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特集(制度関連)

介護現場のためにできること[施設編]

職員が喜ぶ「福利厚生」導入メソッド

2022.11 老施協 MONTHLY

働く職員たちが仕事以外の⾯で、満⾜感を得られるものとは? 経営者たちが知るべき2022年の福利厚⽣の主流をお伝えします。


可児俊信氏
福利厚生のスペシャリスト

株式会社 労務研究所

可児俊信 氏

Profile●かに・としのぶ=福利厚生専門誌「旬刊福利厚生」を発行する株式会社 労務研究所の代表取締役。千葉商科大学会計大学院ファイナンス研究科で教授も務める。1996年より福利厚生・企業年金の啓発、普及・調査および企業・官公庁の福利厚生のコンサルティングに関わる。年間延べ700団体を訪問し、現状把握と事例収集に努め、福利厚生と企業年金の見直し提案を行う。著書、寄稿、講演など多数


福利厚生への意識改革が人手不足解消のカギに!

 少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や働き方改革推進の影響により、事業者にとって優秀な人材の確保と定着に向けた対策は、今後ますます重要な経営課題となってくる。とはいえ、直近の「介護労働実態調査」(’21年度・介護労働安定センター調べ)によると、介護職の離職率(施設介護職員と訪問介護員の合計)は14.3%(前年14.9%)と微減したが、勤続3年未満の離職者が全体の約6割に。介護事業所全体の“人材不足感”は63%(前年60.8%)となった。介護事業を運営する上での問題点として「良質な人材の確保が難しい」と回答した事業者が全体の約5割に上ったことも、人材確保問題の深刻さを示している。

 解決策として真っ先に浮かぶのは賃金アップだろうが、「実は福利厚生を充実させる方が現実的で効果もある」と語るのは、企業や官公庁の福利厚生コンサルティングに長年携わってきた可児俊信氏。実際、就活者の多くが年収の高さよりも自己成長の機会の有無や福利厚生の充実度を重視しているという調査結果も。可児氏は続けて、こう指摘する。

「近年、多くの民間企業では、こうした現状から優秀な人材確保と定着のために、社会の変化に適合した福利厚生制度の運用を始めています。社会福祉法人においても、いわゆる“2025年問題”目前に離職者数を抑え、求人しやすくするためにも福利厚生制度への意識を変える必要があるでしょう」

 下の図は、福利厚生におけるトレンドの変遷を示したものである。

福利厚生の目的と分野の時代による変化
出典:可児俊信「新しい!日本の福利厚生ー基礎知識から企画・運用までー」(株)労務研究所

「いつの時代も“人材確保と定着”という福利厚生の目的は変わりませんが、’00年前後を境にトレンドは一変。社宅や保養所の提供で従業員満足度の向上を図った従来型から、育児支援や女性活躍推進、健康増進対策など国の施策に対応しつつ、多様な人材の労働環境改善を目指す支援内容へとシフトしてきた」という。そして今後、主流になるのは“人生100年時代”に向けた福利厚生だ。

「ライフプラン支援は、老後の資産形成や生涯現役で収入を得られるキャリア形成への支援が特徴。人材を資本として捉え、その価値向上に取り組む人的資本経営の観点から、従業員の能力向上から生き方まで支援する次世代型になってきています」

福利厚生の外部委託化でコスト削減と多様化に対応

 上記で触れたように、労働者の多くは給与以外にも事業者からのさまざまなサポートを必要としている。「従業員にとって、賃金は労働の対価として当然“もらう”もの。一方、福利厚生はスケールメリット効果でサービス利用料が割安になったり、働きやすい環境がつくられたりすることから“ありがたみ”を抱きやすい。こうした傾向を踏まえ、今後さらに多様な人材を公平に満足させられるよう、事業者は給与だけでなく福利厚生を充実させた報酬形態で、従業員のニーズに幅広く応えていくことが不可欠になる」と可児氏。

 また、医療・介護業界では共済会を介して職員の福利厚生を実施していることが多い。事業者と職員が資金を出し合って福利厚生事業を運営する仕組みで、主に慶弔給付や住宅取得時などに貸し付けを受けられる。が、近年は少子化やシングル世帯の増加により結婚や出産の祝い金が給付されないケースも。可児氏は「共済会の相互扶助事業は、従来型のライフコースを前提につくられた仕組み。最近は未婚者の増加等のライフコースの多様化で職員間に不公平感が生じていることもあり、自助支援型の事業が登場してきている」という。自助支援とは具体的に育児・介護のほか、不妊治療や自己啓発にかかる費用の現金補助。または宿泊や冠婚葬祭施設などを提携割引利用できるといった内容だ。

 これらが福利厚生のトレンドだが、自前で用意することは現実的ではない。今は福利厚生パッケージを提供する専門業者にアウトソーシングするのが一般的だ。

福利厚生の外部委託会社が推進するパッケージの具体例
出典:可児俊信「福利厚生アウトソーシングの理論と活用」(株)労務研究所
主な福利厚生 アウトソーシング4社の特徴

(株)ベネフィット・ワン

業界最大の総合型福利厚生サービスを運営。健康や生活支援から研修まで140万件の提携サービスをそろえる。

(株)イーウェル

東急不動産グループの福利厚生アウトソーサー。企業戦略に対応する「カフェテリアプラン」が好評。

リソルライフサポート(株)

親会社リソルホールディングス所有のリゾート施設利用が可能。「キャリア継続支援型」福利厚生が強み。

(株)リロクラブ

福利厚生アウトソーシング事業のパイオニア。地域格差解消に取り組み、中小企業にも充実のサービスを提供。

「パッケージサービスには上記のものが全て含まれており、従業員の多様なニーズに対応しながら低コストかつ短期間で導入でき、福利厚生担当者の業務も簡略化できます。従業員1人当たり月額数百〜1000円前後の定額制で、ホテル宿泊やレジャー、育児・介護支援、財産形成や自己啓発講座といった提携サービスから自分の好みと必要性に応じて選び利用することができる。民間の介護事業者でも導入する会社が増えており、社会福祉法人においても労使共にメリットは大きいと思います」

 人手不足解消に向けて、どのような福利厚生サービスを導入すべきか。職員らの声に耳を傾けることから始めてはいかがだろうか。


構成=及川静/取材・文=菅野美和