アーカイブ
第4回 大阪府堺市 社会福祉悠人会 特別養護老人ホーム ベルアルプ
2022.07 老施協 MONTHLY
独自の取り組みでキラリと光る各地の高齢者福祉施設へおじゃまします!
※令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)入賞施設を取材しています
複合型医療福祉施設の中にある特別養護老人ホーム
医療と福祉の連携によりワンストップサービスを提供
大阪府の南に位置する、大阪市の次に人口が多い政令指定都市である堺市。その住宅街の中に、総敷地面積1万8768㎡という巨大な複合型医療福祉施設「ベルアンサンブル」がある。
ベルアンサンブルは、社会医療法人生長会によって’12年に設立、「ベルピアノ病院」、特別養護老人ホーム「ベルアルプ」、サービス付き高齢者向け住宅「ベルヴィオロン」、地域連携・在宅療養支援センターといった施設によって構成。医療と福祉の専門職が、一カ所に集結し、連携することにより、ワンストップサービスの提供が可能となっているのが特徴だ。
その中で、ベルアルプは、社会福祉法人悠人会によって運営されており、「その人らしさを大切に 笑顔あふれる生活を」を理念に、特別養護老人ホーム(定員80人)、ショートステイ(定員20人)、デイサービス(定員30人)などの事業を行っている。
建物は、鉄筋コンクリートの3階建て。延床面積は、3427.44㎡。居室は全てトイレ付きの個室であり、1階はショートステイの20室とデイサービス、2階と3階はそれぞれ40室ずつの合計100室となっている。
まるでホテルや旅館のように居心地のよい空間
まず、エントランスを入って驚くのは、まるでホテルのロビーのように豪華で大きなエントランスホールだ。ここは全ての施設共用となっており、大きくゆったりとしたソファや観葉植物が並び、グランドピアノも設置されている。ここから、各施設に入っていくことになる。また、隣には、芝生のある広い中庭があり、ウッドデッキで利用者や職員がくつろぐことができるようになっている。
そして、ベルアルプに入ると、廊下からリビング、居室に至るまで、木目が多用され、木製家具で有名なカリモク家具の製品も導入されており、ぬくもりのある空間となっている。これは、施設の冷たいイメージを払拭し、利用者に家にいるような気分となってもらうために行っているという。他にも、間接照明を設置したり、ユニットの名前も“茜あかね”や“桧ひのき”などと名付け、灯籠など、さながら高級旅館のような雰囲気である。
ICT機器の導入も以前から進んでおり、利用者の睡眠状態をモニターするセンシングウェーブを活用するなど利用者のさまざまなデータを収集し、ネットワークで共有。また、スタッフは、タブレットPCを無線LANにつないで、利用者のそばで仕事をすることにより、利用者を安心して見守れる体制を構築している。
スタッフは、男女比がほぼ5対6。外国人の採用は、現在、ベトナム人の特定技能1人、技能実習生4人の合計5人が在籍中だ。
利用者のほとんどが地域住民である地域密着型の同施設では、近年はコロナ禍により自粛しているが、ベルアンサンブルにある地域交流ホールで認知症の方とその家族を招いて“ぬくもりカフェ”を開催、エントランスホールでピアノ演奏会を開催するなど、地域住民との交流を大切にしている。
認知症利用者のBPSDに対する新たな取り組み
ショートステイでは、認知症利用者のBPSDに対する新たな取り組みを始めた。これは、利用者の機嫌とBPSDの発現を数値化し、その相関関係をデータ分析して、スタッフ間で共有。また、利用者の家族からヒアリングをすることによって、その背景にある思いもきめ細かにアセスメントするというもの。さらに、医師とも連携し、投薬の調整も行っている。
結果、BPSDは軽減、スタッフは対症療法ではなく、統一した対応ができるようになったという。
今後は、ICTを活用し、さらに精度を高くしていくほか、それぞれ個別の事情に合わせて意識的にケアしていくそうだ。
【キラリと光る取り組み】
「ショートステイにおけるBPSDに対する取り組みについて」
「令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)」最優秀賞受賞
ベルアルプ 介護福祉士 橋本慎太郎さん インタビュー
ーーこの取り組みを始めたきっかけは?
橋本:今回の取り組みの対象者であるAさんは、認知症により、短期記憶障害、帰宅欲求による徘はいかい徊行動があります。これまでのスタッフの対症療法だけではなく、評価、分析から共感的理解にて何とか対応していたのですが、家に帰れないことへのいら立ちから、他の方の部屋に入ったり、他の利用者やスタッフに対して暴言を吐くなど、BPSDに伴って周りの方に及ぼす影響が大きく、Aさん自身も私には苦しそうに見えたのです。また、私たちが担当しているのがショートステイということで、家に帰られる日まで何とか対処すれば、というどこか甘えがあったのかなという気付きもあって、もっと深く関わりを持とう、アセスメントしてみようというのが、最初のきっかけでした。
ーー今回の対象者であるAさんに関してはまず何から取り組まれたのでしょうか?
橋本:基本的には、Aさんに対するデータ収集、いわゆるアセスメントを中心に実行しました。Aさんが利用されて半年くらい経過した時点で始めたのですが、スタッフ間でコミュニケーションを取る中で、大体この時間くらいにいつもBPSDが出てくるよね、というのがあって、それはどこでスイッチが入るのか、というのを30分ごとに調べるようにして、取り組みました。さらに、日中だけではなくて、夜間の睡眠の状態だとか、飲まれている薬だとか、あとはAさんがなぜそんなに帰りたいのかという思いに焦点を当てて、多角的にアセスメントしました。
ーー機嫌点数とBPSD回数という比較的比例する2つのデータを取る理由とは?
橋本:基本的にその2つのデータはそんなに変わらないのですが、機嫌が悪いイコールBPSDが現れるということなのかどうか証明がしたかったのです。それがイコールなのか、比例するのか。では、機嫌が良くなれば、徘徊行動が収まるのかというと別の話だと思うのです。Aさんは家に帰りたいので、機嫌はいいのです。でも、歩き回って、他の方の部屋に入って、施設の外へ出られる出口がないか探すという行動も見られたので、その辺も含めて2つのデータを取っています。
ーーこの取り組みの成果はどうでしたか?
橋本:成果としては、BPSDはいくらか軽減はされたのですが、全くなくなったかというと、そうではないです。ただ、ずっと対症療法をしていて、スタッフが話を聞くだけだとか、家事的な作業をやってもらったら機嫌が良くなるとか、スタッフによって対応もまちまちだったので、Aさんがどうしてそのような行動をするのか理解しての対応とそうではない対応は全く違ってくると思い、そこもカンファレンスを交えて詰めていくことで、統一した対応を見いだしていくことができるようになりました。
ーーご家族へのヒアリングなどもされて情報を共有されたそうですね?
橋本:ご家族と面談する中で、データを見てもらって、この時間は大体母がお弁当を作っていたとか、この時間は私たちが帰ってきてそれまでにご飯を作らなくてはいけないとか、答え合わせができ、自分の心配はあまりされず、家族の心配をされる方であることが分かりました。それをスタッフで共有して、家でやっていたことをショートステイでもやってもらったら、気持ちが落ち着いたということがありました。ご家族に来ていただいて、ショートステイでの生活を知ってもらうというのもありましたが、いい機会をもらいました。
ーー今後はさらにどんな取り組みをされていきたいというお考えですか?
橋本:最近導入したセンシングウェーブで夜間の睡眠の状態も把握するなど、ICTを活用してもっと精度を高くしていけたらと思っています。また、ショートステイを利用している方の理由にも目を向けるなど、それぞれ個別の事情に合わせて意識的にケアしていくよう心掛けたいと考えています。
社会福祉法人悠人会 特別養護老人ホーム
ベルアルプ
〒593-8315
大阪府堺市西区菱木1丁目2343番16号
TEL:072-349-6710
URL:https://www.yujinkai.com/
[定員]
特別養護老人ホーム:80人
ショートステイ:20人
デイサービス:30人
撮影=山田芳朗/取材・文=石黒智樹
社会福祉法人悠人会
1955年に設立された社会医療法人生長会を母体として、「愛の医療と福祉の実現」を理念に1981年に設立。1982年に特別養護老人ホーム「ベルファミリア」を設立したのをはじめとして、多数の福祉施設を運営。さらに、在宅介護にも早い段階から取り組んでいる。