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介護のかくしん

介護現場をとりまくハラスメント対策 その2 ご利用者やご家族からのカスハラ対策

介護の現場に必要な「革新」や「確信」や 「核心」をその分野の専門家に伺います。


施設側に落ち度があった場合でもカスハラと認められることがある

 最近は介護現場でもさまざまな「ハラスメント」が問題になっています。中でもご相談件数が多いのが、ご利用者やそのご家族からのカスハラです。厚労省から委託を受けた三菱総研の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」でも、「職員に対する安全配慮義務の一環として、事業者はご利用者やご家族等からのハラスメントに対応しなければいけない」ということが記載されています。

 カスハラの難しさは、ここまでが妥当なクレームで、ここからがカスハラと明確に線引きできるものではないことです。たとえご利用者からの要求が正当なものであったとしても、その伝え方が社会的相当性を著しく欠いていればカスハラになり、暴行や脅迫、器物破損、名誉毀損に至った場合は犯罪として通報することもできます。

いきなりレッドカードを出すよりもイエロカードを出して抑止する

 こうしたカスハラ対策の一つが、カスハラ防止のための項目をあらかじめ契約書に入れておくことや、施設内ルールの整備周知を徹底することです。たとえば施設内の様子を無断で録画・録音するご利用者のご家族がいらっしゃいますが、これもあらかじめ契約書で原則禁止事項とし、あわせてホームページなど目に触れるところに掲載しておくことをお勧めします。

 一方、ハラスメントを受けた際に、証拠保全を目的として職員がその様子を録音・録画することは違法ではなく、むしろ有力な証拠となります。  またカスハラはいきなりレッドカード(退去)をつきつけて訴えるより、都度、イエローカードを出してレッドカードになるのを抑止することが大切です。

 ご利用者やご家族からの迷惑行為は介護日誌などに記録しておくようにすれば、職員間の情報共有になって予防線を張ることができたり、万一、紛争に発展した場合の重要な証拠記録ともなります。

録音・録画の制限に関する規定例
当施設では、施設内及び敷地内における録音、録画を禁止しております。特に録音、録画を希望される場合には、必ず事前に当施設の担当職員にご相談ください。ご希望に応じられない場合もありますので、ご理解賜りますようお願い申し上げます。

 

介護事故発生後は事実を正確に調べて適切な説明・謝罪を

 転倒や誤嚥などの介護事故がきっかけでカスハラにつながることもあるので、初期対応に留意しましょう。ことを荒立てたくない一心で、「とにかく平謝りしておこう」とするのは、カスハラを助長させ、問題を複雑化させることにもつながりかねません。

 何に対する謝罪かを明確にしたうえで限定的に謝罪をして、治療費などについては賠償方針が決まるまでは即答せずに「後日責任をもって回答します」と持ち帰るようにしましょう。証拠保全のために、「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように」という「5W1H」を意識して具体的に記録するのも有効です。

 またカスハラのあるなしに関わらず、事故が起きたときは、事実関係を明らかにすることが優先されます。見守りカメラの録画を検証したり、周囲にいた職員から素早く聞き取りを行うなど、施設側でもできるだけ詳しい調査を行って再発防止に努めなくてはなりません。

暴行などの犯罪行為に対しては警察に通報することも躊躇しない

 施設側が正当な謝罪や賠償をしてもクレームが収まらずエスカレートしてきた場合は、書面でのやりとりに切り替えることをお勧めします。その分、手間はかかるのですが、相手にも同じように労力がかかり、証拠として残るので、過剰なクレームが減ります。

 それでも暴行など犯罪にあたる行為があった場合には、職員や他のご利用者の安全を守るためにも警察に通報しましょう。相手がすぐに逮捕されるようなことは滅多にありませんが、警察官に説得してもらうことで落ち着きを取り戻してくれることもあります。

 

無理や我慢はし過ぎない毅然とした態度も必要

 弁護士としてハラスメントや介護事故などに関する紛争を手掛けていると、施設の方々の多くが、過剰な要求にまで無理に応じようとしたり、我慢をし過ぎていると感じることがあります。ご利用者に寄り添うことも大切ですが、最初から「できないことはできない」と具体的に契約書などに明記し、カスハラを受けたときも毅然とした態度で対応するようにすることも重要です。

 施設内の職員の誰もがカスハラを受ける可能性があります。また施設内に1人でもカスハラを受けている職員がいると、それが施設全体の疲弊につながります。職員全員が日頃から、カスハラとはどういうもので、受けたときにはどうしたらよいかを、あらかじめ知識としてもっておくことが大切です。