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組織に定着する介護人材育成のあり方② 外国人職員と共に働くための「言葉」のケア
2023.05 老施協 MONTHLY
外国人に指示が伝わらないのは、日本人の日本語が原因
介護経験を具体的に言語化し、伝える技術の習得を
外国人労働者にとって 一番の壁となるのは「日本語」
介護人材市場は長年売り手市場 だが、コロナ禍が明けようとしている今年度は、他業種他産業の市場も売り手市場となると予想される中、どうやって人材を確保していくのか、そして育成していくのか、をテーマに、3回のシリーズにてお送りする。
2回目の今回は、外国人介護職員の働きやすい環境づくりについて考えていきたいと思う。
まず、外国人労働者にとって、一番の壁が日本語であり、次いで日本人の習慣や性質なども挙げられるだろう。ましてや、介護士として学ぶ場合は、日本語の試験にも合格しなければならず、彼らは来日して相当な努力をしている。
かといって、いつまでもお客さま扱いはできないのが介護現場。スピードと感性、対応力、判断力が必要不可欠な仕事だからこそ、現場では相当な語彙力と理解力がないと、適応するのが難しくなる。
外国人は、言われたことを理解し、記録を読んで理解する能力はあるが、理解したことを日本語で伝えることに難しさを感じているようだ。私たち日本人も、英語を聞いて何を言っているか訳すことはできても、自分の思いを英語でスピーチするのは、なかなか難しいところがある。
その実、介護現場には特有な言葉があり、そんな言葉は日本語学習では補い切れないところがある。やはり、チームプレーが重要な介護職は、そのチーム内で使っている、そこでしか通用しない業界用語のような言葉を、教えておくことが必要だ。日本人側が環境を整えていくべきである。
今回も、人材育成やケースメソッドに詳しい、名古屋市立大学大学院人間文化研究科教授の吉田輝美さんにお話を伺った。
外国人介護職員の増加 将来に向けて育成の必要性
外国人が介護現場で働いている光景は、珍しくなくなりました。政策としての介護に関連する在留資格は、「EPA」、在留資格「介護」、「技能実習」、「特定技能」があります。介護現場ではその他に、日本人の配偶者等である「身分に基づく在留資格」、留学生のアルバイト等の「資格外活動」によって働いている外国人もいます。
厚生労働省が’21年7月9日に公表した介護職員の必要数では、’25年度には約243万人、’40年度には約280万人とされています(図1)。将来的にはこれほど多くの職員が必要になってくるのです。施設の中には、介護人材確保は将来にわたる課題と捉え、まだ人的余力のある今のうちに人材育成のノウハウを積み上げようと、外国人の受け入れに積極的なところもあります。今後は、在留資格の「技能実習」と「特定技能」による外国人介護職員の増加が見込まれます。
【図1】厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
ミスコミュニケーションを防止する具体的な言葉
私は、’17年ごろから外国人介護職員の人材育成に関する研究をしています。外国人介護職員のコミュニケーションについて、就労場面での観察調査を行っています。その中から、日本人には当たり前でも、外国人介護職員には難しいことをいくつか例示します。
入職2週間の技能実習生のAさんは、ユニットの昼食作り担当となりました。Aさんが「みそ汁は、どうやって作ったらいいのでしょうか?」と質問すると、日本人職員は「みそを溶けばいいのですよ」と教えてくれましたが、結果、味のないみそ汁が完成しました。これまでの人生でみそ汁を食す文化にいなかったAさんには、「何グラム程度」と具体的な数字で示すことや、「お玉にこれくらい」と実際にやって見せる指導が必要でした。
身分に基づく在留資格のBさんは、出勤してすぐ「申し送りノート」を確認しました。「本日退所、FAは10時にきます」と読み上げていますが、「FAって…」と困っていました。事業所には、そこだけに通じる言葉があります。まずは、チームの略語を教えなければ、業務遂行につながりません。
ある利用者さんが「家に帰る」と落ち着かなくなっていたときでした。日本人介護職員は技能実習生のCさんに、「臨機応変にやっておいて」と伝え緊急対応に向かいました。私は、ユニットに残ったCさんに確認したところ、臨機応変の意味も、何をどうすることかも理解できていませんでした。
外国人介護職員に求めることとして日本語能力が挙げられますが、日本人側が配慮すれば、ミスコミュニケーションを回避できる場面は多々あります。介護現場には、経験と勘による実践の積み重ねが必要とされる一面もありますが、曖昧な言葉を点検し外国人でも分かりやすいマニュアルを作成することは、介護未経験者の日本人にとっても理解しやすい指導につながっていきます。
【図2】介護に関わる場面別の日本語の理解度
今月の回答者
名古屋市立大学
大学院人間文化研究科教授
吉田 輝美さん
Profile●よしだ・てるみ=老人ホームで介護職・生活相談員として勤務後、実務家教員として大学で介護福祉士・社会福祉士養成に従事する。感情労働としての介護労働を基盤とした福祉分野の人材育成研修やケースメソッドによる高齢者虐待防止研修などを展開している
取材・文=一銀海生
現役職員による座談会【介護現場のリアル】
外国人とのコミュニケーションも必要
特養に勤める外国人職員Aさんと有料ホームに勤める日本人のBさん。どちらの施設でも外国人職員が働いているが、行き違いもあるようだ。
A「私はフィリピン人で、日本で介護職をしています。もう5年やってますが、まだ日本人の習慣に慣れません。利用者さんが昔話をされても、どう答えていいのか分からず先輩に聞くと、『相づちを打てばいい』 と言われ意味が分からなくて、後でウンウンと言うことだと知りました」
B「外国人の職員は、教科書にある言葉等は理解されるけど、ADL(日常生活動作)が低下していることを、『ADLが落ちてる』と言うと、『どこに落ちてる?』と聞かれたことも。笑い話だけど、ちょっとした略語をノートに書き込むときも、分かりやすく伝える努力は必要になるよね」