皆さんにとって身近な介護の世界は、映画やドラマによってどのように描かれているのか…。介護の日常にスポットを当てた映像作品の数々から、日々のヒントを見つけてみよう。

カメラを通した介護の世界は日常の問題を描き出してくれる

プロフェッショナルの皆さんにとって、介護は日常である。だが映像とは、カメラを通すことによって、俯瞰でものを感じ取ることができ、新たな気付きを与えてくれる“装置”なのだ。だからぜひ、この特集で取り上げた介護をテーマにした作品を見てほしい。きっと普段感じ取ることのできない問題が見えたり、それを解決するヒントが浮かんでくるはずだ。

介護の世界を映画＆ドラマで再発見！

休みの日、ちょっと映画でも見てみるか…。そんな映画の中にも、介護のヒントは隠されている。過去の名作から期待の新作まで、“気付き”を与えてくれる映画・ドラマの数々を紹介します！

01 ドキュメンタリーで描かれる介護の今

さまざまな“介護の現実”を照らす

ドキュメンタリーは現実を照らす鏡である。妻を介護する夫と家族の姿をユーモアを交えて描いたドイツ作品「わすれな草」、認知症の母と体当たりで過ごす日々をつづる「毎日がアルツハイマー」は家族介護の現実を描く。「パーソナル・ソング」は注目される認知症患者への音楽療法に迫る作品だ。

「99歳 母と暮らせば」 映画 2019年公開

食べることが好きで、料理も裁縫もこなし、いつもニコニコしているキュートな99歳のおばあさん。だが、彼女は認知症なのだ。そんな母と同居することにした71歳の息子（谷光章監督）。母は時にお鍋を焦がしたり、失禁をしたりもする。でも、どんなときにも慌てず騒がず、息子は優しく見守る。そんな約1年間の記録。これまでと同じリズムで生きようとする母に寄り添う、家庭介護のカタチを提示している。

この作品も注目

「わすれな草」

DVD
2013年・ドイツ
発売元：ノーム／販売元：紀伊國屋書店
4180円　発売中

「毎日がアルツハイマー」

DVD
2012年・日本
発売元：シグロ／販売元：紀伊國屋書店
3300円　発売中

「パーソナル・ソング」

DVD
2014年・アメリカ
発売・販売元：日本コロムビア
4180円　発売中

©イメージ・テン（99歳 母と暮らせば) ©Lichtblick Media GmbH 2012(わすれな草) ©2012 NY GALS FILMS(毎日がアルツハイマー) ©ALIVE INSIDE LLC 2014(パーソナル・ソング)

02 さまざまな視点に共感する介護のカタチ

誰の視点で介護の問題を考えるか

優れた物語は、客を登場人物の視点へいざなうもの。若年性認知症に見舞われた夫と家族の姿を描く「オレンジ・ランプ」（来年公開）、認知症となった大好きな祖母と孫の物語「ばあばは、だいじょうぶ」、がんの夫と認知症の妻との絆を映す「八重子のハミング」。あなたは誰の視点で介護問題を考えるだろうか。

「百花」 映画 公開中

妻（長澤まさみ）の出産を控えた泉（菅田将暉）の母・百合子（原田美枝子）が認知症となる。介護の覚悟を持つ中で、泉は母子の関係を複雑なものにした出来事の真相に迫る。失われる記憶の中であふれ出す愛情と、苦しみの数々。自身も認知症の母を見つめるドキュメント「女優　原田ヒサ子」を撮った原田美枝子の演技には注目。記憶を失っていく母と向き合う息子の姿には胸が締め付けられるものがある。

この作品も注目

「オレンジ・ランプ」

映画
2023年・日本
配給：ギャガ
2023年全国ロードショー予定

「ばあばは、だいじょうぶ」

DVD
2018年・日本
発売元：グローバルジャパン／販売元：ミューズ・プランニング　
4180円　発売中

「八重子のハミング」

DVD
2016年・日本
発売・販売元：ギャガ
4180円　発売中

©2022「百花」製作委員会（百花) ©2018「ばあばは、だいじょうぶ」製作委員会(ばあばは、だいじょうぶ) ©Team『八重子のハミング』(八重子のハミング)

03 笑って楽しく、元気をもらう介護のヒント

笑って泣いて、元気をくれる喜劇

難病なのに奔放な生きざまを貫く「こんな夜更けにバナナかよ」、認知症の母と漫画家の息子のおかしな日常を描く「ペコロスの母に会いに行く」、大富豪と介護する男のバディもの「最強のふたり」。笑って泣いて、そして前向きな気持ちにさせてくれる喜劇は、見る者に元気とヒントを与えてくれる。

「我らがパラダイス」
ドラマ NHK BSプレミアムで2023年1月8日（日）スタート

介護付き高級マンション、セブンスター・タウン。そこで働く朝子（木村佳乃）、さつき（高岡早紀）、邦子（堀内敬子）の3人はそれぞれ家族の介護問題を抱えていた。ここに住むお金持ち老人たちと自分の親の、何が違うというのか？そんな3人はある計画を実行に移す──。林真理子の同名原作は現実問題をちりばめながらもポジティブにさせてくれるコメディー。誰もがいつか抱える問題である“介護”は、決して遠い存在ではないと気付かされる。

この作品も注目

「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」

DVD
2018年・日本
発売・販売元：松竹
4180円　発売中

「ペコロスの母に会いに行く」

Blu-ray／DVD
2013年・日本
発売・販売元:TCエンタテインメント
6264円（Blu-ray豪華版）／4180円（通常版）　発売中

「最強のふたり」

Blu-ray／DVD
2011年・フランス
発売・販売元：ギャガ
2200円（Blu-ray）／1257円（DVD）　発売中

©2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会(こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話) ©2013『ペコロスの母に会いに行く』製作委員会(ペコロスの母に会いに行く) ©2011 SPLENDIDO/GAUMONT/TF1 FILMS PRODUCTION/TEN FILMS/CHAOCORP(最強のふたり)

04 エンターテインメントで描かれる介護問題

エンタメは社会を映し出すかがみ

娯楽作品として描かれることで、社会の問題の本質が伝わることは多々ある。ドラマ「俺の家の話」は介護を巡る親子の問題を見せ、SFアニメ「老人Z」も未来の介護問題を予言した。「老人ファーム」は気の強い女性入居者によって変わっていく気の弱い介護士が、鬱憤を晴らす苦く、悲しい物語である。

「ロストケア」
映画 2023年3月全国ロードショー
配給：日活 東京テアトル

老人と訪問介護センターの介護士が殺された事件で逮捕されたのは、同じセンターの介護士・斯波（松山ケンイチ）。献身的な介護士として慕われる彼の周りで、事故が多いことを突き止めた検事・大友（長澤まさみ）は彼と対峙する──。介護問題を徹底的に突き詰め、社会に大きな波紋を投げ掛けた、葉真中顕による社会派小説の映画化。介護される側の“救い”について考える作品。

この作品も注目

「俺の家の話」

Blu-ray／DVD
2021年・日本　
発売元：TBS／発売協力：TBSグロウディア／販売元：TCエンタテインメント
2万9040円（Blu-ray BOX）／2万2990円（DVD BOX）　発売中

「老人Z」

DVD
1991年・日本　
発売元：アニプレックス／販売元：ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
5134円（HDマスター版）　発売中

「老人ファーム」

配信　U-NEXTほか
2019年・日本

©2023「ロストケア」製作委員会（ロストケア) ©TBSスパークル/TBS(俺の家の話) ©TOKYO THEATERS CO.,INC.／KADOKAWA SHOTEN PUBLISHING CO,.LTD.／MOVIC CO.,LTD.／TV Asahi／Aniplex Inc.(老人Z) ©MINO Bros.（老人ファーム）

取材・文＝一角二朗／撮影＝後藤利江（信友直子監督）