福祉施設SX
多角的に取り組む排泄ケア PART4 十人十色を超える 「百人百色介護」を 排泄ケアでも実現したい

ご利用者様おひとりお一人に、ご本人の希望や願いを伺い、尊厳を守り、「百人百色介護」を基本にサービス提供を行っているていれぎ荘。排泄のメカニズムやケアについて知識を得たことで、いかに考え方が変わり、それがご利用者様や介護現場にどのようなよい影響を与えたかをうかがいました。

排泄ケアは排泄物を 片付けるだけの ルーティン作業ではなかったと知る
私が味酒野ていれぎ荘の施設長として7年前に着任した当時は排泄加算が取れてない状況でした。それ以前のことですが愛媛大学教授の紹介で西村かおる先生の研修に参加することになりました。これが私の排泄ケアに対する考えが大きく変わるできごとでした。その当時を振り返り、ひも解いて見ると、それまではとにかく出してもらうことばかりに注力し、出たらそれで満足し、あとはおむつを替えて、排泄物を片付けて終わりというルーティン作業を、看護師時代からずっと続けてきていました。
ところが先生に3日間施設に入っていただいて、研修を受けているうちに、私は排泄のメカニズムそのものを理解せず、なんと知識が足りなかったのかということに気づいたのです。
せっかくの排泄記録を読み込んで よりよいケアに 活かせていなかった
思えば当時の介護職もきちんと記録をつけてくれていたのに、それをしっかり読み込んで、よりよい排泄ケアのために活かすことも十分にはできていませんでした。また看護師である私から介護職に医療的な知識を伝えることもできていませんでした。
そこでその研修を受けてから、排泄について少しずつ勉強を重ね、介護職が排泄記録に書いてくれるご利用者様の状態やお困りごとについても、パーフェクトとは言えませんが、アドバイスもできるようになってきました。やっと自分がみんなに追いついたという実感です。

要介護度の高い方でも 「できない」と 決めつけてはいけない
排泄ケアの研修で学んだことも多かったですが、ご利用者様から学んだことも多々ありました。リクライニングの車いすに乗るのがやっとというご利用者様がいて、あたり前のようにおむつで排泄ケアをしていたのですが、その方が「シッコは便所で!」と叫ばれたのです。その時に介護職が「この方、どうにかならんですかねえ」と言ったのを聞いて、理学療法士に相談しました。
下肢の拘縮があっても、なんとか座位が保てるように体重の掛け方などを工夫して、ついにトイレに座れるようにまでなったのです。
特養に入所される方は、要介護度の高い方です。でも初めから「無理」とか「できない」とか決めつけてしまうのではなく、施設のさまざまな職種がチーム連携することで、よりよい排泄につながるのだと思いました。
リハビリ、水分、栄養、嚥下機能 すべてがよりよい 排泄につながる
全身機能の中で、特に排泄に関係するのが腹筋や骨盤底筋です。トイレへ歩いていったり、車椅子から移乗するための筋力も必要になり、これは機能訓練士の出番になります。専門家によるリハビリができなくても、生活リハビリとして、寝るよりも座る、座るよりも立つ、立つよりも歩くようにと心がけるだけでもリハビリになります。
もう一つ、からだからきちんと出すために必要なのが、からだにちゃんと入れることです。嚥下機能が落ちると、水分も食事量も摂れなくなり、全身機能が落ちてきて、尿量が減ったり、排便ができなくなります。介護職が口腔ケアをきちんと行い、口輪筋やベロの動きを維持するために、食前体操を行ったり、専門家に口腔状態を見てもらったり、ミールラウンドを行い、評価や指示をしてもらったりして、最期まで口から食べたり飲んだりできるようにすることは非常に重要だと思います。口から食べて咀嚼をすれば、脳に刺激が行き、唾液が出て、消化器からは消化液が出て、排便も促されるようになります。私たちが職種連携をすることで、ご利用者様の全身機能も連携して改善されていきます。よい排泄のためには、よい循環スパイラルが必要なのだと感じています。
ご利用者様の尊厳を傷つける 幼児言葉や高圧的な言葉などは 使わないことも大切
味酒野ていれぎ荘では、現在、数か月に1度「排泄委員会」を開催。また看護師が排泄の勉強会に参加するなど、排泄に対する意識も変わってきました。
さらに残尿量の測定も組み込むことで、パッドの種類や交換の頻度を変更したり、溢流性尿失禁を疑うなどの知識も施設全体で増えてきました。おむつ使用によるスキントラブルも減ってきたように思います。
排泄の促しに応じてくださる方は、できるだけトイレにお連れし、言葉で尿意を伝えることができない方でも、排尿したくなったら、部屋の隅に行くなど行動から読み取るようにしています。
おむつについては、やみくもに全員がおむつをする必要はないけれど、おむつをすることで安心してもらえたり、恥ずかしい思いをしないなら、活用すべきだと思います。ご利用者様の尊厳を傷つけないように、何事もなかったように、ささっとケアできるのが一番よいのではないでしょうか。だから介護する側の言葉遣いも大切で、これは職員にも気をつけて対応してもらっています。こうしたひとつ一つが排泄ケアの大事な要素なのだと思います。
取材・文=池田佳寿子