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処遇改善&義務化要件を確認
新ルールを総まとめ 令和6年度 介護報酬改定による変更点
2024.03 老施協 MONTHLY
4、6月から施行となる介護報酬改定。今回は2~5月の支援補助金も含めた新たな処遇改善加算と義務化要件についてスポットを当てる。全体像を全国老施協の古谷忠之参与、処遇改善を桝田和平参与、義務化要件を小泉立志副会長に解説してもらった。
処遇改善加算の一本化は職員・事業所にメリット大
施行が迫る令和6年度の介護報酬改定は、全体で1.59%のプラス改定が実現した。うち0.98%分は介護職員の処遇改善に充てられ、0.61%分を介護職員以外の処遇改善と基準費用額引き上げなどに配分されることになった。さらには光熱水費基準費用額増額による増収効果などによって0.45%相当のプラスとなり、実質+2.04%相当の改定となった。
注目すべきは、この0.45%の中には「処遇改善加算」「特定処遇加算」「ベースアップ等加算」の処遇改善3加算の一本化による効果も見込まれていることだ。
事業所として、この一本化にはどのようなメリットがあるのだろうか。厚生労働省の介護給付費分科会に委員として参加した全国老施協・古谷忠之参与は語る。
「まずはこれまでの3加算の要件が一本化され、職種間の配分ルールが緩和されることになります。介護職員への配分を基本とする旨が書かれていますが、それ以外の職員にも事業所が考えて総額を適切に割り振ることが認められました。従業員の処遇を改善するという意味で大きな意義があります」
加えて、処遇改善加算の一本化は、事業所の事務的な手続きも簡素化される効果が見込まれている。
「2月から5月までは処遇改善支援補助金、6月から新たな加算のシステムということで、どうしても最初はその移行に労力を使わねばなりません。しかし、そこを乗り越えれば令和7年度以降は手続きも楽になってくると思われます」
状況を把握して見直し 事業所単位で判断すべき
こうしたプラスの多い変革の中で、事業所に課される義務化要件もより細かく規定された。今回は介護報酬、診療報酬と障害福祉サービス等報酬のトリプル改定となったこともあり、医療との連携の重要性が色濃く浮き上がった。
「特に『緊急時等の対応方法の定期的な見直し』の項に関しては、迅速に対応すべきことだと考えています。既に各事業所が緊急時対応マニュアルを持っていますが、加えて配置医師・協力医療機関との連携を年1回確認する必要が出ました。特養は重い症状のある入居者の方も多いので、安心して生活していただく環境づくりのためにも重要度が高いと思います」
職場の環境づくりという意味では、施設・短期系などに向け『生産性の向上に資する取組の促進』が明記されたところも注目される。
「働く環境を良くするためにも、職員の役割分担をはっきりさせて、専門性を高めていく取り組みが各事業所に必要とされますね」
今回の改定はプラスの面も多いが、事業所がそれぞれに判断をしなければならない局面が増えた。
「処遇改善にしても義務化要件に関しても、事業所の立地条件や従事者の比率などによって対応の仕方は変わるはずです。これは医療を含めた外部との連携でも同じことです。今後の経営を考えていく上でも、まずは現状を見直し、今目の前にある問題を職員たちにも見える化して、事業所内で話し合うことが重要となるでしょう」
公益社団法人全国老人福祉施設協議会 参与/
社会福祉法人邦知会 法人本部長/
ハーモニー広沢 ケアハウス ハートフル広沢 施設長/
群馬県老人福祉施設協議会 会長
古谷 忠之
ルール1
ベースアップを目指す処遇改善加算の一本化
基本給を増額することで長期的に安定した改善を
今回、一本化された「介護職員等処遇改善加算」では、現行の「処遇改善加算」「特定処遇加算」「ベースアップ等加算」の3つの処遇改善加算を、各加算・各区分の要件と加算率を組み合わせ、職種間の配分ルールを統一する形での4段階の加算方法に変更された。
その上で、厚生労働省から出された「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」には、「介護職員への配分を基本とし、特に経験・技能のある職員に重点的に配分することとするが、事業所内で柔軟な配分を認める」という一文が記されている。
「事業所により経験のある介護職員が多い施設もあれば、10年未満の介護職員やその他の職種が多い施設もあります。それを踏まえて、おのおのが考えて総額を割り振ることができます」(古谷参与)
さらに注目なのは「令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップへと確実につながるよう加算率の引上げを行う」(前出文書)と明記されていることだ。“ベースアップ”つまり今回の加算一本化は、施設で働く人たちの基本給底上げを目指したものということを意味している。
「以前から全国老施協が訴えてきたことですが、他業種と比べて介護職員の給与水準は低過ぎます。ですから、今回の改定で長期的に安定した処遇改善を行う旨が記されたことは、人材確保に悩む業界にとってもプラスだと考えています。そのためにも手当として賃金アップをするのではなく、基本給を上げるということが重要。そしてこれまでの処遇改善加算、2月から5月の支援補助金に上乗せしてベースアップを図らねばならないことは考慮に入れておきたいところでしょう」(古谷参与)
今回の報酬改定では、特養は大幅アップに転じたが、通所で小幅アップ、訪問では減額となった。
「これらのサービスを複合的に行っている事業所では、介護の未来を考えても、トータルでベースアップを図るなどの方策を考える必要もあると思います」(古谷参与)
「処遇改善加算」を解説
公益社団法人全国老人福祉施設協議会 介護保険事業等 経営委員会 委員長 参与/
社会福祉法人健祥会 地域活動部長/
介護保険・福祉支援室長
桝田 和平
Check1
支援補助金と加算による賃金改善の流れ
介護職員、その他の職種にもベースアップが望まれる
これまでの3加算では、処遇改善加算は介護職員(もしくは直接介護に関わった職員)のみに、特定処遇加算・ベースアップ等加算はその他の職種も含めて配分可能な方式だった。これが6月から一本化されることにより、介護職員のベースアップを基本としながら、各法人の判断で制約なくその他の職種にも配分できることになる。2~5月までの間は、処遇改善支援補助金によって補完。支援補助金は補助額の2/3以上は介護職員などの月額賃金の改善に使用する(令和6年2・3月分は全額一時金による支給を認める)ことが要件とされており、長期にわたり安定した賃金アップを目指す改善策として予算措置がなされた。
移行のイメージ
Check2
基本給や手当など現在の賃金の状況を把握
賃金改善状況を把握してスムーズな処遇改善を実行する
新加算は、法人の判断による柔軟な配分が可能となった。なので、まずは現在までの賃金改善状況を把握することが大事。基本給、個人手当以外の諸手当、さらに賞与などが賃金改善の対象となる。
基準日は、介護職員なら2009年10月直前(介護職員処遇改善交付金か介護職員処遇改善加算取得前)、その他の職種は2019年10月直前(特定処遇加算取得前)になる。その上で計算月に支払いを受けた賃金と、基準日前の賃金(同じ条件で働いた場合の賃金を計算することが大事)との差額が賃金改善額となるが、個人手当の差額は改善額にはならないので注意が必要だ。
Point
支援補助金と新加算で要件・計算が違うことに注意
支援補助金と新加算で、賃金改善の要件や計算が違うことが大きなポイント。基本給などの改善について支援補助金では、月額賃金の2/3以上の改善が求められますが新加算では新加算Ⅳ(Check3の表参照)の加算額の1/2以上の改善が要件となります。さらに支給額の計算について支援補助金の計算基礎単位はこれまでの処遇改善3加算分を含みますが、新加算においてはこれを含みません。細かな差異があるので注意しましょう。(桝田参与)
大まかな賃金形態
Check3
新加算の内容を確認
7年度以降の職場環境改善など見直された要件に注意
一本化された新加算は4段階に分かれる。まず左表下段Ⅳが現在の処遇改善加算(Ⅱ)とベースアップ等加算に対応した加算。この9.0%の加算による1/2以上を月額賃金で改善することが算定要件となる。Ⅲの要件はⅣに加えて、資格やキャリアなどに応じた昇給の仕組みの整備が必要。さらにはⅠ・Ⅱになると、厚生労働省から出された「生産性向上ガイドライン」などに沿った職場環境の改善を行う必要がある。また、ⅡはⅣ以上の職場環境改善と見える化、改善後の賃金440万円以上/年の介護職員を最低1人確保することが必要で、Ⅰは一定割合以上の経験技能のある介護職員を配置することなどが追加されるなど、加算率に比例して要件のハードルも上がる。
Point
改めて確認して見直しておきたい職場環境の具体的な改善基準
最も留意すべきは、令和7年度から職場環境などの要件の基準が変わること。特に新加算要件Ⅰ・Ⅱに関しては、さらなる職場環境改善(各区分2つ以上など)と、賃金改善以外の処遇を改善するための具体的な取り組みと内容の公表が条件です。これをクリアできるかは、法人の規模によっても大きな差が出ます。改めて見直しを図るべきでしょう。(桝田参与)
新加算のルール
Check4
これまでの賃金改善スケジュールの継続が可能
賃金改善時期の確認が必要
新加算に関するスケジュールは下表の通り。2~5月の支援補助金による賃金改善時期は、これまでの処遇改善加算と同様の流れになる。これに加え令和6年度は、4月1日(月)までに都道府県などの指定権者へ体制等状況一覧表を提出し、15日(月)までに処遇改善計画書を届け出る必要がある。計画書には処遇改善加算見込額と賃金改善見込額、キャリアパス要件、職場環境などの要件を記載する。
Point
まずは支援補助金に関する正しいスケジュールを把握してスムーズに支給しよう
正しい処遇改善のためには、支援補助金から新加算への移行をスムーズに行うことが重要です。3月以降に通知される新加算の前に、2~5月の支援補助金についてスケジュールを把握しておきましょう。支援補助金の支給要件としては、4・5月分の給与において補助金の2/3以上が基本給の改善に使われていればいいことになります。つまり、計画から実行までのタイムラグが認められているのです(下表参照)。意外と勘違いされやすいので、厚生労働省のQ&A(「介護保険最新情報vol.1202」)なども含めてご確認ください。今回の支援補助金による賃金改善策は、事業所の今後を左右します。職員の給与アップができたからといってめでたし…ではなく、今後生き残るための経営戦略として、処遇改善(ベースアップなど)を考えるべき時期が来ているのです。(桝田参与)
処遇改善3加算・支援補助金・新加算をスムーズに支給
ルール2
より良いサービスを行うための人員・運営基準の義務化要件
他職種と連携することが生産性の向上に必要!
今回の義務化要件には、医療を含めた他職種との連携、委員会の設置など、コミュニケーションを求められるものが多く含まれる。
「課題解決のためのディスカッションや研修の場が増えていきますから、各事業所で担当者やスケジューリングを効率的に行う必要があります。IoT機器などを使ったリモート会議などを求められることもあるでしょう」(古谷参与)
生産性の向上という意味でも、少しずつ現場のDX化を図る時期に来ているのかもしれない。
「以前から推進しているLIFE(科学的介護情報システム)が本格的に重要となる時期が来たのだと考えています。医療連携という観点だけではなく、現場の労力削減にもなりますし、入居者の皆さんに安心していただける環境づくりにつながるはずです」(古谷参与)
「義務化要件」を解説
社会福祉法人鶯園 常務理事 特別養護老人ホーム鶯園 園長/
公益社団法人全国老人 福祉施設協議会 副会長
小泉立志
Check
義務化・努力義務・新設減算を確認
利用者が安心して利用できる環境づくりが色濃く示される
新たな義務化要件も加わった。例えば、処遇改善にもつながる「生産性の向上」に向けた取り組みを促す要件は、特養以外のサービスにも3年間の猶予期間をもって取り入れられた。また「身体的拘束等の適正化の推進」が訪問・通所系などにも義務付けられている。医療・介護の連携への動きが強まる中で、特養に対して3年間の猶予期間をもって協力医療機関との連携体制の構築が義務付けられた。併せて緊急時における配置医師・協力医療機関との対応方法も、年1回以上見直しを行う必要がある。さらには感染病などの対応医療機関との連携対応に関しても努力義務として明記された。地震災害などにおける業務継続計画が未策定だった場合の減算が示され、もしもの場合でも利用者に安心してサービス提供を行うための指針が示されたのも特徴だ。
Point①
入居者の回復を目指す積極的な口腔ケアを
今回の義務化要件として示された「口腔衛生管理の強化」については入居者の身体状態回復という面でも重視すべきだと考えます。口腔ケアを積極的に行うことで、入居者の方々が安全に食事をすることができますし、リハビリテーションでも力が入りやすく、大きな効果が得られます。歯科衛生士との連携も含めたチームケアで、より介護の質の向上に努めていただきたいと考えます。(小泉副会長)
Point②
ICTの活用などを視野に入れつつ「生産性の向上」を目指す
生産性の向上については、基本的には利用者の安全確保と職員の負担軽減が中心となりますが、介護人材不足への対応という面でも、方向性が示されたと考えております。人材不足が叫ばれる中で、ICTの活用を視野に入れるなど、業界全体で近々の課題として取り組まねばなりません。(小泉副会長)
全国老施協からの情報を活用してください
令和6年度介護報酬改定の最新情報を掲載。主な決定事項について古谷忠之参与が解説したオンデマンド動画(会員限定)や特養、短期、デイの改定内容や処遇改善加算の対応について厚労省や本会役員が解説した経営戦略セミナー動画(別途参加費が必要)なども配信
構成=玉置晴子/取材・文=一角二朗/写真=PIXTA
Point
不公平感がないように全体のバランスと長期的な視点で配分を
介護職員だけではなくその他の職種の方へも不公平感が残らないよう、バランスを考えたベースアップなどが必要です。また支援補助金により算定前(現在)の賃金水準を上げた上で、新加算では順次その賃金を上回る体系を考えておかねばなりません。新加算による賃金改善額を上回る加算額は、R6年度に限り繰り越しも認められているので、長期的な視点で配分を行うことが必要です。(桝田参与)