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加齢に伴い進行する「サルコペニア」発症の仕組みをヒト細胞モデルで解明
#サルコペニア
▶高齢者の転倒、骨折、寝たきりなどを引き起こす老年症候群として世界的に注目
国立長寿医療研究センター運動器疾患研究部は9月19日、加齢に伴い進行するサルコペニアの病態解明に向けて、ヒト由来の細胞を使い、体の外で再現した新しい実験モデルを構築した。
サルコペニアは高齢者の転倒、骨折、寝たきり、さらには死亡リスクの上昇と深く関わる老年症候群のひとつとして世界的に注目されているものの発症メカニズムには未解明な点が多く、有効な治療薬の開発は遅れているのが現状だ。これまでマウスなどの動物モデルを用いた研究が数多く行われてきたが、免疫応答や代謝、筋線維構成におけるヒトとの違いから、臨床応用には限界があった。
同研究部では今回、ヒト間葉系幹細胞に細胞老化を引き起こす処理を行い、それらが分泌するSASP(老化した細胞が分泌する炎症性物質や酵素、サイトカインなどの総称)を、ヒト筋芽細胞から分化させた筋管に添加することで、筋管直径が有意に縮小する現象を確認し、ヒト筋肉の老化に繋がる現象を体の外で行う培養実験で再現することに成功した。
また、細胞の遺伝子の働きを詳しく調べた結果、SASPの影響で筋肉のエネルギーを効率的に作れなくなる遺伝子、PDK4(糖をエネルギーに変える仕組みにブレーキをかけることで糖を節約し、状況に応じてエネルギー源を切り替える働き)の働きが強まることがわかった。これにより、エネルギーを作るミトコンドリアの働きが弱まる可能性があると考えられる。そこで、PDK4の働きを抑えることが知られる化合物のDCA(ジクロロ酢酸)を添加したところ、筋管直径の縮小が抑制される傾向が確認された。
この成果は、SASPを介したミトコンドリア機能障害がサルコペニアの一因であることを示唆し、PDK4やミトコンドリア経路を標的とした新たな治療戦略の可能性を提示するもの。今後は、このヒト型モデルを活用した創薬スクリーニングや、バイオマーカー候補の探索など、臨床応用を見据えた研究の加速が期待される。