福祉施設SX

レクリエーションの舞台裏

第 1 回 レクリエーションの 舞台裏 いけばな・ フラワーアレンジメント

Hana花房/代表責任者 高木智奈世
プロフィール:1981年草月流入門。以後研鑽、草月流師範。 金融関係の会社で営業アシスタント業務に携わった後、花業界へ転身。ドイツ留学からの帰国後の1994年【Hana花房】を設立。保育園、小中学校、大学、高齢者施設、ワークショップなどに教授の場を広げる。

花に導かれて、笑顔と自信と
前向きな気持ちが溢れ出す

さまざまな分野でプロフェッショナルとして活躍したり、プロ顔負けの趣味をもっていたり。 そんな方々が提供してくださるレクリエーションは、高齢者施設の利用者にとって、大きな楽しみの一つ。 第一回は、花を通して高齢者に笑顔を届けることをライフワークとしている高木智奈世さんをご紹介します。

花には人をいきいきとさせる特別な力がある

 東京都墨田区でフラワースクール「Hana花房」を主宰する高木智奈世さん。いけばなやフラワーアレンジメントを教えつつ、ブライダルフラワーのコーディネートやオンラインでフラワーショップを展開するなど人生に花を取り入れるさまざまな活動を行っています。そんな高木さんのライフワークの一つになっているのが高齢者施設への出張教室です。

 高齢者の方々の中には花嫁修業の一つとしていけばなを習っていた方もいるものの「久しぶりでできるかしら」と躊躇されたり、「初めてだから不安」「男性がいけばな?」と二の足を踏む方も多いといいます。それでも高木さんのエスコートでレッスンを受けてみると、まるで花に導かれるようにいきいきとした表情になるのだそう。それは花がもつ特別な力のおかげだと高木さんは感じているそうです。

 

フラワーセラピーの効果を、高齢者施設で実感

 「花療法」「フラワーセラピー」という言葉があります。花を愛でたり育てたりすることで、ストレスを取り除き、心を穏やかにすることで不眠やイライラ、生活習慣病なども軽減させようというものです。こんなフラワーセラピーの効果を高齢者施設での出張レッスンで目の当たりにすることもあるとのこと。「どのレクリエーションにも参加しなかった方をさりげなく、というより少し無理やりレッスンに促したんです(笑)。すると、だんだん表情が和らいできて出来上がったらとてもいい笑顔に。お誘いしてほんとうによかったと思いました。」

 血圧が高めで横になりがちだった方がレッスンに参加することで気分がよくなった、と言ってくださったこともあるそうです。

 

五感も、脳も、手先も刺激して記憶を呼び起こすことも

 いけばなやフラワーアレンジメントのよさは花を使って作品を作ることにあると高木さんは語ります。

 「目で花を愛で、手で花を触り、さらに芳しい花の香りに満たされて、まさに五感を使って楽し めるのがいけばなやフラワーアレンジメント。特に高齢者の方々にはセラピー以上のよい影響がたくさんあります。

 手先を使って花をいけることによって、脳が刺 激を受け、普段は眠っているさまざまな感覚が呼び起こされます。かつていけばなを習っていた方なら、しばらくお稽古から遠ざかっていても蓄積されている記憶が蘇るものなんですね。時間にゆとりが生まれた今こそ、もう一度楽しんでみたいとおっしゃる方もいらっしゃるんですよ。」

 

みんなで作品を作ることで笑顔が連鎖していく

 自分の作った作品を眺めたり互いに鑑賞しあうことも、いけばなやフラワーアレンジメントの醍醐味です。

 「作品が完成すると満面の笑みが溢れ出します。自分の作品を前にすると皆さんその場を離れることができなくなり、レッスン時間を過ぎてもいつまでも花を眺めていらっしゃいます。花材は同じでも、いける方が違えば作品の出来上がりもさまざま。お互いの作品を見比べながらその個性の違いに驚き、花の表現の多様さに改めて感じ入っているご様子です。」

 作品を嬉しそうに見ている高齢者の方々を見るたびに、花は人を幸せにして、笑顔を連鎖させていくと改めて気づかされるそうです。

 

作品を多くの方に見ていただくことも励みに

 いけばなとフラワーアレンジメントの両方を教えられる高木さんは、施設に合わせて両者を教え分けています。

 入所型の高齢者施設では、入所者やスタッフ、面会に来たご家族などにもいけばなを見ていただけるように名札を立てて飾っています。自分の作品を多くの方に見ていただけることは制作者にとって大きな励みと喜びになるからです。

 デイサービスでは持ち帰りやすく、自宅でも楽しめるフラワーアレンジメントを制作。「妻に見せたい」「孫にあげたい」と嬉しそうにそわそわする様子も見られるそうです。

レクリエーションに使う花は生命力に溢れた旬のものを

 「瑞々しく新鮮な花は力強い生命力に溢れています。花を愛で、いけることは、まさに花のエネルギーを受け取ること。だから、このエネルギーをより一層多く感じていただけるように、高齢者施設でのレクリエーションに使う花は、四季に応じた旬の花を準備し、花の美しさ、生命力をたっぷりと味わっていただくことを心がけています。」

 

前向きな気持ちは生きる 活力となり、健康状態も向上

 ゆっくり時間を紡ぐことができる高齢者にとって、花と向き合う時間はかけがえのないひとときになっています。

 「自分がいけた花を皆さんに見ていただけることで新たな自信がつき、誇らしい気持ちが芽生えて、もっとみんなに見てもらいたいと前向きな気持ちが湧き上がります。

 新たになにかを継続して行おうとする前向きな気持ちは生きる活力となり、肉体的にも精神的にも健康状態が向上するという、他では得がたい効果があるはずです。そう確信して、私はこれからも高齢者施設での花のレクリエーションを続けていきたいと思っています。」