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そのだ修光×平石朗 働きやすい環境づくりへの提言! 介護業界の未来へ向けて
2022.04 老施協 MONTHLY
第1弾[過去編]「チーム一丸で勝ち取った、2期連続介護報酬プラス改定」
平成30年度、国の介護保険事業計画第7期において、前回のマイナス改定から一転、プラス0.54%の介護報酬改定の実現に多大な貢献をされたのが、当協議会常任理事でもある参議院議員のそのだ修光氏だ。緊縮財政が続く中、令和3年度の第8期も2期連続となる0.7%のプラス改定を実現。まだまだ山積する課題に真摯に取り組むそのだ議員のビジョンを、3回にわたって平石朗全国老施協会長が伺う緊急対談。
第1弾となる今回は、そのだ議員と平石会長に、2期連続介護報酬プラス改定を実現するまでの道のりを振り返ってもらった。
平石 朗
Profile●ひらいし・あきら=’55年、和歌山県生まれ。岡山大学法学部哲学科卒。特養老人ホーム星の里施設長、社会福祉法人尾道さつき会理事長、’11年に広島県老人福祉施設連盟会長に就任(3期6年)し、現在は顧問・代議員として活動。同職を経て、’15年全国老人福祉施設協議会の大会・フォーラム副委員長に就任。’19年6月より全国老人福祉施設協議会会長
そのだ修光
Profile●そのだ・しゅうこう=’57年、鹿児島県鹿児島市生まれ。鹿児島県議を経て’96年鹿児島2区から自民党公認で衆議院選挙に当選。自民党社会部会で介護保険制度の立法化に尽力。’06年特養老人ホーム旭ヶ丘園施設長に就任。’16年参議院比例区から自民党公認で当選。自民党厚生労働部会副部会長、国会では厚生労働委員会に所属。老施協常任理事
財務省とも直接交渉して得た2期連続となるプラス改定
新予算に基づく令和4年度がスタート。昨年は3年に一度の介護報酬の見直し年度にあたり、政府財政も厳しい中、平成30年度に続き2期連続で介護報酬はプラス改定となった。予算成立直後に、この成果に尽力した全国老人福祉施設協議会常任理事で参議院議員を務めている、そのだ修光氏の元を平石朗・同会長が訪ね、報酬改定に向け動いた長い時間を振り返りつつ、気持ちも新たに介護業界のこれからについて話し合った。
平石「お忙しいところすみません。無事予算成立、ご苦労さまでした。私も会長就任以来、今回の改定に向けてそのだ議員と行動を共にし、いろいろと勉強になりました」
そのだ「こちらこそありがとうございます。前回の第7期(平成30年度)もプラス改定でしたので、当初財務省の意見はなかなか厳しかったですね。ただ、2年以上続くコロナ禍における現場の皆さんのご苦労を考えれば、今回のプラス改定も当たり前のことと思っています。今回は主管の厚生労働省だけでなく、財務省とも話ができたのは大きかったです」
平石「そこは私も、報酬改定が新しい局面に来たなと、率直に感じました。確かそれより前に、官邸でお話しできたことは、現場にとって本当に助かりました」
そのだ「菅(義偉)前総理とは介護保険制度ができる前から自民党社会部会で共に汗を流しました。ですから理解も深く、省庁を超えて介護業界の現状に対する認識を共有することにもつながりました。それに財務省担当の皆さんにも、介護現場の問題を理解いただいたという手応えもありましたからね。そこはありがたいことでした」
平石「私としては、厚労省とわれわれで予算を検討して、その案を厚労省が財務省に提案していくことの大切さを感じました」
現場をよく理解しているそのだ議員ならではの強み
平石「そのだ議員はご自身で特別養護老人ホームも経営されているので、現場のことを本当によく分かってらっしゃる。なので、話にとても説得力があることが大きかった。ここまで専門性の高い議員さんは、ちょっと他にはいらっしゃらないように思いますね」
そのだ「これは少し話が脱線しますが、そもそも衆議院の小選挙区制の場合、大抵1選挙区1人しか当選できない。そのため、ある特定の分野に特化した議員を生み出しづらい状況にあるんです。その点、私は参議院比例区での選出なので、職域として介護事業に特化した活動ができるということもプラスに働いていると思います。加えて、平石会長体制になってから始まった、老施協の制度政策検討会議。これをね、副会長、専門家の方を中心とした参与の皆さん、それに私も交えて開催していただけたことで、現場の課題や提言がよりまとまりやすくなったのも大きな前進です。デジタル化が進んだ今の時代、決まったことの報告を受けるだけなら業界団体は要らないんです。今では、政策提言ができる団体としての老施協という意識が厚労省の老健局の人たちにも根付いていて、厚労省サイドから政策提言を作る前に相談が来るようにさえなりました。絵に描いた餅にならない、現状に即した効果的な政策を迅速に決めてくことができるいい回り方の事例だと思っていますね」
平石「もう一つ、政治活動が業界団体にとって重要だと感じた一件が、コロナ慰労金の問題です」
そのだ「そうでしたね。コロナ感染拡大以降、医療従事者というキーワードが先行していて、全く同じ苦労をしているエッセンシャルワーカーの介護従事者のことは忘れられがちでした。だから、医療従事者へのコロナ慰労金が先に決まったときには、すぐに介護3団体の皆さんと一緒に総理官邸へ出向き、医療従事者と同額の慰労金を実現させましたね」
平石「あの後から、会見のたびに『医療・介護従事者の皆さん』って菅前総理に言っていただけるようになったことが印象的でしたね。日本で欧米と比べてコロナ感染死者数が少ない一因に、介護現場の頑張りと介護事業者へもいち早くワクチン接種が行き渡ったことがあると思います。そこを理解していただけたことがうれしかった」
そのだ「菅前総理のときには、ワクチンを全国で1日170万回も接種した日もありましたからね。その点、第6波のオミクロン株のときには、感染拡大があまりにも早く、3回目接種が行き届く間もなく介護現場に広まってクラスターも起きてしまった。このことはやがて来るであろう、第7波に向けた教訓としなければいけません」
解決しなければならない課題はまだまだ山積み
平石「岸田(文雄)総理になっても“医療・介護はセット”という考え方は続いてらっしゃるようですね」
そのだ「岸田総理ともいろいろお話しさせていただきましたし、ちょうど参議院予算委員会の(自民党で)最後の質問が私だったこともあって、総理も十分認識されたと思います。恐らく、コロナの収束を考えていくにあたり、しっかりと守るべきなのはまず高齢者施設、次に子供たちの集まる所。介護の現場には小さな子供を持つご家族も多くいるので、お子さんが感染すると濃厚接触者になってしまう。濃厚接触者になると出勤できなくなり、ただでさえ人手が足りていない介護現場が回らなくなってしまいます。元から基礎疾患のある高齢者へのケアが回らなくなるため、こういう事態は絶対に避けねばなりません」
平石「短期的に見ても、長期的に見ても、まだまだ介護業界には課題が山積していますよね」
そのだ「人手不足というところでは、会長もよく把握されている’25年問題ですね。団塊世代のほとんど(約800万人)が後期高齢者になる’25年に介護従事者が約32万人不足し、’40年には約69万人不足するという試算を厚労省が出しています。直近の策としては岸田総理も打ち出しておられる、外国人労働者の渡航人数制限の緩和をより進めてもらうことが考えられますが、それと同時に人材不足を補う抜本的な対策も検討を始めなければいけないと考えています」
平石「先ほどそのだ議員から介護3団体というお話がありましたが、介護業界は全老健(全国老人保健施設協会)、(日本認知症)グループホーム協会、(日本)介護福祉士会、さらに(日本)福祉用具供給協会など、関連する団体が非常に多く、まとまって現場の課題やそれを解決するための政策を提言するということがなかなかできなかった。それが今は、そのだ議員のところに意見を集約してまとめられるようになった。これからの課題においても、引き続きご尽力いただければと思っております」
国民に介護事業内容を理解してもらうことが必要
そのだ「介護保険制度は、医療と違って保険料が50%、税金が50%で成り立っています。保険料は自分のための積み立てという意識を持ちやすいですが、税金となると幅広く徴収されるものですから、広く国民に介護事業内容を理解していただかなければいけません。この点は、これからもしっかりと力点を置かないといけない。そもそも介護は、国民全員にとって自らの問題でもあるわけですから」
平石「そこですよね。私も肝に銘じているのは、われわれは誰のための団体かという点。もちろん、第一に会員のための団体なんですけれど、もっと言うとその先にいる国民のための団体なんです。しかし国民からすれば、介護サービスは受けたいけど保険料は上げてほしくないという思いが当然あって、そこをどうやって突破していくかというのが常に悩ましい問題です。さらに制度ビジネスですから、サービス内容や値段、人員配置基準など細かく決められています。そうなると、政治の場で公的価格をより良い方向に進めていきながら国会の場で介護現場の実情をきちんと説明し、国民の理解を得ていくという作業を地道に進めていくしかない。それにはまだまだそのだ議員のお力をお借りしなければなりません。今後ともよろしくお願いいたします」
そのだ「はい。これからも老施協をはじめとする、介護業界の各団体と一緒に課題に取り組んでいきたいと思っております」
平石「本日は、お忙しい中、お話しさせていただきありがとうございました。次回の対談もよろしくお願いいたします」
撮影=桃井一至/取材・文=重信裕之