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【INTERVIEW】株式会社フソウ 管理本部 人事部 人材開発課長 六車 明
2023.02 老施協 MONTHLY
今回は、水のインフラを総合的に手掛ける株式会社フソウで人事・人材開発の責任者である六車明氏。同社は浄水場や下水処理場をはじめ、あらゆる水関連施設の設計・施工・運転管理、水道資機材の販売・製造や、技術開発までも一手に担っている会社だ。介護・医療業界にとっても安全な水が安定して供給され、適切な下水処理が行われていることは大切で、それを支えているのがこの会社なのだ。昨今は単なる縁の下の力持ちだけではない活躍が地域社会で高く評価されているという。その辺も含めてお話を伺うことにした。
今は過去の成功体験だけに頼らず
主体的に行動できる人材でチームを作る時代です
水インフラを担う企業に多様な職種の人材が集まる
地球は水の惑星だが、淡水は全体の2.5%。さらに人間が使える水(川や池)は何と0.01%しかない。これを飲み水や工業・農業用水として使い、最後は浄化して海に戻す。それがやがて雨となって再び淡水を作る。水はいわば循環型資源であり、水インフラを担う事業は古くからSDGsを実現していたともいえるだろう。株式会社フソウは’46年、香川で創業。製塩業が盛んだったこの地域の塩田に海水を送る水道管販売を手掛け、現在では浄水場、下水処理場や水関連施設の設計、施工、資機材調達と販売、そのための技術開発など、水インフラを一貫して担う数少ない会社の一つだ。
六車「弊社は業務内容の多さから、職種がとても多岐にわたっています。エンジニア一つとっても、電気や機械、土木に研究開発などがあります。さらに工事を受注する営業や部品を販売する営業まで、いろんな分野の人が一緒にチームとなって仕事をしているんです」
そこまで多岐にわたると、部門間での意思疎通は難しいのでは?
六車「オフィスを見てもらえたら分かるんですけど、壁(パーティション)がないんです。会議室もあんまりなくて、フリースペースに自然といろんな職種の人が集まって、一つのプロジェクトの打ち合わせが始まる。そんな雰囲気が昔からありますね。水インフラの整備といっても地域によって条件がかなり違うので、いつもこの地域はどうしたらもっと住みやすくなるんだろうという共通の思いを持って、みんなが仕事をしている風土があると思います。あらゆる職種の人間が社内にいるので、そうした議論も他社さんを訪ねなくてもすぐできるという良さもあります。技術開発部門の人間が参加して、デジタルを中心とした新技術の応用に関していろいろアイデアが生まれることも多いですね」
グループの経営理念に“持続可能な地域社会の追求”という言葉があるが、特に現在は水道施設が持続可能社会に重要なインフラとなる岐路に立っているという。
六車「日本の水道施設は浄水場=飲み水が98%くらい、下水は人口ベースで80%普及しています。多くが高度経済成長期に造られたもので、施設全体も中の機械類も、更新していかなければいけない時期にきています。でも今は人口が減っていますよね。人口が減れば予算も減る。そうすると全く同じものに建て替えするのではなくて、近隣市町村が集まって大きな一つの施設を造るなど、地域に合わせた提案をしなければいけなくなってきています。以前は設計思想といって、壊れたら造り直すという考え方でしたが、これからは長く使えるように造る、メンテナンスしやすく造る、機械の取り替えをしやすい構造に造るといったことが重要になってきます」
持続可能社会の形成を水から考えて幅広く実現する
六車「そこに大きく貢献するのがDXです。この10年くらい、国交省は3Dでの施設や建物の設計施工を推進しています。でも昔の施設の図面は二次元ですし、そもそも図面自体残っていないとか、あってもその後の改修工事が反映されていないというケースがほとんど。そこで弊社が開発したのが、3Dスキャナーで空間を点群データにする手法です。これで古い機械を除いた状態の図面も3Dで確認できますし、搬出入の動線だとか、作業する上での障害物なども事前に把握できます。コンピューターを通じてあらゆる部署の専門家が同時に作業空間を検討でき、遠方から指示もできる。さまざまな情報が見える化され、技術者のノウハウまでバーチャルに現場に持ち込むことができます。元は文化財修復のために使われていたこの3Dスキャナーは内部空間しかスキャンできませんが、施設外ではドローンを飛ばしてあらゆる角度から数千枚の写真を撮影して3D化する、フォトグラメトリーという手法で対応しています。持続可能社会というテーマでいうと、カーボンニュートラルに対する取り組みも行っていて、下水処理して出てきた汚泥(=ヘドロのようなもの)を処理し、発生させたメタンガスを使って発電するプラントも造りました。これを売電してビジネスにすれば、予算が少ない自治体にも利益が出るというわけです」
いや、すごい。水は確かに地域にとって最も重要なインフラといえるが、どうやって水だけで持続可能な地域社会の実現=コミュニティーデザインになるんだろうと思っていたが、とてもふに落ちるお話だ。そしてこの思想を具現化した施設を、同社の創業地である香川県高松市に、フソウテクノセンターとして建設したという。
六車「ここは社屋としてわれわれ人事部などが常駐し、研修施設や研究開発部門があるんですが、地域の人にも開放しています。同地は周囲より少し高く、津波や高潮の際の一時避難所に指定されています。’04年の台風と高潮で高松市は大きな被害を受けました。なので、150人分の3日間の食料と飲料水を備蓄し、弊社の商品である耐震性貯水槽というのを地下に埋めています。これは水道管の途中部分が大きくなっていると思ってもらえればいいんですが、常に水が循環していて断水時には貯水槽になります。さらに太陽光と自家発電施設も被害を受けにくい建物の高い部分に造りました。それだけではなく、体育館や食堂も地域の人に開放していて、特に500円の定食を提供する食堂は好評です。この辺、うどん屋さんばかりで(笑)。もちろん、私も大好きですけど、毎日はね…。食べる人もいますが(笑)。地域の声を聞くだけではなくて、地域に育てられてきたので、地域のために何かできないか。“三方よし”(会社、顧客、社会)の精神がちゃんと息づいているんですかね。自分はこの会社にしかいないので、他社さんとの比較は分からないのですが」
統率型組織ではなく協働組織 「連携」ではなく「融合」
香川からスタートしたことが、香川をはじめ、支社全体で地域社会への貢献を常に考える土壌になっているとのことで、まさにこれからの企業体に求められる姿勢を体現している会社だ。しかし、今後はDXやカーボンニュートラルなど、さらに多岐にわたる業務が増えていく。人事の六車さんとしては、どのような人材、組織を育てていきたいのか最後に伺ってみた。
六車「実は私が入社した当時、研修らしい研修はほとんどなかったんです。俺の背中を見て付いて来いというような職人の世界でした。今はそういう時代ではないので、きちんと入社から、いろんな職種の研修をやってもらい、8月に仮配属、そして本配属は1年後です。さらに年に一回、社員満足度調査とキャリア調査もやっています。理系出身のエンジニアだけど営業をやってみたいという人もいますよ。逆に文系出身のエンジニアもいます。これも横のつながりが自然とできているからですね。いつも採用で考えるのは主体的に行動できる人ということです。先ほどもお話ししましたが、今は造るだけの時代ではなく、賢く使う時代。だから上司の成功体験だけを頼りに仕事をしていても環境が変わり過ぎていて、いろいろ不都合が出てくることが多いです。目指しているのは上司による統率型チームではなく、チームワークで動く、協働する組織と言ったらいいんでしょうか。あんまり『部下』っていうのも私、好きじゃなくて。チームとして、一つの課題に関してフラットに意見を出し合って解決していく。自分の目の前の仕事だけを見るんじゃなくて、世の中全体に目を向けながら仕事をする。そうした文化ができればキャリア自律にもつながりますし、どこへ行っても通用する人材が育っていくのではないかと思っています。他部署とも『連携』ではなく『融合』と社内では言っているんですが、時に協力会社やJV(ジョイントベンチャー)の会社さんとも融合して、一つの課題に向き合っていく。そういう風土作りに取り組んでいきたいです。いろんな職種がある=挑戦する場があるということ。人間形成ということも含めて、いいもの、いい人材、いいチームをこれからも作っていきたいなと思っていますね」
株式会社フソウ
管理本部 人事部 人材開発課長
六車 明
Profile●むぐるま・あきら=フソウの創業地である香川県に生まれ、愛媛の大学を卒業後2001年入社。上下水道用資機材を販売する商社部門での営業マンを経て、経理、総務畑を長く務める。名古屋支店、大阪支社、四国本店勤務の後、昨年4月に発足した人事部人材開発課に配属され、人材育成や新しい組織作りを担当している
撮影=磯﨑威志/取材・文=重信裕之