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介護のかくしん

介護施設のマニュアル作り その1 読まれるマニュアル 使える手順書のために

介護の現場に必要な「革新」や「確信」や 「核心」をその分野の専門家にうかがいます。


「マニュアル」は 繰り返し読むバイブル 「手順書」は すぐ手に取れるトリセツ

 教育ツールとして使われるマニュアルと手順書。この2つには大きな違いがあります。介護の現場でいえばマニュアルはケアの質を上げてご利用者の満足度を上げることを目的に、なぜそれをしなければいけないのか、あるいは、してはいけないのか、その理由や、背景にある施設の理念や思いまでも明確に理解してもらうことを目的に書かれます。

 介護にまつわるAからZの全てをマニュアル化することはできなくても、ここに書かれたことをしっかりと読み込んでおけば、いざという時の判断基準に迷わなくなります。だから1回読んだから終わりではなく、繰り返し読んでほしいのがマニュアルで、それにふさわしい読みごたえが求められます。新人時代とベテランになってからでは、読後の感じ方が違ってよいのです。

 それに対して、もともと機械操作や作業の平準化に重点を置いて書かれた手順書は、誰がいつ読んでも同じ意味にとれ、パッと見て分かりやすく、間違いを起こさない書き方であることが求められます。

 

転倒事故など失敗例から始める ストーリー仕立てのマニュアルも

  マニュアルというと、そこには模範例だけが書かれている印象をもたれるかもしれませんが、実は読む人の心に残るマニュアルは、失敗例をもとに作られていることがあります。

 例えば、「こんな転倒事故事例があります。要因はこういうことでした。ここから分かるように、気をつけなければならないのは、こういうことです。なぜなら私たちの施設の理念はこうだからです」というような文章を自施設に当てはめてみてください。ここで伝えようとしていることが、実感として分かると思います。

 マニュアルが教科書のようになってしまえば、「もう知っている」と必要性を感じず、読まないスタッフもいるかもしれません。マニュアルの目的には、人材育成やコンプライアンス教育も含まれます。読むことで自ら考える主体性や創造性も引き出せるような、作り手の設計力も求められます。そのためには、次ページに示したようなちょっとしたコツや工夫も凝らしてみてください。

 

ヒヤリハットの発生時が 更新のチャンス

 マニュアルは、法律を守る意味でも重要な役割をもっているため、最低でも年に1回の見直しが必要です。さらに、新たな福祉用具の導入で介助方法が変更になった場合や、毎日のケアの中から新しいノウハウが生まれた時も更新のタイミングになります。

 でも一番重要なタイミングは、ヒヤリハットが起こった時ともいえます。そこから学んだことをすぐにマニュアルや手順書に反映して全職員に周知すれば、自分ごととして捉えてもらいやすく、読み直すきっかけにもなります。マニュアルがもつ「知識共有」としての機能が発揮されるのです。

 

マニュアルや手順書を 日常業務と乖離させない

 いくら更新が重要でも、忙しい介護現場で毎日マニュアル作りには関われません。そこで、日々気づいたことは業務日誌や申し送りに書き込んでおいてもらい、ある程度まとまったところで管理者やリーダーがマニュアル化するかどうかを判断しましょう。ベテランのスタッフに定期的にマニュアルを見直してもらい、意見を聞くことで、マニュアルと日常業務が乖離しないようにすることも有効です。

 マニュアルは、それぞれの施設の理念やバリューが詰め込まれたまさにバイブル。スタッフが「指示されたから」ではなく、「理念実現のため」に行動できる環境を作るためにも不可欠なものなのです。