな接し方を見ることは、初心を思い出させ、質の高いケアを目指すための刺激にもなっているといいます。

 またどうしても建物という箱の中に閉じこもり、ご入居者、介護職員、ご家族の3者の関係だけになりがちなご入居者にとっても、介護職員以外の障がい者と話したり触れ合ったりすることは、息抜きや安心感にもつながっているといいます。認知症がある方で不安になり歩き出してしまうご利用者が、キッチンで作業する若い障がい者の姿を見て安心されたという事例もあるそう。

 介護職員と障がい者が直接コミュニケーションをする時間は少ないので、「ありがとうカード」などを作って、感謝の気持ちを表すことも大切だと髙田さんは語ってくれました。

撮影=松浦幸之助/取材・文=池田佳寿子