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特集(制度関連)

どうなる!? 6年に一度のトリプル改定 2024年度 介護報酬改定の行方

2023.11 老施協 MONTHLY

団塊の世代が後期高齢者となる2025年問題を前に、来年度の介護報酬改定への議論が本格化している。診療報酬、障害福祉サービス等報酬と重なるトリプル改定は、どんな影響があるのか。全国老施協の小泉立志副会長に話を聞いた。


老健局「令和6年度予算概算要求」の注目ポイント

 厚労省老健局が出した令和6年度の概算要求は3兆7158億円となり、前年度の当初予算に比べて858億円増加している。

 中でも注目されるのが、医療・介護の連携。DX化に向けた「介護関連データ利活用に係る基盤構築事業」には約2倍の25億円の予算が組まれていることだ。さらには「包括的支援事業の推進」自体には予算の増減はないものの、地域の介護予防サービス支援のための「地域包括支援センター等におけるICT等導入支援事業」を新設した。また介護職員のキャリアアップ、職場環境の改善を行った事業所に対して支給される「介護職員処遇改善加算等の取得促進支援事業」にも増加が見られる。

医療・介護の連携に向けた仕組みづくりがポイント

 厚生労働省(厚労省)は今年8月に、財務省へ向け来年度予算のための概算要求を提出した。財務省の査定、政府内の調整および閣議決定を経て、来年の通常国会で予算案が審議されることになる。

 一方、来年の2024(令和6)年は、3年に一度の介護報酬改定が行われる年だ。現在、それに向けて厚生労働省社会保障審議会・介護給付費分科会における議論が本格化してきている。

 また、来年度の改定は診療報酬、障害福祉サービス等報酬の改定が重なる、6年に一度のいわゆる「トリプル改定」となる。今年の「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太方針)」でも医療・介護の連携が示されており、診療報酬の改定が介護分野にも大きな影響を及ぼすことが予想されるのだ。

 そんな中、10月11日に開かれた介護給付費分科会で、厚労省から「令和6年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」(以下「基本的な視点」)が提示された。そこでは「①地域包括ケアシステムの深化・推進」「②自立支援・重度化防止に向けた対応」「③良質な介護サービスの確保に向けた働きやすい職場づくり」「④制度の安定性・持続可能性の確保」という4つのポイントが示されている。

 この「基本的な視点」が示すことは何なのか。現在、分科会で行われている議論を踏まえながら、次の改定で考え得る変化、そして事業者としての要望について、全国老人福祉施設協議会の副会長・小泉立志氏に話を伺った。

「まず、少子高齢化による人口構造の変化により、2030年に向けて死亡者数が増加の一途をたどるとされます。ですから、そのための体制を整えておく必要があるのです。そういった意味で、今回のトリプル改定は医療・介護の連携における仕組みづくりに向けた重要な準備だと言えるでしょう」

 その上で、「①地域包括ケアシステムの深化・推進」において、厚生労働省は〈医療ニーズが高い方や看取りへの対応を強化する観点から医療と介護の連携をより一層推進すること〉を挙げる。これによって、訪問介護と通所介護などを組み合わせた新たな複合型サービスの創設が想定される。だが、それと同時に〈地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取り組みを推進する〉とも書かれている。

「地域の特性や既存のサービスの状況も異なるため、一律に方向性が定まるわけでもありません。さらに地域の人口推移を考えただけでも、その方向性が変わるでしょう。東京都区部や地方の中核市などでは住人の総数が変わらない中で高齢者が増えていく。けれど人口5万人ほどの市町村は高齢者が微減程度で若年層の減少が加速し、全体的に人口が減少する地域もあるわけです。地域ごとに、将来の人口推計などを勘案した効率的な取り組みが必要となるわけです」

2020年までは厚生労働省「人口動態統計(令和3年)」
2030年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計):出生中位・死亡中位推計」より作成

介護現場のリアルな現状がフィードバックされる議論を

「『②自立支援・重度化防止』は介護保険の基本理念であり、介護の目指すべき基本的事項になります。その上で、CS(顧客満足度)の高いサービスを提供することが大事です。具体的に言えば、根拠と実績に裏打ちされた科学的介護の推進であり、多職種連携によるチームケアであると考えます」

「基本的な視点」には、この科学的介護の指標となるLIFEの活用が指摘されている。LIFEは介護事業所から収集した利用者介護データを分析し、フィードバックするシステムで、2021年度から運用が開始されている。

「『基本的な視点』には、多職種連携による〈リハビリテーション・口腔・栄養の一体的取組〉の強化も盛り込まれています。各分野の技術が充実・進化をするにつれ、連携の必要性が感じられ、実績としても大きな効果を生んでいます。その上で、LIFEが連携や定期的な議論に使用されるようになっているのです。自立支援・重度化防止への重要なツールとして、LIFEの活用を推進したいという意味があると思われます」

 さらに厚労省は、LIFE・要介護認定情報・レセプト・ケアプランなどの介護関連データを介護事業所ならびに介護・医療間で情報共有できる基盤構築を始めており、今回の概算要求では前年度から倍以上の予算を計上している。

 こうしたDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みは、「③良質な介護サービスの確保に向けた働きやすい職場づくり」の項にも見て取れる。介護人材の〈介護ロボット・ICT等のテクノロジーやいわゆる介護助手の活用など〉を提示している。

「確かに介護ロボット・ICTの活用の利便性については浸透しつつありますが、事業所によって温度差があるのが実情です。介護助手については人材不足もあり、少しずつ推進されていると感じます。ただ、介護助手も最低賃金が上がり、事業所の経営的側面からは厳しい状況なのも一因です。いずれの提言も、実現するためには現場の視点も踏まえた議論を深めていただく必要があるでしょう」

 まさにこれらは、現在の介護業界が持つ問題点を解消するべく提示されたものだ。だが、その理想を実現するには介護現場の現実が反映されなくてはならない。それは「④制度の安定性・持続可能性の確保」において書かれている〈評価の適正化・重点化、報酬体系の整理・簡素化〉についても、同じことが言えるだろう。

「前回の改定で、労力のかかる通所介護の『入浴』の評価が見直されましたが、その単価を変更しただけで経営が立ちいかなくなる事業所も現れました。手間や労力のかかることに対して、それなりの評価を行っていただきたい。それが〈評価の適正化〉だと思います」

 次の項目からは、さらに「基本的な視点」に示された具体的なポイントを深掘りしていこう。

高齢者の医療や介護などについて意見交換する岸田文雄首相。全国老施協も厚労省に大幅な報酬改定を要望した「令和6年度介護報酬改定に向けた要望・各論」を提出

小泉立志副会長

社会福祉法人鶯園 常務理事 特別養護老人ホーム鶯園 園長/公益社団法人全国老人福祉施設協議会 副会長


介護報酬改定に向けた4つの視点

厚生労働省から出された「令和6年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」(「基本的な視点」)の概要から、さらに注視すべきポイントを小泉副会長が解説。今回の介護報酬改定の注目点をおさらいしておこう。

※厚生労働省社会保障審議会・介護給付費分科会「令和6年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」より要約

1 地域包括ケアシステムの深化・推進

地域の実情、利用者の尊厳を保持し、質の高いケアマネジメントや必要なサービスが切れ目なく提供されるよう柔軟かつ効率的な取り組みを推進。医療の視点を踏まえたケアマネジメントなど生活支援体制を整備していく。また感染症・災害対策および高齢者虐待防止への取り組み、認知症への対応力向上を狙う。

2 自立支援・重度化防止に向けた対応

介護保険制度の趣旨に沿った質の高いサービスの提供に向け、多職種連携を通じた取り組みやデータの活用などが重要となってくる。ついては、これまでの取り組みを踏まえながら、リハビリテーション・口腔・栄養の一体化や、LIFEを使った科学的介護など、質の高いサービスを進めていくことが必要となる。

3 良質な介護サービスの確保に向けた働きやすい職場づくり

人材不足の中でさらにサービスの質を向上させるため、人材の確保・生産性向上を目指す。特に人材不足の訪問介護などはベースアップといった支援を継続。また介護ロボット・ICTなどのテクノロジーや介護助手の活用などにより、業務負担の軽減を図る。経営の協働化やテレワークなどへも柔軟に取り組む。

4 制度の安定性・持続可能性の確保

保険料・公費・利用者負担で支えられている介護保険制度の安定性・持続可能性を高め、全ての世代が安心できる制度作りを目指す。全世代型社会保障の基本理念に基づき、サービス提供の実態を十分に踏まえながら、評価の適正化・重点化、報酬体系の整理・簡素化を進める必要が引き続き求められていく。


ここが気になる! 1 12年ぶり新設なるか!?
複合型サービス

解決が見えない人材問題と医療・介護連携に有効!?

 今回の介護報酬改定において注目されるのが、訪問介護と通所介護を組み合わせた、新たな複合型サービスの創設に向けた議論だ。

 下の図は事業所における職種別の人手不足感を表したグラフである。介護職員で6割以上、そして訪問介護員で8割を超える事業所が人材不足を感じていることになる。こうした人材問題を解決する方法として、新複合型サービスが有効な一手となることが望まれる。

「先ほども申し上げた通り、今後は医療依存度の高い高齢者が増加し、医療と介護の連携が必要不可欠となります。さらにはACP(アドバンス・ケア・プランニング)などのニーズも増加することが考えられます。その中で、介護サービス事業所間でも、これまで以上に連携の必要が生じてきます。連携という視点から見ると複合型サービスは非常に利点が多いと言えるでしょう」(小泉副会長)

 だが実現のためには、このサービスに対応できる新たな人材の育成・登用に関する問題もある。そして、その報酬体系についても、具体的な議論を深める必要がある。

「現状、介護老人福祉施設における配置医師は、末期の悪性腫瘍など一部のケースを除いて、原則として健康管理療養上の指導しかできません。その上、指導は診療報酬の算定ができないことになっています。こうした評価に関しても、柔軟な対応を考えていただきたいところです」(小泉副会長)

介護職員の職種別人手不足感 (人手が不足している事業所の割合)
(公財)介護労働安定センター「令和3年度介護労働実態調査」からデータを抜粋して作成

ここが気になる! 2 多岐にわたるサービスをつなぐ
LIFEの活用

世界に先駆けたシステム 加算要件などにも配慮を

 2021年度から運用が開始された科学的介護情報システムLIFE。介護現場に科学的なエビデンスを導入し、全国どこにいても質の高い介護が受けられることを目指して作られた、将来の介護にも生かせる、世界に先駆けた画期的なシステムである。

「少子高齢化の中で介護される方々が増加していき、それを支える人材が不足していく傾向にありますから、効率性を高めなければ、袋小路に陥ってしまいます。そうならないためにも、LIFEの活用が重要です」(小泉副会長)

 施設への導入も順調に進んでいる。老施協が行った2022年の調査によれば、通所・特定施設も含めた介護サービスの約77%が、介護ソフトを通じてLIFEに対応していることが分かっている。

 また、今年の8月に厚労省の介護給付費分科会/介護報酬改定検証・研究委員会が取ったアンケート(※1)では、利用者の状態の評価が統一化されたり、それまで評価していなかった状態も評価できるようになったという結果が出た。

「評価が数値化されることにより、充実した介護を行えるようになったという意見だと言えます。今後は、フィードバックされた情報やデータ分析の充実が急務となってくるでしょう」(小泉副会長)

 現在、事業所別フィードバックでは、要介護度、年齢階級別の内訳や日常生活の自立度件数といったデータを提供。そして、このデータの利活用が厚労省の目指す〈リハビリテーション・口腔・栄養の一体的取組〉において重要となる。

「これまでも機能訓練指導員・歯科衛生士・栄養士といった専門職たちが、それぞれの現場で成果を上げてきていました。ですが、その上でLIFEによって数値化されたデータがあれば、互いの仕事を共有して分析することができる。よりよい介護を目指すための指標となるわけです」(小泉副会長)

 このように大きな意義を持つLIFEへの期待は大きい。今後も可視化されたデータをアウトカム視点に落とし込んでいく指標の在り方、そしてLIFEへの入力負担の軽減といったところが議論されていくことになる。「今回の報酬改定において、加算要件や算定単位数の配慮が望まれます」と小泉副会長。最も大きな点についても注視していきたいところだ。

※1)厚生労働省介護給付費分科会/介護報酬改定検証・研究委員会「LIFEの活用状況の把握およびADL維持等加算の拡充の影響に関する調査研究事業(速報値)(案)」


ここが気になる! 3 高齢者の人口増で人手不足
介護職員への処遇

ケアマネジャーの実務負担と責任が増加!?

 厚労省が2021年に発表した第8期介護保険事業計画に基づく数字によると、2040年度には約280万人の職員が必要だとされる。政府も人員不足に対して、さまざまな施策を講じているように見えるが、現状は厳しい。

 加えて、報酬改定を巡る議論が続く中、職員の処遇改善について武見敬三厚生労働大臣が記者団に「月6000円程度が妥当」と発言して波紋を呼んでいる。「処遇改善と言うには、あまりに低い金額と思われます」と小泉副会長。

 さらに今回の「基本的な視点」を読むと、特にケアマネジャーの実務負担と課せられる責任は増加しているように感じられる。

「かなり比重が多くなっています。前回の報酬改定で居宅介護支援事業所の収入面は改善され、全体的な収支は何とかプラスに転じましたが、ほとんどの居宅介護支援事業所は赤字。その上、ケアマネジャーには処遇改善加算が適用になりません。全国老施協はこれからも処遇改善加算の一本化とともに、対象職種の拡大を強く要望していきます」(小泉副会長)

第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数
注1)2019年度(令和元年度)の介護職員数約211万人は、「令和元年介護サービス施設・事業所調査」による
注2)介護職員の必要数(約233万人・243万人・280万人)については、足下の介護職員数を約211万人として、市町村により第8期介護保険事業計画に位置付けられたサービス見込み量(総合事業を含む)等に基づく都道府県による推計値を集計したもの
注3)介護職員数には、総合事業のうち従前の介護予防訪問介護等に相当するサービスに従事する介護職員数を含む
注4)2018年度(平成30年度)分から、介護職員数を調査している「介護サービス施設・事業所調査」の集計方法に変更があった。このため、同調査の変更前の結果に基づき必要数を算出している第7期計画と、変更後の結果に基づき必要数を算出している第8期計画との比較はできない

総括 介護の未来へ向けた理想と現実
プラス改定に向けて議論を継続

人材・財源確保、大規模化…
報酬改定から見えてくる問題

 介護保険制度創設から22年たち、制度の仕組みはどんどん複雑化しつつある。「基本的な視点」の「④制度の安定性・持続可能性の確保」にも〈報酬体系の整理・簡素化〉がうたわれているが、全体像をたどることは簡単ではない。

「制度改正においては毎回出てくる文言で、分科会で必ず出される意見ですが、残念ながら何らかの対応が行われたことはないように思います。理想と現実の問題ということでしょうね」と小泉副会長。

 2025年問題を前に、減少傾向にある介護保険料の財源、介護の人材をどう確保するのかが問題に。一方でサービスの質を向上し、従事者に十分な処遇を与えていくには…。こうした相対する問題を鑑みながら、分科会などではさまざまな論点が話し合われてきた。

 その中で概算要求提出を前に先送りとなった論点もある。例えば「ケアプランの有料化」は、現役世代の負担軽減とサービスの質の向上になると議題に挙がっていたが、利用を控える方向に向かうのではないかと反対意見も出た。

「利用者の方やマネジメントに与える影響、他のサービスとの均衡などを踏まえながら、包括的に検討を行い、次期報酬改定で結論を出すということで終結しました」

 さらに要介護1・2の高齢者への訪問・通所介護を市町村の総合事業に移行させるという構想だ。

「これは全国老施協など多くの団体が猛反対したこともあり、見合わせとなりました。要介護1・2の方を保険から外して費用削減を目指すことから出てきた意見と受け止めていますが、さほどの節約効果もありませんし、そもそも実施事業者がいるか不明です。加えて報酬の上限設定や利用者の制限も生まれ、サービスの質・量の低下も懸念されるなど、さまざまな問題が生まれてしまいます」

 これらの意見を聞いた上で、厚労省が介護報酬改定への「基本的な視点」を打ち出したわけだが、今回の方針は事業者にどのような影響を与えるのだろうか。

「介護事業者は今、物価高騰・賃上げ機運・他産業への人材流出・新型コロナウイルスといった影響により大きく打撃を受けています。全国老施協の『収支状況等調査』では、2020(令和2)年度以降、特養の赤字施設の割合が4割を超えている結果に。さらに2022(令和4)年度では補助金を除いた場合で6割を超え、補助金を含む場合でも5割を超えるに至っています。付け加えれば、収支差率は特養がマイナス2.8%、デイサービスがマイナス5.0%。この状況で、今回の介護報酬改定がそれなりのプラス改定にならなければ、介護事業所は経営が成り立たなくなり、サービスの担い手がいなくなってしまう。保険あってサービスなしという状況になりかねないと危機感を抱いています」

 介護事業者にとって厳しい状況が続いている。そんな中、昨年4月に事業者間の連携・協働に向けた社会福祉連携推進法人制度が創設され、新複合型サービスの創設への動きも含め、介護事業者の大規模化の推進が図られている。

「社会福祉連携推進法人制度で機能的に連携し、法人運営に効果があるのならよいと思いますが、かなりの大規模化を行わなければスケールメリットは生じてこないと推測します。例えば経営の立ちいかなくなった法人が、大規模法人に吸収されるようなケースであればよいかと思われますが、法人運営を二重に行わなければならない手間もあり、慎重な対応と議論を重ねていく必要があります」

 諸問題を踏まえ、改定の行方はどうなるのか。本誌では今後もその状況について追い掛けていく。

介護報酬改定のスケジュール

マイナ保険証の利用を推進する啓発用のポスターを持つ武見敬三厚生労働大臣。介護保険証もマイナカード一体化を検討

構成=玉置晴子/取材・文=一角二朗/写真=PIXTA、毎日新聞社/アフロ